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組織に貢献する経営チームへの変革
室内の空気は緊張に包まれていた。2020年、ある大手製薬企業(ここではファーマ・グローバル(PG)*と呼ぶ)の米国外部門の経営幹部チームが、年次リトリートのためにフランクフルトに集まっていた。
彼らは2年にわたって大胆な変革をめぐる議論を重ねてきた。実現すれば、意思決定のあり方を根底から変え、組織をフラット化し、従業員に権限を委譲する改革である。ただし、終わりの見えない議論と広範な分析を繰り返しながらも、同社はその一歩を踏み出せずにいた。
コーヒーブレイクの最中、同社のトップであるジェリックが、7つの関連会社を統括する同僚のジョルジオに問いかけた。「とりあえず始めてみてはどうだろう。どうなると思いますか」
シンプルな問いかけだったが、この一言が議論の流れを一変させ、組織が一歩を踏み出す契機となった。
ジェリックとジョルジオが直面していたジレンマは、多くの経営幹部が経験するものだ。明確なデータも、確立された道筋も、成功の保証もない状況で、どうすれば未知の世界への一歩を踏み出せるのか。検討中の変革が前例のない試みである一方、確信が持てるまで待ち続けていては何も変わらないという状況で、どうすべきなのだろうか。
筆者らは、多くの組織がこうした問いにぶつかり、苦悩する様子を長年、目の当たりにしてきた。そして、PGの変革を5年間にわたって調査する中で、経営チームが高リスクかつ不確実性の高い変化を乗り切るための重要な知見を得ることができた。本稿では、PGでの経験から明らかになったよくある「罠」と、自信を持って前進するためにリーダーシップに求められる重要な変化について紹介しよう。
第1の罠:最初の一歩について考えすぎる
2010年代までに、PGは事業の大きな転換期を迎えていた。競合他社と同じく、同社も長年、少数のブロックバスター薬に依存してきた。だが、大型買収によってR&Dパイプラインが拡大すると、同社の商業部門は新たな課題に直面した。複雑さを増しながら拡大し続けるポートフォリオをどう管理するかという課題である。
俊敏な対応が求められる局面だったが、同社に昔から根づいていたトップダウン型の組織文化と官僚的なルールが、それを阻む障壁となっていた。効率性を担保する狙いで定められた厳格なコンプライアンスや調整の仕組みが、かえってボトルネックを生み、意思決定を遅らせていたのである。
変革の必要性を裏づけるため、PGの経営幹部チームは大手コンサルティング会社2社を起用した。彼らの提言は一致していた。アジャイルな対応を可能にするために大規模な組織再編が必要だというものだ。しかし、コンサルタントが評価結果を提示してから2年経っても、経営チームはなお、さらなるデータ、さらなるベンチマーク、さらなるリスク評価を求め続けていた。







