-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
株式公開で自分の欲からも自由になれた
編集部(以下色文字):青木社長は、「会社やサービスに集ってくれる人たちにインテグリティを求める以上、会社はそれを納られる器にしなければいけないので、経営理念、経営方針、行動指針まですべてがきちんと一貫していて矛盾がない状態を目指す。逆に、そうでないとインテグリティを要求できない」とおっしゃっていて、2022年の株式公開(IPO)もその一環だったと聞きました。
青木耕平社長(以下略):そうなんです。僕らの事業には、ある美意識や倫理観に強い共感とそれを体現することが必要ですから、経営を引き継げるのが血縁者に限定されるような建てつけにしておくのは、経営者としてインテグリティがあるといえるのかなと考えた時に、自立自尊でいられる選択肢は上場しかないと考えました。創業者はどこかでイグジットせざるをえませんから、その時に取りうる選択肢は、倒産、承継、M&A、IPOしかない。これらのうち、いまIPOしておけば将来的に承継以外の選択肢を取ることもできる。
100%創業家で株式を保有している会社であったため、投資家への責任も外部資金を調達する必要もそれほどなかったのですが、みずからガバナンスされることを望んで上場したわけです。大半の人からは「意味がわからない」「何の得があるの」と言われましたが、僕からすれば、外部の目にさらされることで自分の欲からさえ自由になれたし、自分の倫理観に沿って意思決定ができているのだから最上の自由だと捉えています。
IPOも社会に対するインテグリティの表現の一つだったということなんですね。
後は、お客様のフィーリングを大切にして「お客様が自由を持つ」点にもお客様とクラシコムとの接点が強くあって、そこを一番大事にされているんだなと感じます。
本当に、その点はそうです。僕らは、ECサイト上で売上ランキングを示したり、「いまこれが売れています」といったコピーを出したりしません。その理由はまさにそこにあります。おそらく、そういうふうに打ち出したほうが売上増につながるでしょうが、お客様がご自身にフィットしたと思うものをご自身で選んでほしいと思っているからやりません。
近年では、さまざまな事業で外部のパートナー企業との連携を増やしていく中、インテグリティに沿った発信をされることで、価値観にあったパートナーが集まりやすくなるという効果もありそうです。
そうですね。ただ、自由の中でステークホルダーを増やしていくと、難易度は上がります。無理はしたくないけれど、チャンスがあればより複雑で難しい状況を包含するエコシステムを作ったほうがいいんだよなと思っています。
繁栄に耐えるのは、苦難に耐えるより大変
より複雑で難しいエコシステムをつくるというのは、必ずしも成長のためではないのでしょうか。
そうですね。ただ成長というと、時に「小さいものはよいもので、大きいものはよくないもの」といった二項対立的に捉えられますが、やっぱり機能するためには健やかな成長はあるに越したことがないと思います。ただ必ずしも規模的な成長を望んでいるというよりは広い意味での「拡張」を志向しているのだと思います。
なぜ「拡張」が健やかな機能性に寄与するかといえば「拡張」するために、あるいは「拡張」に対応するためには常にイノベーションが必要になり、「学習」が発生しやすくなるからです。売上規模や時価総額が上がらなかったとしても、たとえばその会社が持つケイパビリティ(能力)が増えたことに起因して、応えられる顧客価値が増えるというのも拡張ですよね。あるいは、どのぐらい多くの人たちを包含できるかも拡張です。
規模の成長が、一番簡単な拡張なのだと思います。同じ仕事をしていても成長に従って変化が起きて、取引量や売上げが倍になったら別の仕事になるぐらい変わってしまうから、それに取り組む側はイノベーションを起こすために学ばざるをえない。その点で、規模的な成長を無理なく追える時期にそれを追っておけば、一番簡単に一番よい学習状態が保てます。他の方法だと、なかなか計画的にそれはかなわないですから。
成長は学習の機会、というわけですね。
僕がよく使うたとえ話で、「ビジネスは何の果物かわからないまま育て始める農業みたいなものだ」と思うんです。通常、リンゴであれば、一定の成熟した大きさになれば、もうこれでちょうどいい、となりますよね。でも残念ながらビジネスの場合は、自分たちが何の果物を育てているかわからない。ブドウかもしれないし、スイカかもしれない。まずはちょうどいい大きさまで育てないと成熟させるチャンスはないので、自分で勝手にこのぐらいがいいや、と決めてしまうのはナンセンスだと思っているんです。
僕自身は会社の売上高が5億円ぐらいのときに、もうお腹いっぱいだと思っていましたよ(笑)。お金もある程度は稼げて、みんなにも給料を渡せて、組織も20人以下だったから管理もそんなに大変ではないし、本当に幸せでした。でも、いまの規模が本当にちょうどいいのか、その時はわからない。だから、わかるまで大きくせざるをえないと思っています。
今期の売上高が100億円ぐらいで、僕はもう本当にお腹がいっぱいだけど(笑)、これが10年後に1000億円にいくかもしれないと思って経営をせざるをえない。そこに到達したいというよりは、健やかな循環を機能するようにしていたら、そうなってしまうかもしれないし、少なくとも実現したときに大きくなったことが原因で瓦解するような経営はできないから、準備をしなければならない。
収益や組織が大きくなること自体が目標ではないけれど、大きくなってしまうかもしれない。
大きくなってしまうことに耐えられるようにしないといけないですよね。実は繁栄に耐えるというのは苦難に耐えるより大変だと思うんです。だから、そのための準備はしなきゃいけないと思って経営していると、ある程度は伸びていくじゃないですか。伸びていくというか、そのぐらいポテンシャルのある足場で商売を始められたのだろうと思っています。
株式会社クラシコム代表取締役社長
2006年、実妹である佐藤友子氏(現副社長)とクラシコムを共同創業。同社にて07年よりライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を運営。「フィットする暮らし、つくろう。」をミッションに、現在ではD2C、コンテンツ制作・配信、企業へのマーケティング支援など、ライフカルチャーにまつわる事業を展開中。2022年に東証グロース市場に上場。(撮影:野中麻実子)
ただ海外市場に出ないと決断すれば、
「インテグリティがない」ことになる
近い将来、海外にも本格的に展開するのではと聞こえてきます。これも、いまのビジネスの地続きで、お客様に求められて出ていくのであって、成長や売上目標が先にあるわけではない、と。
そうですね。ただ、今の僕の立場で海外市場にまったく行かないと言えば、インテグリティがないということになる。機会があるのに、自分が楽だからとか、リスクがありそうだからという理由で展開しないというのはね。もしやってみて下手くそで失敗したならまだしも、まったくやらないのはまずい。
やったほうがいいというシグナルが出てしまったら、今度はやるという意思決定をしないとインテグリティがないことになる。いくらか試してみたけど、よいシグナルが出ないからやらないのも当然だ、ということなら、安心して「出ていかない」という決断もできるのですが。
でも、テストマーケティングではどうやら有望なシグナルが出ていらっしゃるような……。
いや、まだそういうシグナルは出ていないのですが、少しずつ試したことの成果は出ているので、じゃあ次のこと、その次のこと……とやっている間に、そうなるかもしれないですね。それは僕自身にとっては何も嬉しいことでもなくて、先ほども申し上げたように、もう売上高5億円の時からお腹いっぱいなので、本音を言えば、本当に勘弁してということでしかないです(笑)。
“シグナル”とおっしゃる事業のポテンシャルはどういう点から見出されるのですか。
これもドラッカーの示す「イノベーションのための7つの種」(下記参照)に決定的な影響を受けています。特に、第1の「予期せぬ成功」というのを多くの企業が大事にしていないんだろうと思います。僕らも「予期せぬ成功」が起こるまでは本気を出さないですよ。このぐらいでいいんじゃないか、と軽くやってみて、たとえば地力の3ぐらいしか出してないのに10返ってきた――仮に300万円掛けたら1000万返ってきたとすると、金額的に大したことはありませんが、「ここに何かが埋まっている」ということだけはわかってしまう。
僕の中心的な仕事はこんなふうに、いろいろなところを、あえて頑張りすぎずに試掘してみる。頑張ってないし、深く掘っているわけではないけれど、こんなに油が出てくるなら、きちんと掘れば結構な埋蔵量が埋まっているかもしれない、という油田を探し続けていて、少なくとも今の油田が枯れる前に次の油田を探すということをずっとやってきています。
小さな実験を常にされている感じですか。
本当にそうですね。昔、ある科学者がテレビ番組で「よい科学者の条件」を聞かれて「可能性のありそうなものに、端から順番に試していける人」と言っていたんですね。なぜなら、自分の考えでこの辺りに発明や発見がありそうだと思いつくようなものは、すでに皆に見つけられてしまっているから、端から順番に愚直に試せる人が世紀の発見をするんだ、というようなことをおっしゃっていた。本当にその通りだなと思いました。
だから先ほど出た海外展開についても、行きたい云々より、ECとして普通はここで海外展開を試してみるよなと。そのうえで、軽く試しただけなのに、何か「予期せぬ成功」があれば、じゃあもう一段深く入ってみよう、ということの繰り返しですね。よし、じゃあここは本気でやろうとなったら、リソースを一回全部ここに集中させる。そういうことを、ただただやってきています。
シグナルが出たら、すぐに手のひらを返す
たとえば、「北欧、暮らしの道具店」のアプリは、2025年9月には500万ダウンロードを突破し、すでに売上の約8割はアプリ経由になっているなど大成功していますが、青木社長は当初、アプリの導入には反対されていたと聞きました。
そうなんです。アプリは絶対やるべきじゃない、と長年にわたって反対論者でした。いまや大成功して、本当にすみませんでした、もっと早くやっとけばよかったね、となっています。アプリに限らずInstagramもそうですし、僕が反対したことばかりですね。でも、シグナルが出たら本気でやろうと。そこはもう本当に素直さには定評があるので(笑)、すぐに手のひらを返します。
やると決めたら、一気に仕組み化される。逆に、やってみてうまくいかなかった時の撤退も早い。昔、食品販売があまりうまくいかなくて、天井が意外と早く見えてやめた、と聞いたことがありました。
そうですね。逆のシグナルが出始めるというか。少し予想より下回るということが続くと、手掛けている人たちのテンションが下がるんですよね。少し利益が出ている程度の事業を、テンションを下げてまで人を張りつけているというのは、まさに「機能しない」ことでしかない。だったら、利益が出ているうちにやめて、その人たちのテンションが上がるような新たな仕事についてもらったほうがいい。一個一個の事業の利益を積み上げるということには、まったく興味がないんです。(明日4/27公開の記事へ続く)
期間限定プレゼントのお知らせ

書籍『P. F. ドラッカー完全ブックガイド』より、かつて青木社長も影響を受けた1冊という『「経済人」の終わり』の紹介ページと、全体の目次のPDFを期間限定でプレゼント中です。この機会にぜひ下記リンクよりダウンロードください。
<ご注意>
・PDFのダウンロードには、おすすめ論文・インタビューなどのメルマガが届く「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー電子版」無料会員へのご登録・ログインが必要です。
・本特典のダウンロード期限は、2026年6月30日火曜17時です。
・ご本人様限りでご利用いただき、無断転載・転用はご遠慮くださいますようお願いいたします。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年12月号
P. F. ドラッカー『真摯さ(インテグリティ)』とは何か
ピーター F. ドラッカーが逝去して20年。人間と社会の本質に迫るその思想は、いまなお世界の知識人に影響を及ぼし続けている。本特集ではドラッカー自身が何度も指摘していた「真摯さ」(インテグリティ)の重要性にあらためて光を当て、いまこの時代にどのように向き合っていくべきかを考える。
<お買い求めはこちら>
[Amazon.co.jp]







