「戦略を策定する」と言う際、必ずと言っていいほど成長路線が前提になっているのではないか。経営戦略論の系譜をひも解いても、ライフサイクル別の各論はあっても、経済環境別の各論は影が薄いことに気づく。かように経営戦略を語るうえで、右肩上がりの経済が前提になっている。
しかしいまや日本は長期的な低成長期の真っただなかにいる。このような低成長経済において有効な戦略はあるのだろうか。筆者の三品和広教授は、現業の延長線に事業を広げることはけっしてリスクが低いとはいえないと言う。むしろ重要なのは、慣れ親しんだ事業を維持するよりも、たえず挑戦的な要素を事業に加え続けること。合わせて、そのような舵取りのできる経営人材が必要であることを強調する。
人材の育成には時間がかかるので悠長な議論と映るかもしれないが、10年後を見る企業にとって、それが最優先の課題になるであろう。この低成長下の経営戦略論は、世界に先駆けて日本に課された新たな課題である。