「会社は誰のものか?」

 いっとき「会社は誰のものか」という議論があった(いまでもある)。会社は株主のものだ、株主主権だ、だから配当したり株価を上げて投資家の利益に貢献しなければならない、とか、会社はそこで汗をかいている従業員のものだ、だから雇用をつくり、確保することが大切だ、はたまた、会社は価値を提供する顧客第一主義でなければならない……。

 「ICESモデル」というのをご存じだろうか。これを知っている人は相当のマニアと言わざるを得ない。たったいま僕がこれを書きながら適当に思いついたモデルだからだ。企業には4つの主要なステイクホルダーがいる。投資家ないし株主(Investors)、顧客(Customers)、従業員(Employees)、社会(Society)、それぞれのアタマをとってICESである(いうまでもなく、これは「モデル」というほどのものではない。当たり前の話だ。ところが、ごく当たり前の話をこの種の手口で「XYZモデル」とかでっちあげてドヤ顔をする手合いがときどきいる。意味ないですよね……)。

 会社は誰のものか、という問題設定はICESのどれを優先するべきかという話である。これもまた愚問である。こういう議論は意見が鋭く対立するのだが、よく聞いてみると、誰が声を出しているのかによって意見は大きく異なる。投資家に聞けば、「株主のものだ!配当を増やせ!」というのは当たり前だ。従業員に聞けば「従業員のものだ!労働分配を大きくしろ!」と言わないほうがおかしい。「阪神と巨人、どちらが良いチームですか?」と聞くようなものだ。巨人ファンなら巨人というだろう。

 ようするに、誰のものでもいいのである。ICES全部がなるべくハッピーになれば、それに越したことはない。どうすればよいか。配当を増やせば、必然的に労働分配は減る。こう考えれば株主と従業員は対立しているようにみえる。しかし、そもそも経営とは矛盾の解決である。ICESの絡み合いをよく考えて、すべてにつながるようなツボをおさえることである。

長期利益という「筋」を通す

 利益(短期のそれではなく、長期利益)という補助線を引いてみれば、ICESはつながっている。長期にわたってしっかり儲けることができれば、配当もできるし株価も上がる(I)。雇用もつくって守れるし(E)、税金も払える(S)。普通の競争があれば、長期利益こそ最も正直な顧客満足の指標である(C)。「全然儲かっていないのに、顧客が満足している」ということはあり得ない。どこかに無理がある。続かない。

 ということで、経営にとって大切なのは「長期利益」という結論になる。長期にわたってしっかり儲ける。これが商売の「筋」である。銭ゲバというのではない。経営者がこの筋に沿って考えたり判断したり行動しれば、ICESの各方面でさまざまな「良いこと」を同時に起こしやすくなる。マニアの方はすでにご存じのことと思うが、これを「PICESモデル」という(←ICESにProfitsのPを加えたもの。いうまでもなく、意味はない。古今東西当たり前の話)。

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