これら諸問題の解決は、これまで開発セクター・公的セクターの責務であるとされ、伝統的に私企業の活動対象とは考えられてこなかった。つまり包括的(BOP)ビジネスでは、企業が社会通念として求められる法的・倫理的最低限度の社会責任(注2の第2・第3分類)を超える水準の社会性を追求する場合が大いにあり得る。このレベルの社会性(社会問題へのコミットメント)は、あくまで注2の第4分類の「裁量的責務」に該当する。つまり、個別の企業が選択的に関与を判断するものであって、おしなべて企業に要請されるたぐいのものでは全くない。
包括的(BOP)ビジネスでは、民間企業が営利原則を発揮するがゆえに可能な規模拡大(scale)が期待できる一方、開発サイドから寄せられる「民間セクターによる開発(private sector development) 」への期待は、限定的に充足されざるを得ないかもしれない。なぜならば、先進国市場でも生じている「ユニバーサルアクセス」と「経済合理性」のコンフリクト(衝突)と類似した問題が、ここでも生じる可能性があるからだ。この問題については次回でより詳しく論じることにする。
(注2)Carroll, A. B. (1979), A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review, 4(4): 497-505.
上記論文によれば、企業の社会的責任は以下の4つに分類される。
1.経済的責務(economic responsibilities):社会のニーズに応える製品・サービスを作り出し、資本の確保と事業継続に必要な水準の利益を実現しながら供給・販売すること。その活動を通じた納税と雇用創出。企業にとって最もファンダメンタルな社会責任。
2.法的責務(legal responsibilities):社会の定めた法制度や規制の枠組みの中で経済活動を営むこと。例:労働関連法令、環境規制、知的所有権法令等の順守
3.倫理的責務(ethical responsibilities):法的水準を超える倫理的要請 例:フェアトレード、労働衛生環境のさらなる整備、適正な給与水準、カウンセリング、食事提供等
4.裁量的責務(discretionary responsibilities):個々の企業の裁量・自発的選択に委ねられ、参画しなくとも非倫理的とはみなされない。 例:さらなる雇用創出を目的とした製造現地化や販売網構築、社会的価値の高い製品サービスの選択、純粋な慈善活動