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「エモーションファースト」のビジネスモデルとは
2020年、ハリウッド発の短編動画配信サービス「クイビ」は、17億5000万ドルの資金を調達し、テレビをスマートフォン向けに再構築することを掲げてスタートした。ところが、わずか数カ月で閉鎖という結果になった。クイビの戦略は、ハリウッドスタイルの番組を「一口サイズ」にして、モバイル端末で視聴できるようにすることだった。
一方、中国のショートドラマ(マイクロドラマとも呼ばれる)は、2022年の336本から2024年には3万6400本へと爆発的な成長を遂げた。いまやユーザーは6億6000万人を超え、約50億ドルの収益を上げており、中国の従来の映画興行収入を上回る勢いだ。2025年初めに、中国のショートドラマアプリは4億7000万回のダウンロードを記録し、第1四半期だけで、世界全体のアプリ内収益は約7億ドルに上った。
これは、単に新しいコンテンツのフォーマットの話ではない。中国のテックネイティブ(テクノロジーを前提に設計する)企業は、モバイル動画、データ分析、AIを使用して、ストーリーテリングの「エモーションファースト」(感情を最重視する)のビジネスモデルを構築しているのだ。顧客エンゲージメントを高め、アテンション(注目)の収益化を図る経営幹部なら、そこから学べることがある。
非主流のフォーマットから効率的な制作システムへ
ショートドラマは中国で2018年頃から、ティックトックと並んで頭角を現し、人々が家にこもってスマホ漬けになっていたパンデミックの時期に急成長した。各エピソードは1~3分で、1シーズンはエピソード50~100本であることが一般的だ。そして、スマホに合わせた縦型動画となっている。リールショートの『夫の二重生活〜億万長者の正体を暴く!』や『秘密の億万長者の子供と離婚するな』などのヒット作は、海外の視聴者の心を鷲づかみにした。
この新たなフォーマットの先駆者は、従来の映画スタジオでも、バイドゥやテンセントのような巨大テクノロジー企業でもなかった。彼らは、オンライン小説のプラットフォーム、モバイルゲーム制作会社、デジタル出版社などの隣接分野から参入してきた、機動力の高いインターネットネイティブのスタートアップだった。こうした企業はテキストベースのフィクションから出発して、オーディオストーリーテリングへと移行し、その後、その知的財産を一口サイズの動画に転用した。一段階進むごとに、感覚的な豊かさを増し、収益化が進む一方で、中核的なストーリーのエンジンは変わることなく維持されている。ストーリーは単発の作品ではなく、さまざまなフォーマットに合わせて再構成できる資産のパイプラインになった。
当初の視聴者は、都会の映画通のようなエリート層ではなく、新しくオンライン視聴を始めた人々だった。その多くは、年配でブルーカラー労働者であり、経済的に下位の都市や農村部に住む人々だった。彼らの好みは刺激的なメロドラマだ。展開の移り変わりが激しく、テンポが速く、感情を率直に表現する筋書きを好む傾向にある。ただし、世代の入れ替わりがトレンドを複雑にしている。中国の若い世代のユーザーは、従来の映画のご意見番には耳を貸さず、自分たちのユーモアや不安、幻想が反映され、個人に高度に最適化されたニッチな物語を好む。社会的調和が尊ばれる文化の中で、自分のスマホは、愛や嫉妬や復讐といった社会的に表出しにくい感情を、誰にも批判されずに味わえる稀少な空間になった。
どの業界のビジネスリーダーにとっても、これはお馴染みのパターンだ。それまでサービスを十分に享受していなかった視聴者が、新しい機器や配信経路に出会うことで、まったく新しいカテゴリーが台頭する。それを牽引するのは多くの場合、レガシーブランドではなく、AIデータの扱いに長け、機動的な事業運営を強みとするアウトサイダーだ。
ストーリーテリングをテスト可能なシステムに転換する
クイビが試みたのは、ハリウッドの制作プロセスを小さなスクリーンに圧縮することだった。プロデューサーが作品のアイデアを選び、脚本家が台本を完成させ、1シリーズにつき約1500万ドルの予算があらかじめ承認された。だが、その時になって初めて、彼らは顧客エンゲージメントの弱さに気づいたのだ。一方、中国企業はこの論理を逆転させて、コンテンツを継続的にテストし最適化していくシステムとして扱った。彼らはパフォーマンスマーケティング、eコマース、モバイルゲームの3つの手法を借用した。
クリエイティブの大規模な事前テスト
ショートドラマでは、プロデューサーはストーリーのコンセプトを分解して、フック、定番の展開、せりふ、人物紹介を組み合わせた何百通りもの短尺広告をつくる。それらをティックトック、グーグル、メタ・プラットフォームズ、種々のゲームやローカルプラットフォームに広告として流し、クリックスルー、視聴時間、有料エピソードへの転換率を測定する。最もパフォーマンスのよい組み合わせだけにゴーサインを出して、全面的な制作へと進む。この方法によって、リスクは大幅に低減される。
精度の高い感情工学
ドラマの進行上、カギとなる瞬間(涙、対決、真実が明らかになる場面)は秒単位まで計画され、いっき見や「次のエピソードを解放(視聴)する」ための課金を促すクリフハンガー(続きが気になる終わり方)として位置づけられる。感情のピークを製品機能のように扱っているのだ。もし緊張感の高まる場面やせりふで、いつも離脱が増えることがデータ上明らかになったら、制作途中でも台本を書き直す。







