同じ業界でも企業によって
事業構造の捉え方は異なる

 そこで助けになるのは、自社の事業構造(市場構造や収益構造)を深く洞察する力である。例えば、ひとくちに売上高といっても、サムスンはそれを「Σ(新興国の市場規模×自社のシェア)」と見ている。こうした切り口から見ると、新興国市場で一番のシェアを取ることが企業価値を増やすドライバーとして浮かび上がってくる。そのため、地域専門家という新興国市場の目利きを4000人以上も育て、国毎にスペックや価格帯、品質基準までも異なるモデルを投入することが戦略の骨子となっている。また、テレビだけでも1000モデルに及ぶ多様な品目を開発・製造してもコストが膨張しないよう、徹底した設計のモジュラー化を進めている。

 これに対して、アップルは自社の売上高を「熱狂的ユーザー数×顧客あたり購買額×ネットワーク効果による乗数」という切り口で見ている。このため、熱狂的ユーザーを惹きつける製品デザイン、顧客あたりの購買額を引き上げるオープンプラットフォームによるコンテンツやアプリの品揃えなどが、収益ドライバーとして浮かび上がってくるのだ。そして、コンテンツの拡充がユーザー数の増加を促し、それがさらにコンテンツの増加につながるという乗数効果を生み出している。

 このように、同じ業界の中で、同じ製品をつくっている企業であっても、自社の収益構造の捉え方は全く異なる。それによって各社が見い出す打ち手も違ってくるのだ。環境が大きく変わる局面では、最も環境に適した事業構造の見方を発見した企業が勝ち残る。

 自社の収益構造を、「Σ(製品別売上高-製品別コスト)」などといった形で見ていないだろうか。こうした見方は、社内にデータが豊富にある分、最も楽な見方といえる。しかし、ここからは「新興国」や「熱狂的ユーザー」といった顧客の顔は見えてこない。その結果、売上が上がらなければ、コストを切るぐらいしか収益ドライバーが見えなくなっていく。事業構造をどう捉えるかによって、目に見える収益ドライバーが違ってくるのだ。