無意識の世界を活性化する
観察と実験がそれを可能に

 我々の大脳の活動の中で、我々自身に意識できる領域は20%しかないといわれる。つまり、80%の活動は無意識の世界で行われているのだ。例えば、風呂に入っている時などに、突然いいアイデアがひらめくことがある。思いついたアイデアは意識することができても、なぜ風呂に入っている時にそのアイデアが湧きあがってきたのかは自分にも分からない。まだ思い浮かんでいないアイデアもあるはずだが、それが何かも分からない。なぜなら、アイデアを形成する過程は、80%を占める無意識の世界で行われているからである。

 こう考えてみると、我々が意識できることはごく一部であり、意識すらできないことが数多くあることに気づく。我々は意識して選択を行っているように感じているが、たまたま頭に思い浮かんだ選択肢の中からひとつを選んでいるにすぎない。頭に思い浮かばない多くの選択肢が存在することに気づいていない。思い浮かばない選択肢は、選ぶことすらできないのだ。同じ現象を見ていても、人によって気づくことが違う理由はここにある。

 いま求められている戦略提言力は、自分に見えていない着眼点を見出す力に他ならない。それを鍛えようとすれば、意識の世界で考えるだけでは意味がない。大脳の80%を占める無意識の世界を活性化させる以外に方法はないのだ。

 これを可能にするのが観察と実験である。新しい事業や市場を開拓する時は、まずその市場に入り込んでいって、起こっていることを徹底的に観察する必要がある。もちろん、1~2週間観察したからといって、何かを発見するわけではない。ただ、その間に、従来は触れることのなかった新しい刺激が、五感を通じて脳内に入ってくる。我々の無意識の世界は、そうした新しい刺激の断片をいち早く捉え、すり合わせを始める。

 そのため、1~2ヵ月ぐらい観察を続けていると、ある時突然何かに気づく瞬間が訪れる。「この市場では、なぜこういうことが起こっているのだろう」。これが、無意識の世界が新しい着眼点を意識の世界に投げ込んできた瞬間である。こうした着想が湧くようになると、様々な仮説を立てることが可能になる。そして、実験によってそれを検証することもできるようになる。こうした過程の中から新しい発見が生まれ、異なる角度からものを見ることが可能になっていくのだ。