次世代の経営者に求められる
戦略提言力とリーダーシップ

 こうした環境に適応していく上で、次世代の経営者に求められている資質とは、「戦略提言力」と「リーダーシップ」の2つであろう。多くのトップは、自社のリーダーに関して、現場を知り尽くしてはいるものの、会社の将来を託せるかどうかという点では不安を感じている。混迷きわまる環境の中で自社をどうしたいのかについて、戦略を提言できる人材が不足しているのだ。

 また、戦略の提言に留まらず、それを実行することが重要なのだが、価値観や考え方の異なる多くの人に対してリーダーシップを発揮し、組織を動かすことが益々難しくなってきている。右肩下がりの時代において終身雇用制は、既得権意識やリスク回避につながりやすいからだ。その一方で、管理職登用のタイミングの遅れと若手の採用減により、中堅層がリーダーシップを習得できる機会は著しく減っている。

 リーダーシップのない戦略提言は評論の域を出ず、戦略のないリーダーシップでは現場の軍曹の域を出ない。この2つを兼ね備えていてはじめて次の時代を切り拓くことができるのだ。次世代経営者に求められるこの2つの資質の内、今回は戦略提言力を取り上げ、次回はリーダーシップを取り上げることにしたい。

 いま求められる戦略提言力とは、過去に確立されたフレームワークや他社事例などの「定跡」を自社の事業に適用することではない。情報伝達速度が飛躍的に高まった今日、定跡はすでに誰もが知っており、そこでは差別化できなくなっている。このため、ライバル企業との戦いは、お互いに定跡を打ち消し合った末に、定跡のない世界に入っていく。そこで先に勝ち筋を見出した企業が勝つのである。いま求められる戦略提言力とは、初めて遭遇する局面の中で、勝ち筋を見出す力といえるだろう。