AI変革を阻むミドルマネジャーと経営幹部との認識ギャップ
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サマリー:AIへの投資が拡大する一方で、多くの企業は期待した成果を十分に得られていない。その背景には、AIの可能性を見る経営幹部と、現場でその課題や限界に直面するミドルマネジャーとの認識の隔たりがある。本稿では、この分断が生じる要因を明らかにするとともに、AIトランスフォーメーションを前進させるための具体策を提示する。

経営幹部とミドルマネジャーの隔たり

 2022年の末にチャットGPTが公開されて以降、ほとんどの大企業は一つの転換点を越えた。AIは検討の対象から、巨額の予算と強気の予測に支えられた正式な取り組みへと移行した。AIが企業を変革するかどうかを問う段階は終わり、焦点はいつ成果が現れるのかへと移った。

 筆者らは3年にわたり、ペンシルバニア大学ウォートンスクールとGBKコレクティブによる「企業AI導入調査」を通じて、企業のAI導入の実態を追跡した。本研究では、収益5000万ドル以上の米国企業のビジネスリーダーを対象に調査を行ったが、いくつか注目すべき結果が得られた。たとえば、リーダーの80%以上はAIを毎週使用すると報告し、前年比で大幅な増加が見られた。また、大多数のリーダーが投資の拡大を計画し、74%が初期導入からポジティブな成果を感じているという。こうしたビジネスリーダーは、みずからの初期の体験を踏まえ、AIに対して積極的な姿勢と楽観的な見方を持っている。

 とはいえ、投資に見合う規模の成果はまだ現れていない。この点に関して、芳しくない調査結果もある。たとえば、ボストン コンサルティング グループ(BCG)マッキンゼー・アンド・カンパニーマサチューセッツ工科大学の研究は、どれもほぼ同じ結果に行き着いた。AIによって意味のある成果を大規模に実現している企業は10%に満たないということだ。実際に損益に大きなインパクトをもたらしている企業は、ごく一部に留まっているようだ。

 筆者らの研究では、この問題を説明するものとして、組織内で生じているある種の緊張関係を指摘している。それは、経営幹部とミドルマネジャーの間で認識が一致していないことだ。

 変革の進展を妨げる要因は何だろうか。その答えはさまざまだ。現在のテクノロジーの限界を挙げる人もいる。AIについて楽観的な経営幹部と、不安を抱く現場従業員との間にある、AIの活用方法や意識のギャップに注目する人もいる。たとえば、人材コンサルティング会社マーサーの最近の研究によると、従業員の43%は、AIやその他の先進的テクノロジーによって業務上のストレスが増加したり、仕事が難しくなったりすると考え、53%はそうしたテクノロジーが今後の雇用の安定に影響を及ぼすと思っている。本稿執筆者の一人、プントーニは、最近“Why Gen AI Feels So Threatening to Workers”で、この力学の一端を論じている。

 一方、本稿のデータは、リーダー層内部に存在する、より重大な分断を浮き彫りにしている。それは、上級幹部とミドルマネジャーとの間の分断だ。ミドルマネジャーは、戦略と投資を実際の成果に転換することで、この変革の中で現場を率いる役割を担っている。そして両者の間にあるのが「混沌とした中間領域」だ。

 平均値を分析して、この2つのリーダー層を個別に見ていくと、両者が同じ現実を見ているわけではないことがわかった。AIが十分な投資利益率(ROI)を実現しているか、組織がどの程度のペースでAIを導入しているか、テクノロジーがチームやスキルにどのような影響を及ぼす可能性があるかについて、彼らの見解には根本的な違いがある。

 なぜ、それが問題になるのだろうか。もし上層部が他の人々も自分と同じように楽観的な見方を持っていると思い込んだり、戦略を構築するリーダーと戦略を遂行するミドルマネジャーの間にある期待のずれを過小評価したりしたら、AI導入のペースが遅れかねないからだ。経営幹部がこの分断を理解して、みずからそれを埋めようと努めない限り、上層部がどれだけ大規模な投資を実施して、大きな目標を掲げても、彼らが目指す変革を実現することは難しいだろう。

エビデンス

 筆者らの研究から、ビジネスリーダーが答えられるべき最も基本的な質問について、大きな隔たりがあることがわかった。すなわち、AIへの投資はリターンを生み出しているのかという問いだ。

 上級幹部とミドルマネジャーの回答には、大きな差があった。経営幹部の約半数(45%)は、初期のAI投資から大幅にプラスのROIが得られていると報告した。だが、ミドルマネジャーで同じ認識を示したのは、27%に留まった。戦略が実際に成果を出しているかという根本的な評価に18ポイントもの隔たりがあることは、大きな損失につながりかねないずれを示している。

 この2つのリーダー層の隔たりは、変化のスピードそのものに対する認識にまで広がっている。自社のAI導入は競合他社よりも速いと思うかという質問に対し、経営幹部の56%は「かなり速い」と答えたのに対し、同じ意見のミドルマネジャーはわずか28%だった。

 センチメント分析のデータにも同じ傾向が見て取れる。経営幹部の約3分の2が、過去1年間で生成AIに対して「以前よりはるかに前向き」になったと答えている。わずか1年で驚くべき変化だ。一方、ミドルマネジャーでそう答えた人は39%に留まった。ミドルマネジャーは、上級幹部に比べて、みずからを「慎重」だと捉える傾向が64%高かった(46%対28%)。とはいえ、ミドルマネジャーはAIに反対しているわけではない。半数以上が「期待している」、62%が「楽観的」と答えている。

 この結果は他の研究とも一致している。BCGとコロンビア大学ビジネススクールが約1400人の従業員とリーダーを対象に行った調査では、経営幹部の76%が、自社の従業員がAI導入に熱意を持っていると考えているのに対し、実際に「自分は熱意を持っている」と答えた一般社員はわずか31%だった。ミドルマネジャーはどうかというと、まさにその中間で、経営幹部の値よりも25ポイント低い51%だった。

なぜ経営幹部とミドルマネジャーの見解が分かれるのか

 この違いの一部は、経営幹部とミドルマネジャーでは仕事の性質が異なるという現実を反映している。上層部は全体像の整理や戦略策定、意思決定のサポートなど、AIが実力を発揮するタスクで使用する傾向があり、現行の能力・機能で彼らの仕事に役立つことが多い。一方、ミドルマネジャーの役割は、より混沌とした日常業務の領域にAIを導入することだ。その現場には長年かけて形成したワークフローが存在し、チームメンバー間で技術的な習熟度にばらつきがあり、成果物は単に速いだけではなく常に正確であることが求められる。

 ツールがうまく機能すれば、両方のリーダー層がそのメリットを理解し、恩恵を受ける。だが、うまくいかなかった場合、その後始末に対応しなければならないのは、たいていミドルマネジャーだ。すでに業務過多でリソース不足を感じているミドルマネジャーにとって、さらに新しいツールの使い方まで習得しなければならない状況は、頼れる支援役を得たというよりも、むしろ歓迎できない新たな負担のように感じられるかもしれない。

 また、この2つのリーダー層は、見ている時間軸も根本的に異なる。経営幹部はビジョンを示すことで評価される。つまり、先を見通し、将来的な可能性に賭けることが求められている。一方、ミドルマネジャーは業務を確実に遂行することで評価される。つまり、いまある人員や業務プロセスを活用しながら、今日の業務を回すことで評価される。

 この違いは重要だ。ミドルマネジャーはハルシネーションやシステム統合時の摩擦、日々のワークフローの混乱など、現在のAIの限界をつぶさに見ているので、AIが目下のところ何ができて何ができないのかを、より現実的に把握している。一方で、経営幹部はAIが今後どこへ向かうのかという可能性や将来性に集中する余裕がある。この隔たりを埋めることこそが、変革のカギとなる。

ミドルマネジャーが抜け落ちている

 この隔たりは、単に2つのリーダー層の違いと解釈されがちである。すなわち、戦略的可能性を焦点としてビジョンを描く経営幹部と、業務の現実を焦点とする実務的なミドルマネジャーの違いと読み解くのは簡単だ。だが、この捉え方は一理あるとはいえ、不十分だ。

 そうした見方では、この隔たりは自然であって、むしろ健全ですらあるということ、つまり生産的な緊張関係にある、必要な2つの視点だということになってしまうからだ。筆者らの考えはそれとは異なる。もしこの緊張関係を放置すれば、組織が「AIへの期待」を「実際の価値」へと移行するまでの道のりを、不必要に遅らせる可能性があると考えている。

 経営幹部の目標が何であるにせよ、それが実現するかどうかは、ミドルマネジャーにかかっている。ミドルマネジャーが働いているのは混沌とした中間領域だ。そこでは、実際の業務が遂行され、大半の従業員が統率され、そしてAIが仕事に最も大きな影響を与える可能性があり、その対象にはマネジャー自身の仕事も含まれる。もしミドルマネジャーが上級幹部の願望や期待よりも慎重に、あるいは及び腰で仕事を進めるならば、両者のフラストレーションと緊張が高まることは避けられない。

 本稿で明らかになった分断は、AIがワークフローや日常業務に与える影響を上級幹部がなかなか理解できず、意思決定の質を低下させている可能性があることも示している。「リーダーの仕事は、『AIには可能性がある』という認識の段階から『AIが現場で実際に活用されている状態』への移行を支援することです」と、ルーメンの最高人事・AI活用推進責任者であるアナ・ホワイトは私たちに語った。「ほとんどの変革はトップダウンで成功するものではありません。成否を分けるのは、マネジャーが実際の制約の中で活動している日々の現場にあります。AIトランスフォーメーションは、経営幹部の構想だけではなく、組織文化や現場で働く人々の実情を踏まえたものでなければなりません」

 この背景には、さらに問題を深刻化させる課題がある。AIトランスフォーメーションにおいて、人材育成や人のマネジメントに関する業務はマネジャーの最も重要な役割の一つになりつつあるが、マッキンゼーの調査によると、マネジャーがそれに割く時間は通常、全体の30%に満たないという。彼らの時間の半分程度は事務作業と、自分自身が担当する実務に割り当てられている。生成AIを使うことで、その時間の一部を取り戻すことが期待できる。たとえば、進捗報告の更新、議事録の要約、定型的な業務連絡の作成に費やしてきた時間だ。

 だが、その期待を実現させるためには、マネジャーは新しいツールの使い方を習得し、新しいワークフローを導入し、チームの方向性を見直していく必要がある。リーダーが、ミドルマネジャーの事務負担を減らし必要なリソースを提供することなしにAI導入を命じるのは、飛行機を飛ばしながら組み立てろと言っているようなものだ。

 アリアコンサルティングの創業者でエグゼクティブコーチとしての経験も豊富なクリスティン・グリムは、こう言った。「私が見た中で、この変革をうまく進めているエグゼクティブは、あえて居心地の悪いことを行っています。『なぜマネジャーはもっと迅速に行動できないのか』と問うことをやめ、『マネジャーが動けるようにするために、自分たちは何をしてこなかったのか』を問い始めるのです。厳しいけれども、正しい問いかけです」

実行すべき5つの具体策

 本研究のエビデンスは、経営幹部とミドルマネジャーとの間にある、大きな損失を招きかねない溝を示唆している。AIトランスフォーメーションに関する両者の足並みを揃えることは、コミュニケーションだけで解決できる問題ではない。経営幹部は、みずからが整えてきた(または整えてこなかった)環境が、AIに関する目標を軌道に乗せられるかどうかの決め手になることを認めなければならない。

 テクノロジー投資の増額や、より大胆なビジョンを打ち立てることは、解決策にはならない。組織がこの状況を突破するためには、経営幹部が内部に目を向け、この変革の負担を担うマネジャーに十分なサポート、明確な方向性、そして時間的・業務的な余裕を与える必要がある。

 混沌とした中間領域を整理し、この溝を埋めるために、リーダーチームがすぐに取りかかれる5つの具体的な行動がある。

1. 対策を打つ前に、まずは現状を正しく把握する

 自社は、AIトランスフォーメーションのどの段階にあるだろうか。マネジャーとチームは、AIのビジョンを理解し受け入れているか。社内には、こうした変化により前向きな集団、あるいは、抵抗感の強い集団があるか。見えていない隔たりを埋めることはできない。意識的な評価を行わなければ、経営幹部の熱意が組織の現実を把握する目を曇らせてしまう可能性がある。

2. プレーブックを与えるのではなく、共同で作成する

 楽観的な経営幹部はそのビジョンと構想を推進すべきだが、マネジャーの実務上の懸念や意見に耳を傾けなくてはならない。意思決定を下した後ではなく、その前のロードマップ策定の段階からマネジャーを議論に参加させよう。その目的は、あらゆる階層のリーダーが共通の方針を認識したり関与したりするだけではなく、それに沿って彼らが足並みを揃え、主体的に参加している状態をつくることだ。

3. まず負担を軽減してから追加するという順序で取り組む

 要求が厳しく変化の激しい今日の職場環境では、マネジャーはこれまで以上に現場の業務を滞りなく回そうとしている。AIトランスフォーメーションを成功させるために必要なのは、ワークフローの見直し、チームメンバーのリスキリング、意図的に試行錯誤を重ねるパイロット運用、AIエージェントと人間が協働するハイブリッドチームのマネジメント方法の習得だ。こうした追加的な時間的投資は、企業が将来的に期待する効率向上と成長を実現するために不可欠だ。経営幹部はこうした必須の短期的負担を認識して、マネジメントチームと協力して、その負担を受け入れられるキャパシティを確保しなければならない。

4. 導入状況だけではなく、準備度も測る

 目的は導入だとしても、利用率のみを追跡するのは的外れだ。リーダーは、チームの準備態勢を深く理解しなければならない。準備態勢には、関連するスキルや能力だけではなく、態度や認識も含まれる。AI導入に対するマネジャーの自信や組織としての準備度も、利用率などの指標と並んで、明確なKPI(重要業績評価指標)とすべきだ。

5. 現場から上層部へフィードバックが届く仕組みをつくり、率直な意見を歓迎する

 これまで見てきた隔たりの多くは、ミドルマネジャーと経営幹部が足並みを揃えることが必要であることを示唆している。何がうまくいき、何がうまくいっていないのかを議論する際の指針として共通のKPIを考案しよう。ミドルマネジャーが現場の実情を上層部に報告する体系的な仕組みを整えよう。慎重な評価や失敗したパイロット施策も貴重なデータであって変革への抵抗ではないことを、はっきりさせておくことが大切だ。

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 いつになったら、意味のある成果が得られるのだろうか。それは時が経たなければわからない。だが、その答えを最初に知るのは、この亀裂を埋めて混沌とした中間領域を整理した企業だろう。


"Managers and Executives Disagree on AI—and It’s Costing Companies," HBR.org, April 08, 2026.