前回、「川の流れのように」という話をした。はじめから明確な目標や「夢」があるわけではない。とりあえずは成り行きでスキなことをしてみる。で、試行錯誤をする。依然として明確な目標があるわけではない。そうした中で、徐々に自分自身についての理解が深まり、世の中や仕事のリアリティを経験する中で、ゆっくりとではあるが着実に自分と仕事と世の中の折り合いをつけていく。

 この話を聞いた彼もまた、「川の流れのように」の一人である。しかも、ヒジョーにイイ感じで流れている。世の中で仕事をするとか、自分のキャリアをつくっていくとは、ようするにこういうことなのではないか。この人は「イイ感じで流れている人」のひとつのモデルだといえる。短い時間だったが、彼の話を聞いてとてもいい気分になった。

 とりわけグッときたのが、アメ車専門の整備工場を辞めるに至ったいきさつだ。自分が仕事でやっていることと報酬とのつながりがわからない。どうも納得できないので他の仕事に替わろうと決意する。このエピソードはとても大切な、仕事への構えの核心に触れていると思う。

 彼が仕事をしている広告会社について、僕はよくは知らない。しかし、この会社はきっとイイ会社だと思う。彼のような若者がやりがいをもって働ける。こういう人がやる気になって力を発揮できる。あっさり言えば、よい会社とかよい経営とはそういうことなのではないか。

 かつてと比べて労働市場が流動化し、転職が普通のことになっている。若い世代ではとりわけそうだ。これは日本の成熟という時代の流れの必然といってよい。

「最近の若者はロイヤリティがない」「仕事に執着心がないから、長続きしない。すぐにやめてしまう」などとお嘆きの貴兄に申し上げたい。若者の流動化を嘆いていても始まらない。大切なことははっきりしている。これからの会社は今回話した彼のような人を念頭に置いて経営されるべきだ。

 前回話した「川の流れのように」でいえば、若いころから明確な目標とキャリア・プランをもって、一心不乱に邁進できる「孫正義・矢沢永吉タイプ」(人口構成比0.1%以下。日本に限らずどこでもだいたいそんなもの)を別にすれば、ほとんどの人は流れている。今回の彼のように、イイ感じの意志をもって「主体的に流れている」人を正面から受け止めることができるかどうか。会社の魅力と経営の度量が試されている。イイ感じで流れている人に、ぜひここでずっと働きたいと思わせる何かがある。ここで成長して力を発揮したいと思わせるだけの機会を提供できる。そういう会社でなければならない。

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