生成AIの導入時は、新たな価値創出の方法を開拓せよ
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サマリー:新しい技術は既存の競争優位をコモディティ化させる。生成AIも同様で、自動化の可能性が高い業界ほど利益率は向上せず、生産性向上による余剰利益は、顧客やサプライヤーに移転する傾向がある。企業が持続的優位を築くには、単なる効率化を超えた新たな価値源泉の創出が不可欠だ。本稿では、AIによる摩擦の解決やビジネスモデルの再発明など、価値創造に向けた6つの戦略を紹介する。

AIは生産性向上ではなく、価値創造に用いるべき

 新しいテクノロジーは、古くなった競争優位の源泉をコモディティ化させる。カメラの発明を考えてみよう。肖像画家たちは、この新しいテクノロジーを導入する──つまりカメラを使ってワークフローをより迅速かつ効率的にする──だけでは、適応できなかった。なぜなら、写真は彼らの提供物を全面的にコモディティ化させ、顧客の支払意欲を低下させ、価値の源泉を枯渇させたからである。

 筆者らの研究によれば、生成AIにも同様のパターンが現れている。我々は米国の上場企業800社を対象に、職務と業務活動をマッピングし、各活動が生成AIによって補強または自動化される可能性をスコア化した。その根拠として、物理的な立ち会いの必要性、インプットがデジタルで入手・利用可能か、タスクベースのロジックへの依存度といった要素を用いた。

 その結果、業界別の生成AIによる自動化の可能性の指標と、チャットGPTの登場以降における業界別の利益率の推移との間には、相関関係はなかった。実際、自動化の可能性が最も高い業界──金融、テクノロジー、メディア──では利益率が停滞または減少していた。

 加えて、この関係は、業界間における生成AIの導入率の差によるものではないことも判明した。導入率の概算に当たっては、企業がどれほど積極的に生成AIの能力を構築または統合しているかを示す公開データを用いた。関連スキルを備えた従業員の割合や、企業が利用している外部のAI技術ベンダーの数などだ。

 要約すると、企業が生成AIにリソースを投じても、その結果生じる生産性の向上分は競争の中で削り取られ、企業に保持されずに、顧客やサプライヤーの手に渡っているように見えるのだ。これはコモディティ化の初期兆候である。したがってデータが示唆するのは、生成AIのメリットは単に現在の活動をより迅速に、またはより効率的に行うために用いることにあるのではない、という点だ。

 それよりも、優位性を得るために生成AIの活用を目指すビジネスリーダーは、この新しいテクノロジーがもたらす別のインパクトに目を向けるべきだ。すなわち、新たな価値源泉の開拓である。

社内で生成AIを導入する3つの戦略

 テクノロジーがバリューチェーンの一部分におけるボトルネックを取り除く時、それは稀少性を消滅させるのではなく、別の場所に移転させる。かつて貴重だったものがコモディティと化すが、同時に新たな摩擦や制約が出現し、それが新たな稀少性となり価値の源泉となる。

 たとえば、写真は写実的な表現を豊かにしたが、意味、視点、感情が新たに稀少な差別化要因となった。これが印象派やキュビズムといったムーブメントの台頭を促した。

 新しいテクノロジーは既存のバリューチェーンに沿って価値の源泉を移転させるだけでなく、新たな価値の源泉を生み出す。制約を取り除くことで、以前には不可能だったビジネスモデルを可能にする。たとえば写真は、現実の客観的描写を拡張可能にすることによって、ジャーナリズム、広告、出版を変革した。

 画期的技術によって古い価値の源泉は枯渇するが、新たな摩擦の解決や、新たに可能となったビジネスモデルの採用を軸とする新たな価値の源泉が現れる。この変化はリーダーにとって、生成AI時代に将来の価値の源泉がどこにあるのかを見通すための便利な枠組みとなる。

最適化:既存の能力を強化する

 企業は既存の能力の強化、つまりスピードや生産性、反応性の向上を望んで生成AI技術を導入することが多い。例として、バズフィードがコンテンツの開発にLLM(大規模言語モデル)を取り入れたり、ブルームバーグが決算発表や財務報告書を素早く要約するために、端末サービスに生成AIを統合したりといった、デジタルパブリッシャーのケースが挙げられる。こうしたユースケースは新たな成長可能性やさらなる効率性を引き出し、新しいテクノロジーをいち早く効果的に導入する企業の競争優位を促進しうる。

 とはいえ、これらの優位は一時的なものに留まる可能性が高い。なぜなら、生成AI技術によるコモディティ化が進んでいる活動に依拠しているからだ。言い換えれば、生成AI技術はこれらの企業の効率性を高めることで、短期的に追い風をもたらす。しかし長期的には、生成AIが普及するにつれて、これらの活動はコモディティ化し、効率的な遂行が最低条件となり、その根底にある価値源泉は枯渇するだろう。

キュレーション:新たな摩擦を解決する

 すでに自社が実行している活動を、より迅速かつ効率的に行うために生成AIを導入しても、そこから持続的優位が生じる可能性は低い。むしろ、生成AI技術の登場によって実行が「より困難になった」部分に焦点を移すことで、持続的優位が生まれる。

 たとえば、アドバイザリー会社による調査、情報の統合、洗練された成果物の作成を軸とする主要サービスは、生成AIによるコモディティ化が進んでいる。だが大量のコンテンツを容易に作成できるようになることで、その内容の検証、有益な結論の導出、示唆の優先順位づけをめぐる新たな摩擦が生まれる。言い換えれば、価値源泉はコンテンツの作成から、判断の適用へと移転している。

 また、生成AIはマーケティングのコピー、ソーシャルメディアの投稿、デザイン案などをほぼ無限に生み出すことを可能にした。この摩擦における差別化の一手は、キュレーションに焦点を当てること、つまり飽和したメディア環境をフィルターにかけ、文脈化することである。

 その一例は、優良記事を毎日5本精選して15万人以上の定期購読者に配信する、有料ニュースレターの「ブラウザー」だ。オリジナルのコンテンツを持たない同社のビジネスは、オンライン記事があふれる中で顧客を導くための編集センスのみで成り立っている。

 判断力やキュレーションの戦略への注力は、すべての企業に実行可能なわけではない。加えて、その根底にある摩擦は永久に残るとは限らない。おそらくマシンインテリジェンスは将来的に、コンテンツの検証や精選がかなりうまくなるだろう。

 しかし変わらないのは、テクノロジーが進歩して既存の摩擦を解決するたびに、新たな摩擦が現れるという事実である。したがって企業は、生成AIによってもたらされる新たな摩擦を見極め、その解決に向けて自社をポジショニングすることに焦点を当てるべきだ。

再発明:新しいビジネスモデルを築く

 生成AIによって、コストやオペレーションの複雑性に伴う制約を取り除けるようになるため、まったく新しい製品やサービスが実現可能になる。

 たとえば、リーチかパーソナライズかという従来のトレードオフを克服するために生成AIを活用することで、より小規模または断片的な顧客層や、利益率の低い顧客層に、カスタマイズされた体験を提供できるようになる。これにより企業は、以前ならばサービス提供コストが高すぎるために無視していた層へのリーチが可能になる。

 その例として、スポティファイは生成AIを使ってポッドキャストを多言語に翻訳して音声クローン化し、コンテンツのリーチをより幅広いオーディエンスへと拡大している。一方でメタ・プラットフォームズのAIマーケティングツールは、広告対象の製品と、広告の受け手となるユーザーの双方に合わせてカスタマイズされたクリエイティブ素材を生成する。

 両事例で生成AIは、既存の差別化された資産を活かすために使われている(スポティファイはポッドキャストのライブラリと膨大なユーザー基盤、メタは広告エコシステムにおける中心的地位)。したがって、価値を生みそうな導入方法を見極めるための便利な方法は、生成AIが既存の優位をどのように倍加させることができるかを検討することだ。

 生成AIは、知識を処理して利用しやすくすることに特に長けている。そのため、これまで組織内に閉じ込められていた既存の、独自のスキルや能力に関連する新たな収益源を開拓できるかもしれない。

 JPモルガン・チェースが開発した「インデックスGPT」は、証券を分析し選定する既存の組織的専門能力を、個人投資家も利用できるツールとしてリパッケージした生成AIツールだ。同様に科学系出版社のエルゼビアは、自社の医学誌の膨大なアーカイブと医薬品データベースを活用し、生成AIを搭載した臨床判断支援ツールを開発することで、収益化の新たな道を切り開いた。医師はこのツールに問い合わせると、エビデンスに基づく治療オプションを受け取ることができる。

 最後に、生成AIはまったく新しいタイプの提供モデルとユーザー体験も可能にする。教育分野では、「デュオリンゴ・マックス」はLLMを活用し、学習者一人ひとりに語学の個人教師を提供している。「ロールプレー」のシナリオが付属し、組み込まれたフィードバックと動的なカリキュラム調整が特徴だ。

 これらの戦略は、現在利用できる生成AIツールですでに実現可能だ。テクノロジーが進化するにつれて、新たな能力が登場し、新たなビジネスモデルが可能になり有益になるだろう。そして、現行のビジネスモデルが再びコモディティ化する可能性も同様にある。

 経営者にとっての一つの示唆は、「生成AIではまだ実現できない活動」を探すことで差別化を図るべきではない、という点である。なぜなら、それらに関連する価値源泉は、生成AIの進化とともに縮小していくからだ。むしろ探索の焦点は、AIの進化に伴って可能になる活動、たとえば成長中ないしは新たに現れつつある価値源泉に置くべきである。

生成AI主導のエコシステムに向けたリポジショニング

 上述してきた戦略は、生成AIを社内に導入して製品やオペレーションを強化することに焦点を当て、利益率の拡大、スピードの向上やスケール化の実現を目指すものである。しかし、より外部的な視点を伴う別の道筋がある。リーダーはより幅広い市場で生成AIが促進するであろう変化を認識することで、この新たなエコシステムにおける価値あるノードとして、自社をリポジショニングできる。

 これは独自のAIモデルを開発したり、データセンターを建てたり、コンピュータハードウェアを設計したりすることではない。生成AIがあらゆる市場活動の一部になるという現実に合わせ、既存の提供価値を調整するか、新たな提供価値を構築することを意味する。以下の3つの戦略は、この展開がどのように価値源泉のシフトを促進しうるかを示している。

リパッケージ:生成AI主導の選択に向けて製品・サービスを再考する

 AIエージェントは選択に関する情報提供をますます担っており、近い将来には直接選択を行うことも増えるかもしれない。こうした中で企業は、自社の製品・サービスを機械が消費しやすい形にリパッケージしなければならない。つまり、情報の提供方法を見直す必要がある。たとえば、製品特性と互換性に関する標準化されたデータを提供したり、エージェントと自社の製品・サービスとの直接的なやり取り(購入など)を可能にしたりすることが挙げられる。

 ピークAIやプロファウンドといった企業はすでに、LLMが製品をどのように説明し推奨しているのかを、ブランド側が分析できるよう支援している。これは検索エンジン最適化に似ているが、エージェントを介した経済に向けたAIエージェント最適化という新しい形の取り組みだ。

 この新たなアプローチは、人間の知覚とブランディングを重視した従来のマーケティング戦略を補完することになる。エージェントが感情的な信頼や認知よりも、客観的で検証可能なインプットに頼るようになるにつれて、従来の戦略は効果を失う可能性がある。

 ブラジルの大手小売企業の1社であるカサス・バイアは一歩先へと進み、ワッツアップ上に生成AI搭載の対話型エージェントを構築した。顧客は従来のウェブサイトを通じてではなく、自然な会話で商品を閲覧、比較して購入を完了できる。2025年11月のローンチ以降、このチャネルは200万人以上のユーザーを獲得したうえに、同社の店舗売上げの5%超に影響を及ぼしている。

 エージェントを介した選択に向けたリポジショニングは重要な取り組みであり、上記の事例が示すように先行者は恩恵を受けている。ただし長期的には、この適応は最低条件となり、あらゆるブランドがエージェントによる選択向けに最適化されることで競争環境が平準化し、コモディティ化を促進する可能性もある。

監督:生成AIの正確性を検証する

 生成AIモデルと自律型エージェントが普及し、それら自体が経済主体として機能し始める中、信ぴょう性を高めて信頼性を確保するための適切な監督がますます必要とされている。

 これは企業が解決に向けて舵を切れる新たな摩擦であり、すでに社内で用いている能力を製品化することも方法の一つとなる。マスターカードの「ディシジョン・インテリジェンス」は、決済エージェントがどの場合に取引を承認または拒否すべきかを判断できるよう、不正リスクのスコアリングを行うAPIを提供している。この「コンプライアンス・アズ・ア・サービス」のアプローチは、苦労して築いた検証と規制の専門知識を新たな収入源に転換するものである。

 信頼性、信用性、利益相反の可能性に基づいてパブリッシャーの評価を行うニュースガードも同様に、自社の技術をLLM事業者にライセンス供与している。LLM事業者はこれを活用することで、モデルに適切な情報源を選択させ、誤情報を自己修正させることができる。

 より広く見れば、臨床試験の結果や、財務分析、エンジニアリングのマニュアルなど、検証済みの独自データを有する企業はすべて、その知識をLLM向けの検証サービスに転換し、生成コンテンツのコンプライアンスと正確性を保証することが可能だ。

供給:生成AIにインプットを提供する

 最後に、生成AIモデルは学習のためのインプットと、質問にリアルタイムで答えるのに役立つデータへのアクセスも必要とする。人間が作成した公開テキストデータは2028年までに枯渇すると予測されているため、インプットへのニーズが高まっている。

 精選された高品質な情報源、とりわけモデル開発企業がLLMに学ばせたい特定領域の専門知識に対するニーズは、既存企業にもう一つのビジネスモデルの可能性をもたらしている。

 例として、トムソン・ロイターはLLMのパイプラインにリアルタイムのニュースと市場データをライセンス供与している。レクシスネクシスは、領域特化型のLLMが依拠する構造化された法律オントロジー(概念体系)と、検証済みの判例を供給している。

 こうしたアプローチに倣い、消費財のグローバル企業は匿名化されたPOS(販売時点情報管理)データを収益化し、需要シグナルをAIの小売計画エージェントに供給することが可能だ。そのエージェントは、市場をより明確に把握するために対価を支払う企業によって利用される。

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 以上の6つの戦略は網羅的なものではなく、すべての組織に当てはまるわけでもない。リーダーは次の一連の問いを自問することで、生成AI時代において自社にとって最も有益な戦略を見極めることができる。

・現在の自社の差別化された資産や能力のうち、生成AIによってコモディティ化するリスクがあるものはどれか。

・生成AI技術は自社の市場や顧客に、どのような新たな摩擦をもたらしているのか。それらを解決することは有益なのか。その場合、どうすれば解決できるのか。

・生成AIをどこに導入すれば、既存の優位を倍加させることができるのか。たとえば差別化された能力や資産から、新たな価値を引き出すことは可能か。

・コストや複雑性に伴う従来の制約を生成AIで取り除いた場合に可能となる、まったく新しいビジネスモデルは何か。

・自社の資産のうち、生成AI主導のビジネスエコシステムにおけるインプットやインフラになりうるものはどれか。

 これらの問いに積極的に向き合うことで、リーダーはどの戦略がコモディティ化のリスクに直面しているのか、そして持続的優位をどう引き出せばよいのかを見極めることができる。


"Look for New Ways to Create Value When Deploying Gen AI," HBR.org, February 27, 2026.