包括的(BOP)ビジネスは
何が同じで何が違うのか

 さて、ここ数年様々なメディアが包括的(BOP)ビジネスを取り上げ、官民連携の分野でもそれを促進しようとする機運が高まってきている。JETROやJICA、USAIDなど国主導の機関や制度、国連(UNDP、UNIDO等)や世界銀行、アジア開発銀行やアフリカ開発銀行といった国際機関等、様々な公的機関が支援策を打ち出している。

 だが、こうした支援の存在は、あらゆる企業がこぞってこの包括的(BOP)ビジネスへ参入することが促されていることを意味しない。個々の企業レベルでの戦略的意思決定が先に立つ。つまり個別企業ごとの判断が必要である点は、他のいかなるビジネスとも相違ない。

 最初の批判にあるように、包括的(BOP)ビジネスは何もビジネスとして特殊なわけではない。考えてみれば、先進国であれ途上国であれ新興国であれ、この世に社会的意義のないビジネスなど存在しない。キャロル(注2)による企業の社会的責務の分類によれば、おしなべて全ての企業は社会ニーズに応える製品・サービスを生み出し、利益を出しながら事業を持続させ、配当を、納税を、雇用創出を果たすことが要請されている。換言すれば社会に富(wealth)を創出し資本を蓄積する役割である。これが果たされなければ、日本も戦後ここまで豊かな国にはなりえなかった。これら基本的責務が求められるのは、包括的(BOP)ビジネスでも同じである。

 だが一方で、包括的(BOP)ビジネスは、「絶対的貧困」や安全な水へのアクセスの欠如、はなはだしく悪い衛生状態、エネルギーアクセスの不足など、人間としての基本的ニーズ(basic human needs)に応えようとする点で特徴的である。