「数字」より「筋」
戦略は一義的には競争の中で長期利益を獲得するための手段だ。だから、「戦略」というと、ドライというか、殺伐としているというか、「従業員の働きがい」などそっちのけでひたすら利益をぐりぐり追求するものという語感がある。働きがいのある会社と戦略が優れた会社の一致は意外にみえるかもしれない。
しかし、ちょっと考えてみると、この一致はむしろ当たり前だ。
戦略は「こうなるだろう」という未来予測ではない。「こうしよう」という未来への意思が戦略だ。だとしたら、「人間はイメージできないことは絶対に実行できない」(僕の好きな言葉)という真実が重みをもってくる。人間は誰しも考えられないことは決して実行に移せない。言われていれば当たり前の話なのだが、現実の経営では、この「当たり前のこと」がわりとないがしろにされているように思う。
未来への意思を会社で働く人々にヴィヴィッドにイメージさせる。そうした未来への動的イメージが働く人々のアタマの中に入っていなければ、会社は動かない。逆にいえば、「こうしよう」というイメージがしっかりと共有されていれば、理由をもって仕事ができる。毎日の仕事がタフであっても、明るく疲れることができる。
その点、「数字」にはあまり期待できない。目標や予算や達成を数字で見える化する。これはもちろん大切なことだが、数字を掲げるだけでは「こうしよう」という意思が組織で共有されない。数字を掲げて走らせるだけだと、疲れが暗くなる。だから戦略ストーリーが必要になる。数字より「筋」。これが僕の持論だ。
経営者が骨太の戦略ストーリーを構想し、それを会社全体で共有することは、「働きがい」の最強のドライバーになり得る。「働きがいのある会社」と「戦略が優れた会社」が自然と重なってくるという成り行きだ。だから僕は、競争戦略についてのインタビュー調査で会社に入れていただくときは、経営陣だけでなく、フツーの社員の方々に「どうですか、この会社、働いていて面白いですか」と聞くようにしている。