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受信トレイがあふれるほど届く、従業員からの要求
筆者らが最近関わった経営幹部がある朝、出社すると、すでに受信トレイは依頼メールであふれていた。内容は、同僚間の対立のこと、成績が低迷する部下からの昇進の相談、仕事とはほとんど関係なさそうな会議への出席の許可申請などだ。それから、「お時間をいただけませんか」とだけ書かれたメールもあり、スケジュールの優先順位の組み直しに追われる。
午前10時には、彼は完全にペースを乱されていた。チームに対していらいらしながら、こうつぶやいた。「どうして私が次から次へと人の要求に対応しなければならないのだろう。私がここまで来られたのは、懸命に働いて、やるべきことをやってきたからだ。誰かが便宜を図ってくれるのを期待したりはしなかった」。従業員の要求に対して彼が過剰に反応していたのは、依頼の量が多かったからというよりも、どれも応じるべき正当な要求だと反射的に受け取ってしまっていたからだった。
従業員の要求は、ただの業務上の要望ではないことが多い。それは欲求の表れなのだ。どの要求にも切なる願望が潜んでいる。また、リーダーは誰しも、どの欲求を妥当と感じ、どの欲求を煩わしく感じるかを左右する背景要因を持っている。もし、ある要求はすんなりと受け入れられ、ある要求は不釣り合いなほどのストレスが喚起されるなら、原因は深いところにあるのかもしれない。いら立ちは通常の反応だが、不規則に起こるわけではない。いらいらは、あなた自身とあなたが率いている人々についてのデータなのだ。
いら立ちを重要なデータとして扱う
本稿執筆者の一人であるストリンガーは、新たな著書のための研究で、幼少期の体験が成人後の個人的な生活と職業生活でのウェルビーイングに与える影響を検証するために、4000人以上(年齢18~86歳、男性60%、女性40%)を対象とする全国調査を実施した。子どもの頃に強いストレスを経験した人は、成人後に深刻な不安を経験する割合が2.6倍高かった。一方で、親などの権威者から自分の欲求を支持された人は、良好なメンタルヘルスや人間関係を有していると回答する割合が3.18倍高かった。自分の欲求を正当なものとして尊重できるようになるほど、他者に対しても同じように振る舞えるようになることが多い。これは理屈として当然であり、臨床研究でも裏づけられている。
ここで重要なのは、職場での要求には何十年分もの未解決の物語が込められているかもしれないということだ。職場がそのパターンを形成したわけではないにしろ、増幅させているのは間違いない。従業員の支援の求め方やあなたの反応に対する解釈のパターンは、彼らが入社するはるか以前に形成されているのだ。
より端的に言うと、要求に対するあなたの反応が地に足のついたものなのか、それとも反射的なものなのかによって、あなたの生い立ちや、欲求との関係性について重大なことが明らかになる。リーダーシップの課題は、部下が何を求めているかを見分けることだけではない。自分の反応を引き起こすトリガーが、自分自身が避けているさらなる成長の機会について何を教えようとしているのかを見極めることでもある。
たとえば多くのリーダーは、期待以上の成果を出すことによって、自分に価値があると感じることを学んできた。従業員が個人的なケアや承認を求めてくると、あなたはそれを無責任や弱さとしてとらえるかもしれない。ただ要求がわずらわしいのではなく、あなたがこれまでの人生でずっと抑え込んできたものを、相手が平然と求めていることに反応しているのかもしれない。
ほとんどの場合、いら立ちは要求そのものよりも、その要求に対するあなた自身の判断から生じている。たしかに従業員は自分の未解決の心理的パターンを上司に転移するが、逆もまたしかりだ。リーダーとしての能力は、こうした心理的パターンに正面から向き合おうとする意思にかかっている。
リーダーシップを効果的に発揮するためには、自分自身の「逆転移」に気づく必要がある。要求された時、心の中でただちに起こる反応は何か、そして相手についてどのような物語を組み立てるだろうか。「この要求は妥当か」と問う前に、「これにはどのような人間的欲求が表れているのか。それによって、私の中で何が喚起されているのか」と自分に問いかけよう。
もう一人の本稿執筆者、カルッチは近刊の著書(エグゼクティブコーチのセバスチャン・リトルとの共著で、リーダーシップの原点となる物語をテーマにしている)に向けた研究で、3381件のリーダーへのインタビューを分析した結果に基づいて、172社のリーダーシップと組織の有効性の評価を行った。この研究に加えて、自己決定理論、アタッチメント(愛着)理論、発達心理学などの確立された心理学的概念に基づいて、カルッチは驚くほど一貫した傾向を発見した。職場の人間関係のダイナミクスの根底には、人間のけっして譲れない4つの欲求が潜んでいる。それは安全、愛情、帰属意識、意味である。
他者の欲求を図々しい、要求が高い、いらいらすると感じ始めた時、それは往々にして、あなたの中の同じような欲求がどれだけ満たされず、もろい状態になっているかを示している。明確に説明するよう求められると、自分のコミュニケーションの拙さを批判されたように感じる。協働を求められると、自分の考えがコントロールされる、または崩されるように感じる。安心を求められると、行きすぎた依存のように感じる。たしかに、そうした要求がひっきりなしに舞い込んでくると疲弊するだろう。だが、こうした反応は、あなたの基本的な欲求の何が満たされていないかを、より雄弁に語っているのかもしれない。つまり、あらゆる要求は常に2つのことを同時に示している。従業員が何を求めているのかを明らかにすることと、あなた自身が守ろうとしている満たされない欲求を露わにすることだ。
リーダーへのあらゆる要求に潜む4つの根源的な願望
本研究で明らかになった4つの根源的欲求には、従業員の要求の背後にあるニーズが表れている。また、それに対するあなたの過剰な反応は、あなたの満たされていない欲求を明らかにする。
安全:安心して発言したり、警戒せずに行動したりできるか。あるいは、不釣り合いな結果を恐れずにいられるか
従業員の要求は、仕事量についての懸念、対立の仲裁、部署の運営方法への批判、便宜の依頼として表れることが多い。「この決定を見直せませんか」「ミスをしました。助けていただけませんか」「私は同意できません。もう一度、説明してもらえませんか」のような発言だ。
リーダーは、みずからの安全欲求に不安があると、統制を強めようとする。その欲求が満たされていれば、自己防衛に走らずに、反対意見や不確実性を許容することができる。





