AIによって急増した「偽物の専門家」を見抜く方法
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サマリー:生成AIの普及により、ただアイデアを出すだけの実務なき「思考リーダー」があふれ返り、空虚なインサイトが組織を停滞させている。いま、リーダーに求められるのは、一見華やかな提言ではなく、現場の混乱の中で実験と失敗を繰り返す「主体的な実行力」である。本物の専門家を見極める術を持ち、戦略を具体的なプロトタイプへと落とし込む姿勢が不可欠だ。本稿では、思考リーダーシップを超えた新しい概念「思考実行」の重要性と、その実践方法を紹介する。

アイデアを具現化する人が圧倒的に不足している

 従来の基準からすれば、筆者は間違いなく「思考リーダー」だと言えるだろう。何十年にもわたり、イノベーションとストーリーテリングが交差する領域で、会社を築き、売却し、物事を破壊し、ゼロからつくり直してきた。6冊の書籍を執筆し、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)にも定期的に寄稿してきた。だがいま、このカテゴリーは死に絶えつつあると宣言できる。

 アイデアが重要でなくなったのではない。アイデアはいまも重要だ。そうではなく、未来の仕事について語る人と、未来の仕事をつくる人の比率がいびつなくらい逆転した時代になったからだ。生成AIによって猛烈にパワーアップしたコンテンツ作成マシンは、リンクトインのフィードや、会議のステージ、企業研修を、自信たっぷりの洗練された(しかし多くの場合空虚な)インサイトであふれ返らせている。そして、私たちはそこに溺れている。

 いまや専門家のように振る舞うことは、これまでになく簡単になった。大規模言語モデル(LLM)に少し賢いクエリを入れて、クールなプレゼン資料を作成し、ポッドキャストに出演すれば、たちまち「未来の仕事ストラテジスト」やら「AI変革アドバイザー」のでき上がりだ。「専門家劇場」への参入障壁はゼロになった。だが、誰もが「権威」として振る舞う時、権威そのものが意味を失う。

 筆者はそれを、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のデジタル・データ・インスティテュート(D^3)で参加した仕事や、筆者が助言する複数の組織でしょっちゅう目にしている。リーダーたちはいら立ちを抱えて筆者のところに来る。基調講演者やアドバイザーを雇い、フレームワークを購入し、コンテンツを消化したのに、彼らの組織は相変わらず行き詰まっていて、本来は彼らを現状から解き放つ助けになるはずのインサイトによって、身動きが取れなくなっているというのだ。問題はアイデア不足ではなく、そうしたアイデアを現実世界で試す泥臭く仕事をする人が不足していることにある。

 だからこそ、思考リーダーシップよりもはるかに価値のあるものが出現しているのだと考えている。名づけて「思考実行」(doership)だ。

「思考実行」とは何か

 思考リーダーは、AIがあなたの組織の労働力を変えると言う。思考実行者は、あなたのチームと協力して10日間で試験的計画を作成して、何が破壊されるかを明らかにし、その作業を繰り返す。思考リーダーは、オープンタレントを導入するための枠組みを示す。思考実行者は、プラットフォームベースのモデルを中心に一つの事業部門を再編してみて、何が起こるか報告する。もちろん問題となる部分も報告する。それではコンサルタントと同じではないかと思うかもしれないが、それは違う。コンサルタントは、どうするとよいというアドバイスをしたら、それでおしまいだ。思考実行者は、提案を実行できる形にする間も組織に留まり、結果について責任を共有し、うまくいかなかった時も(必ずうまくいかないが)直接関与する。

 筆者はHBSのエグゼクティブフェローであり、厳格な思考を重視している。重要なのは、思考がどこで行われるか、だ。思考リーダーシップは、現実から大きくかけ離れた場所(ステージやオピニオン記事、美しくデザインされたプレゼン資料)で発揮される。思考実行は、乱雑な状況で起こる。うまくいかないかもしれない実験を、実際のお金と人間を使って行う時、そして不完全な情報で決定を下さなければいけない時に起こる。

 この2年間、筆者は組織がAIと人材戦略の衝突を切り抜けるのを支援してきたが、実際に進捗を遂げたリーダーには共通する特性があった。彼らは「ビルダー」(建設者)だったのだ。思考実行は一つのマインドセットであり、組織の中と外の両方で発揮される。組織内では、リーダーが自分のチームとともに実際に実験する。組織の外では、最高の実務者からアドバイザーに転じた人たちが、他者の問題解決を助けるために、自分の経験を応用する。思考実行者は、アイデアを消化するだけでなく、ストレステストをする。プロトタイプをつくる。小規模な失敗をして教訓を引き出す。そして自分が学習したことを、組織内外で共有する。それは多くの思考リーダーが、自分のブランドが傷つくことを恐れてやらないことだ。