機能する取締役会は「対立」を歓迎する
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サマリー:取締役会は、多様性が意思決定の質の向上や集団思考の防止に不可欠であると認識している。しかし、心理的安全性の欠如などから、個々の能力を十分に活かせていない組織は少なくない。筆者らが取締役30人を対象に行った調査では、誰もがありのままの自分で価値を認められる「包摂的な文化」の構築が、これらの課題を解決するカギであることが示された。

取締役会が効果的に機能するために

 本稿は、ハーバード・ビジネス・スクールのワーキング・ナレッジによって作成されたものです。

 取締役会は、革新的な問題解決のために多様な人材や視点、背景、スタイルが欠かせないことを認識している。多種多様な見解が存在することによって、意思決定の質や創造性を低下させる集団思考や盲点を防げるからだ。

 だが、多様性は対立をもたらすこともある。取締役会のメンバーの中でも、新任の人、経験の浅い人、性別・年齢などの人口学的属性が異なる人は、心理的安全を感じていないことがある。特に自身の見解が多数派の見解に反する場合はそうである。彼らが不安を感じるのはもっともなことだ。多くの取締役会は、多様な見解による活発な議論や、そのような議論のメリットを活かせていない。すべてのメンバーの能力を引き出し、有能なチームを形成するためには、何が必要なのだろうか。

 こうした問いを深掘りするために、筆者らは経験豊富な取締役30人と一対一またはグループで面談した。対象者の約半数は黒人で、40%が女性だった。彼らはそれぞれ優良企業120社で取締役を務めている。これらの企業の時価総額は合計18兆ドルに上る。4社以外は米国で上場していて、約60%はS&P500に含まれている企業だ。

 筆者らは、真に包摂的(インクルーシブ)な取締役会の文化を醸成するのに必要な条件について、いくつかの真実を学んだ。包摂的な文化とは、ある取締役の言葉を借りると、誰もが「ありのままの自分で価値を認められている」と実感できる文化である。

包摂には努力が必要

 ある取締役は、「包摂性とは、数ではなく精神の問題」だと言った。本当の意味で包摂的な取締役会では、意見を自由に表明できるだけではなく、独創的な知見が意思決定に活かされる。ただし、筆者らの研究では、視点が多様であるほど、熟練したリーダーシップが必要となることがわかった。また、メンバーは多様な意見から生じる対立を「解決すべき問題」ではなく、斬新な思考をするための材料として捉える必要がある。意見の違いにうまく対処できないと、意思疎通の行き違いや誤解につながりかねない。

「単に話を聞いてもらっている」のではなく、「本当に理解してもらえている」と感じることを妨げる要因は、実は気づきにくいものかもしれない。ある取締役会会長は、有能な人材を揃えて取締役会を慎重に構成したのだが、一部の取締役が自分の意見は他の人々と同じ重みで扱われていないと感じていることを、彼らとの会話から知って驚いた。

 以下は、当たり前のことに思えるかもしれないが、あえて繰り返し指摘しておきたい。

小さな軽視が積み重なる

 冷淡なまなざしをそそぐ、誰かが話している時に携帯電話をチェックする、他の人の発言に反応しない、などは、どれも一見すると些細で、おそらく無意識に取られる行動だろう。だが、相手に対する敬意の欠如が伝わり、結果的に発言者や発言内容をおとしめることがある。

包摂は意識的につながることから始まる

 たとえば、同僚の意見をよく理解できなかった時は、意見を無視するのではなく、「もう少し聞かせてください」と言って、詳しい説明を促す。ある同僚の意見がまだ議論に組み込まれていなかったら、そのコメントを補強する発言をする。口数の少ない取締役を、次回のミーティングの前にコーヒーに誘う。いつものように長年の同僚の隣の席に座るのではなく、新任の取締役の隣に座る。大切なのは、古い習慣を捨てて、より健全な取締役会の文化をつくる機会にすることだ。

過去の取締役会の経験がすべてではない

 企業は取締役の候補者を全体的な視点で見ており、その人独自のスキルや経験、現職の取締役や主要なステークホルダーをどのように補完できるかを考慮する。取締役になる人は誰でも、関連するビジネスの専門能力以外に、次の資質を備えているべきだ。

・同僚や経営陣と効果的な関わりができる対人スキル
・賛否の分かれる問題であっても提起する勇気
・人の話に耳を傾け、みずからのエゴを抑える能力