AIを使うほど不安になる組織の矛盾
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サマリー:企業の88%がAIを活用する一方、現場での導入は停滞し成果も伸び悩んでいる。背景にあるのは、職の喪失や自己価値の低下を恐れる「AI不安」という心理的障壁だ。本稿で紹介する調査では、従業員の約8割が強い懸念を抱き、この不安が自己防衛的な利用を招いている実態が示された。リーダーは利用率という表面的な指標に惑わされず、業界特有の心理的背景を理解し、従業員が未来に確かな居場所を見出せる環境を構築する必要がある。

AI利用率だけ見ていると真意を読み違える

 ほとんどの業界の企業はAIに多額の投資をしており、AIを日常的に利用していると回答した企業は88%に上る。ところが、多くのリーダーはお馴染みの不満を述べている。AIの導入は停滞し、成果の向上は頭打ちとなる。従業員は新しいツールを試してはみるものの、実際の仕事のやり方に深く組み込むことはなく、経営陣はROI(投資利益率)への懸念を募らせている。

 筆者らの研究によれば、これは実行における偶発的な失敗ではない。AIが人々の職、アイデンティティ、将来にどう影響するのかをめぐる産業界特有の不安が引き起こす、予測可能な心理的パターンである。

 AI導入がなぜ停滞するのかを突き止めるために、フラクショナル・インサイツとフェラッツィ・グリーンライトは協力し、米国と欧州の従業員を対象に2つのアンケート調査を実施した。一つはクエスチョンプロと提携して2025年秋に実施した、2000人以上の回答者を対象とする国際比較調査であり、もう一つは2025年春に実施した米国限定の1000人への調査である。両調査の回答者が属する業界は、ヘルスケア、テクノロジー、金融、製造、小売り、教育、ホスピタリティなど多岐にわたる。

 国際比較調査では参加者に、職場でのAI導入行動と、AIに対する感情について尋ねた。たとえば、AIは雇用の安定に関する懸念や、自分が置き換えられることへの不安を感じさせるか、従業員としての自分の価値を低下させるか、同僚との人間的つながりを制限しているか、自分の知的能力を妨げているか、などの質問が含まれる。

 筆者らはこれらの結果を総合し、「AI不安」と呼ぶ測定指標を作成した。5段階評価の10項目を用いて、雇用の安定、専門家としての価値、および成長に関してどれほど脅威を感じているかを測定する指標である。

 10人中およそ8人の従業員は、少なくとも一つのAI不安の項目で強い懸念を抱いていた。たとえば、65%は「自分よりもAIの使い方に精通している誰かに、置き換えられるのではないかと不安である」に同意し、61%は「AIのせいで、自分は独自の価値を提供していないと周囲に思われるかもしれない」と心配している。60%は「仕事をAIに手伝わせると、同僚に自分の能力を疑われるのではないか」との懸念がある。

 AIが職場での他者とのつながり方に影響を及ぼしていると感じる人は54%、AIのせいで「頭が悪くなっている気がする」という人は44%に上った。従業員の3人に1人は、AI不安の総合スコアが平均して4以上だった。

 全体として、AIは多少なりとも仕事を向上させると感じている人は約86%、AIは仕事の体験に影響しない、または負の影響を及ぼすと感じている人は14%を占めることが明らかになった。

信念と不安の矛盾

 しかし、ここで非常に重要な洞察がある。AIのビジネス価値を信じることは、従業員が自分の将来について安心感を抱くことを意味するわけではない。10人中およそ4人はAIのビジネス価値を強く信じていると同時に、AIが自分自身の安定と存在意義にどう影響するのかについて懸念を抱いているのだ。

 AIに対するポジティブな中核的信念とAI不安は、その人物がどの業界に属しているのかによって予測できる傾向がある。ポジティブな中核的信念のスコアが最も高いのは金融、テクノロジー、ヘルスケアの人々であった。教育、製造、小売り、政府系機関の人々はAIに対してより悲観的な見方を示す傾向があった。