見えにくいところにこそ
勝ち筋がある

 また、企業にとって見えやすい切り口と、見えにくい切り口がある。国内市場や既存事業領域は、データや統計も揃っていて隅々まで見えるが、新興国市場や新規事業領域は、エリア別・ルート別の市場規模やシェアを聞かれてもなかなか答えられない。部品メーカーの場合、買い手であるセットメーカーのことはよく見えるが、エンドユーザーの側からものを見ようとすると、途端に見えにくくなる。ましてや「熱狂的なユーザーの数」など、よほど意識して見にいかないと、何も見えてはこない。

 真面目な人ほど、データや情報の揃った角度からものを見ようとする。また、その方が傍(はた)から見ていても堅実な仕事をしているように見える。しかし、環境が変わりゆく局面においては、それだけでは勝ち筋は見えてこない。その結果、自社にとって見えない死角から、他社が攻撃を仕掛けてくることになる。過去に成功した企業にありがちなことだが、よく見える角度からだけものを見ることは極めて危険だ。むしろ、いま見えていない切り口から事業構造を見にいくことが、真に有効な打ち手の発見につながる。

「色即是空 空即是色」という言葉がある。「色メガネでものを見る」というが、ここでいう「色」とはものの見方のことを意味する。我々は知らず知らずのうちに、ある角度からのものの見方が絶対的に正しいと信じ込む傾向がある。しかし、環境が変わってしまえば、それが全く意味をなさなくなることもある。むしろ固定観念が自社の変革を妨げる危険すらある。つまり、普遍的・絶対的に正しいものの見方などありえないことをいっているのが「色即是空」だ。

 しかし、一旦多様なものの見方が成り立ちうることを理解すれば、今度は逆に、ひとつの事柄を見ても、様々な着想が湧くようになり、多面的に物事を解釈できるようになってくる。そうして世界が色とりどりに映るようになる。これを「空即是色」という。