3)「何でわざわざ他国の貧困解消に、日本企業が出かけて行く(来る)のか。自国の貧困を解消するのが先ではないのか?」。

4)「社会問題解決に営利企業が与するといっても、結局本音は利益であり、途上国の現地経済が搾取されるだけでは?そうではないと主張するならば、それは偽善に聞こえるよ」。

 全ての批判は底流でリンクしているものの、それぞれ一理ある。

 第1の批判は包括的(BOP)ビジネスの特殊性に関するものだ。この批判は、長年途上国市場で地道に事業開拓を行なってきたという自負のある人や、企業から発せられることが多い。第2の批判は現時点で途上国低所得市場が事業ターゲットになり得るなどとは全く想定せず、かつ今後も真剣にその可能性を検討(実際に出るかどうかは別として)するつもりのない人や企業からよく発せられる。

 第3の批判は深遠かつセンシティブなイシューである。母国に対する名誉や自負心の問題が関わってくるからだ。第4の批判は主に長年途上国開発に携わった人々の一部(ごく一部だと思う)によるものだが、実はこの批判はそれとは真逆の新自由主義者たち(筆頭はミルトン・フリードマン)の論理にもきわめて近い。

 これから計6回にわたって、包括的(BOP)ビジネスを戦略理論と実務の視点双方から考察し、上述の批判に答えていこう。そして結果として、今後個々の企業が包括的(BOP)ビジネスに参入するか否かの意思決定を下すに際し、なんらかの原理原則・評価基準として資することができれば幸いである。

 まず初回は包括的(BOP)ビジネスを企業戦略理論の立場から考察し、第2回では包括的ビジネスの背後にあるより大きな文脈(経済性と社会性の問題)に論を進める。第3回ではこの種のビジネスを促進する外的環境の変化を構造化する。第4回には事業参入の意思決定モデルを示そう。第5回は様々な実務的知見から得られた「企業特殊な」成功要因を明らかにし、最終回は経済性と社会性を包含するパフォーマンス測定尺度に関して論じる。