僕らは、1日で1日分だけ進む「遅いタイムマシン」に乗っている
「一生懸命やってる」「うまくやってる」と思われているかもしれないが「本物だよね」という評価には至っていない、と語るクラシコムの青木社長
サマリー:「北欧、暮らしの道具店」を展開するクラシコムは、いまなぜ「オーセンティックな存在」を目指しているのか。2007年にヴィンテージの北欧食器専門のECサイトとしてスタートしたクラシコムは、一貫した世界観(ライフカルチャー)に共感するファンを引き寄せ、いまでは食器以外に幅広い商品を販売するだけでなく、メディアとして記事やドラマ、ドキュメンタリー、広告などを幅広く展開するプラットフォームとなっている。青木耕平社長に、同社が近年オーセンティックを追い求めている背景や真意を聞いた。

インテグリティを維持した先にあるもの

編集部(以下色文字):2025年12月にクラシコムのHPで公開された「2025年版社史」では、実妹で「北欧、暮らしの道具店」店長を務める佐藤友子副社長と「追い求めた『オーセンティック』の道中で見えてきたもの」をテーマに対談し、オーセンティック(正統、本物)に見られるような企業を目指す、という話をされていました。クラシコムは、状況への対応力や時流を捉える力を「うまい」と評される一方で、さらに進んで「正統」「本物」といわれる存在を目指している「道中」と評されていましたが、いまどこを目指して、どのぐらいの位置にあるという感覚でしょうか。

青木耕平社長(以下略):おそらくインテグリティ(真摯さ)を長期にわたって維持していたらオーセンティックになってしまう、というものなのでしょうね。オーセンティックという山があって、俺たちはいま何合目ということではなくて、それぞれの道があって、自分でも他者からも納得感があるという状態になるのだろうというイメージです。

 結局、自由な意思決定のもとで自分自身が設定した方向感や価値基準、美意識に対して一貫した意思決定を積み上げていった先に、ある閾値を超えると、単にインテグリティがあるというだけではなく、周囲から見た時にもオーセンティシティがあるという風に感じられるのではないかと思っています。

 すでに、そういう一定の評価をお客様から受けているブランドというイメージがありました。佐藤副社長が言われていたように、「ブランドとして尊敬されるよりも、クラシコムと組まないと成しえないことがあると思われたい」という存在なのでは。

 どうでしょう。そう見てくださっている方もいるとは思いますが、少なくとも伝統的な手法ではないですよね。だからいまのところ、僕らを正確に名づける業態名さえなくて、やっていることを箇条書きで言う以外にないんですよ。シンプルに「Eコマースをやっている会社です」と説明できるというのが、ある種のオーセンティックな状態だと思うのですが、現状はそうではない。それが、我々の時代でかなうのか、後の世代になってようやく名前が付いたね、となるのかはわかりません。

 いまのところ、「一生懸命やってるね」「うまくやってるね」と思われているかもしれませんが、「本物だよね」という評価に至るほどの実績もまだないし、自分たち自身もそんなふうにきちんと自己紹介できない段階ですから。オーセンティシティに少しずつ近づいているとは思っていますけれど、まだだいぶ距離があるなと思います。

すべては世界が教えてくれる

クラシコム 青木
青木耕平(あおき・こうへい)氏
株式会社クラシコム代表取締役社長

2006年、実妹である佐藤友子氏(現副社長)とクラシコムを共同創業。同社にて07年よりライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を運営。「フィットする暮らし、つくろう。」をミッションに、現在ではD2C、コンテンツ制作・配信、企業へのマーケティング支援など、ライフカルチャーにまつわる事業を展開中。2022年に東証グロース市場に上場。(撮影:野中麻実子)

 自己紹介という点では「クラシコム」という社名は広く包含していて絶妙なネーミングですね。もともとは、創業時に賃貸不動産のCtoC事業を始めた時につけられた名前だそうですが、そうとは思えないような、いま手掛けられている幅広い事業全体にしっくりくる名前です。

 思えないですよね(笑)。そういうものに限って「予期せぬ成功」がある。ECの店名である「北欧、暮らしの道具店」という名前も、ヴィンテージの北欧の食器屋さんを始める時につけた名前ですから、事業内容が広がったいまもそのままの名前でいるのはおかしい気もしますが、そこはシグナルが出てから変えればいいかと思っています。自分の頭で考えて決めることというのは所詮、大したことではないので、世界から差し出されるシグナルを感受して、それはそうだと納得できることをやってきています。

 オーセンティシティの話にしても、自分たちを無理やりオーセンティックな存在にしようということではありません。そこにたどり着く道筋はどうあるべきなのか、そこでの判断基準はどうあるべきなのかを改めて意識してしまうと、自分の頭の中だけで考えた整合性や見栄などによって、長年にわたって手掛けてきて最後の最後に道を外れてしまった、ということもありえますよね。だから、オーセンティシティとはどういうもので、単にどちらが優れているとか、有名かとか、箔があるか、といったことではないんだ、と判断基準を整理していくことで、オーセンティシティに近づいていきたいと思っています。

 オーセンティシティを目指す背景として、組織の規模も大きくなってきて、どうしても価値判断が揺れる時が出てくるけれども、少し長い時間軸で、みんなで目線を一回上げて揃えよう、という意味もあるのでしょうか。

 そうかもしれません。僕らは1日に1日だけ進むタイムマシンに乗って、ずっとタイムスリップをしている状態ですよね。僕はいま53歳なので、健康であれば30年後ぐらいの未来までは30年間かけて視ることができます。遅いタイムマシンに乗って、「あ、こうなってくるんだ」と変化を見ながら進んでいく。

 将来こうだったら面白いなという仮説はあるので、その通りになったら面白いし、そうならなくても予期せぬ何かがあって、まさかこんなことがあるとは!となれば、それはそれで面白い。やっぱりその時に「本当のことを知りたい」という興味があります。だから、時間軸を長く設定して長期目線で、というよりは、どこか俯瞰するような傍観者のような感覚かもしれません。

 「傍観者」というと、ドラッカーの考え方の背景が窺える『傍観者の時代』という名著も思い出されます。
 ところで、青木社長は2021年頃に「あと15年ぐらいは社長をやっていると思う」とおっしゃっていました。あと約10年ということになりますが、これから遅いタイムマシンで本当のことを知っていくには、少し時間が足りないのではないでしょうか。

 たしかに10年は……自分がやりたいという気持ちも全然ないのですが、(先々は)わからないですよね。その時が来ればわかってしまうというか、どう考えてももう辞めたほうがいいと痛いほどわかってしまうだろうし、逆にそれもないのに、この辺で引くのがかっこいいよねと決めるのも思考が浅いと思うんですよね。とにかくすべては世界が教えてくれるので、それに逆らわずにやっていこうと思っています。

【本インタビューの関連記事一覧】
・第1回「本当のことを知りたい」クラシコム青木耕平社長がドラッカーから学んだこと
・第2回 従業員に要求するのはエンゲージメントではなくインテグリティ
第3回 成長こそが一番簡単な「拡張」であり、一番よい「学習状態」である

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