デジタル時代を生き残るには「極端な戦略」が必要だ
NurPhoto/Getty Images
サマリー:デジタル時代、中途半端な立ち位置の「中間戦略」は通用しない。競合が徹底した効率化やニッチ特化を進める中、曖昧な戦略をとる企業は収益性を確立できず失敗に追い込まれる。企業はコスト競争力の極限か、差別化による高付加価値、あるいはその両極へ振り切る必要がある。本稿では、インドのデリバリー企業やインドネシアのホテルチェーンの事例を交え、中間領域を回避しデジタル時代を勝ち抜くための「4Sフレームワーク」を紹介する。

極端なサービスの強さ

 インドのeコマース企業ダンゾ(Dunzo)は、「60分以内に何でも配達」を掲げて2014年に創業し、2019年までにインド国内の主要8都市圏に事業を拡大した。2021年8月にはクイックコマース分野にも進出し、19分以内に日用品を届けるサービス「ダンゾ・デイリー」を立ち上げた。顧客はダンゾの利便性を評価し、投資家も同社の成長を歓迎した。米国で「Google it」(ググる)という言い回しが定着したように、インドでは「Dunzo it」(ダンゾする)という表現が広がったほどだ。

 ダンゾは都市部のあらゆる顧客層へのサービス提供を目指し、利用料を控えめに設定していた。ところが、競合他社が参入して、特定の顧客ニーズに的確に対応できるようになると、競争が急速に激化した。競合企業はあらゆる商品を10分以内で届けられるよう、ダークストア(配送専用の倉庫)と、高密度に設定した配送エリアを軸にサプライチェーンを再設計した。さらにデータを活用して収益性の高いニッチ領域を特定し、コスト効率の高い手法でそのニーズに応え、スケール可能なオペレーティングモデルを構築した。

 一方、ダンゾは幅広い商品ラインアップと複雑なコスト構造を抱えていたため、コモディティレベルの効率性を実現することも、専門サービス向けのプレミアム価格を正当化することもできなかった。同社のサービスは当初は顧客を魅了していたが、その魅力を収益の出る形で持続させるオペレーティングモデルを設計することができなかったのである。結局、ダンゾは2023年に人員削減を余儀なくされ、2025年1月までに事業停止に至った。

 ダンゾが失敗した原因は、同社の戦略が、コモディティからスペシャリティに至るスペクトラム(標準化されたサービスからカスタマイズされたサービスに至るスペクトラム)のいずれの極にも位置せず、その中間領域に留まってしまった点にあった。

 ダンゾの事例は、デジタル時代の重要な現実──現代の産業は極端な戦略が評価される一方、漸進主義は受け入れられない──を浮き彫りにしている。つまり、企業は中間領域に埋没しないよう、いずれか一方の極、または両極に振り切る必要がある。

漸進的な差別化はもはや通用しない

 アナログ時代には、わずかな差別化が最適とされていた。企業が個々の顧客の行動や顧客体験を把握する手段は限られており、自社の施策に対するフィードバックは時間がかかり、内容は粗く、収集コストも高かった。

 その結果、企業は競合他社を基準として、「他社は何をしているのか」「それを(わずかに)上回るために何ができるか」を問い続けた。言わば「競合中心」の発想である。

 そうした環境では、市場の中間領域が安全地帯となっていた。勝負のカギは、競合企業が気づきにくい、あるいは模倣するのが難しいが、短期的な収益性を維持するには十分な漸進的な改善を積み重ねることにあった。根本的に異なることではなく、わずかに優れていることが重視され、生き残れるか否かは顧客による検証ではなく、相対的なポジショニングに左右された。

 だが、デジタル時代が到来すると、この論理は崩壊した。顧客体験に関するデータが至るところに存在し、その粒度は高く、しかもリアルタイムで利用できる。わずかな優位性は即座に可視化され、模倣されてしまう。スペクトラムの中間領域に位置する企業は、データを活用して無駄を精緻に削減する低コスト企業と、データを用いて共鳴的でパーソナライズされた体験を提供し、プレミアム価格を成立させる専門特化企業の双方に押しつぶされる。もはや市場の中間地帯に避難場所はなく、企業は異なる戦略で生き残りを図る必要に迫られている。

 こうしたバーベル型の構図は特定のセクターに限られた話ではなく、多くの業界で見られる。

・食品小売り分野では、顧客ロイヤルティデータ、POS(販売時点情報管理)分析、デジタル注文によって、客単価(バスケット)単位の採算性やサービス提供コストが痛々しいほど明確になっている。市場は、アルディやリドルなどディスカウント追求型と、ホールフーズのようなプレミアム特化型の両極に分かれ、従来の総合型のスーパーマーケットはいちだんと厳しい板挟み状態に直面している。

・動画、テレビ分野では、ストリーミングデータによってエンゲージメントや解約状況が分単位で可視化されている。市場で好まれるのは、トゥビやプルートTVのような広告つきの無料配信サービスか、ネットフリックスのようなプレミアムでパーソナライズされたサブスクリプションプロバイダーのいずれかで、スペクトラムの中間に位置する従来型のケーブルテレビでは有料チャンネルのパッケージ契約の顧客流出が進んでいる。

・デジタルニュース分野では、リアルタイムのオーディエンス指標と広告市場によって、巨大な規模を追求するか、深い利用習慣を築くかのいずれかが報われやすい。『デイリー・メール・オンライン』のように広告収入を主軸とした大量配信型の出版社と、『ニューヨーク・タイムズ』紙のようなサブスクリプション中心の組織では戦略がまったく異なるが、いずれもスペクトラムの中間で苦戦する一般向けメディアよりは成功している。

・資産運用分野では、パフォーマンス、手数料、リスク水準が明確に可視化されている。資金は、一方では低コストのパッシブ運用商品へ、他方では差別化された運用成果、投資機会へのアクセス、カスタマイズを提供する戦略へと流れている。ベンチマークに近い運用しか行わないにもかかわらず、アクティブ運用の手数料を課すモデルは、ひっそりと存在意義を失いつつある。

 アナログの世界では中間領域で生き残ることが可能だったが、デジタルの世界ではそうはいかない。些細な優位性はすぐに消失し、中間領域に逃げ場はない。勝者はデータを活用して中間領域から脱け出し、両極をスケールさせ、データ中心の企業に転換することで人間中心のビジネスを築く。ターゲット顧客のニーズを満たし、顧客を主役にすることに重点を置くことで、勝利を手にするのである。

中間領域を回避する企業

 2018年にインドネシアの低価格ホテル市場に参入したボボボックス(Bobobox)を例に取ろう。それまで何十年もの間、ホテル業界の競争は中間領域を舞台としていた。ホテルチェーンは可能な限りコストを削減し、競合と横並びの機能を提供し、値下げによるシェア争いをしていた。その結果は予想通りで、利益率が低下し、顧客体験の質が下がり、ロイヤルティが失われてしまった。

 ボボボックスのブランドの一つであるボボポッズ(Bobopods)は、異なるアプローチを取った。他の低価格ホテルよりも秀でた面を探すのではなく、見過ごされてきた客層を探したのだ。顧客データから、インドネシアの低価格ホテルの宿泊客は約90%が男性であることが明らかになった。家族連れや女性、さらには観光客でさえ、価格ではなく、安全性と清潔さが足りないことを理由に低価格ホテルを敬遠していた。

 ボボポッズはスペクトラムの中で最もコモディティ寄りの極に参入したが、顧客の目線を大切にした。データに基づいて、顧客が価値を見出さない要素をすべて削ぎ落とし、最も重視する点──個室ユニットの清潔さ、防音、照明の制御、セキュリティ、アプリベースのアクセスとチェックイン──に投資した。その結果生まれたのは、装飾まみれの体験ではなく、精密に設計された体験だった。女性が急速に主要な顧客層となり、再訪率が上昇し、顧客はブランドのファンになった。そして、一見コモディティ型に思えるこのビジネスモデルによって、年間40%超の利益率を生み出した。

 一方、ホテル市場の反対側の極として、ボボボックスが2021年に立ち上げたボボキャビンズ(Bobocabins)は、標準型から離れて専門特化型を極めたブランドだ。美しい景観に囲まれてグランピングを楽しめるモジュール型キャビンを提供し、宿泊客が自分の好みに合った設備や雰囲気、アクティビティを組み合わせられるようにした。データを用いて各自の嗜好を深く理解し、パーソナライズされた体験を大規模に提供したのである。顧客が高い料金を支払うことをいとわなかったため、この事業モデルはプレミアム価格戦略を成立させることができた。

 ボボポッズが精密な効率性を追求したのに対し、ボボキャビンズは大規模でありながら親密な顧客体験を実現した。ボボキャビンズは2024年までにインドネシア各地に数十の拠点を展開し、EBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)で55%の利益を上げた。中間領域を回避することで、ボボボックスは市場の両端で勝利を収めたのである。

4Sフレームワーク

 データに基づいた洞察を競争優位に転換させるためには、顧客の選択、顧客の満足、オペレーティング設計、経済性を結びつける新たなマーケティング戦略の枠組みが必要だ。筆者が提唱する4Sフレームワークは、標準型からカスタマイズ型に至るスペクトラムの中間領域から抜け出し、両端のいずれか、あるいは両方において持続可能なビジネスモデルを構築するために、勝ち続けている企業がどう行動しているかを示している。

真に満足させられる顧客だけを選ぶ

 出発点は製品でも競合他社でもなく、顧客でなければならない。データを活用すれば、企業は顧客を均一的な集団としてではなく、ニーズや支払い意欲、サービス提供コストの異なるグループ、さらには個人で捉えることができる。そうなれば、どの顧客に対して特に高い価値を提供できるのか、どの顧客を主役にできるかといった戦略的な問いが生まれる。

 デジタルの世界では、すべての人にサービスを提供しようとすれば、確実にスペクトラムの中間領域に留まってしまう。ダンゾは利便性を重視するすべての顧客を対象にしようと試み、持続可能なオペレーティングモデルと整合する特定のセグメントを選ばなかった。一方、ボボポッズは、装飾よりも安全性、清潔さ、尊厳を重視する旅行者という、それまで十分にサービスが行き渡っていなかったセグメントを選択した。

対象に選んだ顧客を満足させ、魅了する

 次の段階は、対象に選んだ顧客を深く満足させ、理想的には魅了することだ。魅了は「受け入れられている」という感覚から生まれる。顧客は、自分が見られ、尊重され、理解されていると感じる必要がある。それこそが「顧客を主役にする」の核心である。顧客体験全般にわたるデータによって、何が本当に重要で、何が重要でないかが浮かび上がる。

 市場の一方の極では、ボボポッズが機能の追加ではなく、顧客にとって価値のないものを省き、価値の高いものに投資することで顧客を魅了した。反対側の極では、ボボキャビンズが顧客一人ひとりの嗜好を把握し、オーダーメイドの体験を提供することで顧客を魅了した。いずれのケースでも、魅了する要素は万人向けのものではなく、特定の顧客のニーズに正確に応えるものだった。

(目的に適合したオペレーティングモデルによって)顧客に一貫したサービスを提供する

 顧客を一時的に魅了しても、持続的な優位性は生まれない。企業はデータに基づく洞察を、約束した体験を毎回確実に提供できるオペレーティングモデルに転換しなければならない。そのためには、選択した顧客を中心に、業務プロセスとテクノロジー、インセンティブ、パートナー関係を整合させる必要がある。

 ダンゾの事例は、大規模で持続可能なオペレーティングモデルを持たないまま、顧客に対応することのリスクを示している。需要が増加するにつれて、一貫性が損なわれ、コスト超過が生じた。

 ボボポッズのようなコモディティ志向のモデルにおいて一貫性を生み出すのは、標準化、自動化、無駄の排除、そしてその過程で従業員が成果を上げやすいような環境整備である。ボボキャビンズのような専門特化型モデルでは、一貫性はモジュール設計、組み換え可能な提供サービス、現場の従業員への権限委譲から生まれる。いずれのケースでも、データは不可欠だ。

短期を生き延び、長期的に成功する

 最後のステップは、財務的な持続可能性を確保することだ。顧客を魅了できても財務的に生き残れない戦略は、戦略とは言えず、負債である。データは顧客体験の向上だけでなく、経済性の管理、つまり、サービス提供コストや顧客生涯価値、解約リスク、スケーラビリティの制約の追跡にも活用すべきだ。

 規模拡大の現実的な道筋を持ち合わせていなかったダンゾは、破綻に追い込まれた。一方、ボボポッズはまず、無駄を削ぎ落としたモデルによってコストを抑制して短期的に生き延びた。その上で、顧客の定着と支持、データに基づく学習によって、模倣や乗り換えを防ぐ障壁を構築したことで長期的な成功も手に入れた。他方、ボボキャビンズは、パーソナライゼーションによって高い支払意欲を生み出し、プレミアム価格を成立させたことで成功を収めた。

* * *

 4Sフレームワークは、4つのステップの順序を守ることで力を発揮する。より広い視点で言えば、すべての顧客に対応することはできないという認識が必要となる。

 そもそも、自社にとって最適な顧客を選ばなければ、顧客に十分な価値を提供することはできない。選択した顧客に一貫してサービスを提供できるようなオペレーティングモデルを設計しなければ、生き残ることもできない。そして、データを活用しながら、4つの選択すべてを継続的に見直していかなければ、長期的な成功を収めることもできない。


"Why Companies Don't Compete in the Middle Market," HBR.org, March 18, 2026.