戦略理論研究に基づけば、ビジネスの対象としての「市場の魅力度(成長性や利益の上がりやすさ)」は、確かに一定の重要度は持つものの、個々の企業が将来獲得する経済的成果の良し悪し(経済的業績の分散)を、たかだか平均的に15%程度しか決定しない(注1)。

 業績の良し悪しの45%は個々の企業の経営資源によって決まる。つまり、市場がいかに魅力的(成長性云々)であるかを論じても、それは企業業績のごくわずかにしか意味を持たない。より重要なことは、いかに個々の企業が他社にない優れた経営資源を持ち、それを各市場で組み合わせて戦略を策定し、執行できるかだ。

 したがって本コラムにおいては、BOPの「場としての属性」は無論考察の対象にはするものの、より重点を置くのは、どのような経営資源や能力を有する企業であればこの包括的(BOP)市場において競争力を発揮できるのか、という部分になる。

(注1)Rumelt, R. P. (1991), “How Much Does Industry Matter?” Strategic Management Journal, 12:167-185.

包括的(BOP)ビジネスに
対する4つの批判

 様々な所で包括的(BOP)ビジネスに関する講演やレクチャーを行うが、特にこの領域に関心を持たない(もしくは初めて聞いた)優秀なビジネスパーソンからは、時に反感を伴って批判されることがある。この批判には、日本、海外に関わりなく遭遇した。

 批判は概ね次のいずれかである。

1)「BOPだの、経済性と社会性の両立だのと尊いことをおっしゃるが、つまりは途上国での営利ビジネスのことであって、なんら特殊なものではない。純粋にこれまでのビジネス原理で対応可能だ」。

2)「確かにグラフを見れば潜在的成長性は高そうだ。今が好機だ、行け、行けと良く言われる。だが、そもそも所得や購買力の低い市場へ行って儲かるのか?不慣れでリスクも高い。BOPなどまだ早い。やはり技術力の高い日本企業は富裕層と中間層へ行くべきでしょ」。