画一的なエンタープライズソフトウェアの終焉
HBR Staff/Luca Onniboni/Unsplash
サマリー:生成AIの進化により、企業が標準化されたSaaSツールに業務を合わせる時代は終わりを迎えつつある。自動化の対象はワークフローから成果へと移り、企業は従来のソフトウェアへの依存を減らし始めている。今後は、どの業務プロセスを自社の競争優位として保持し、管理するのかを見極め、それを実現するためのAIソリューションを誰が構築するのかが重要な経営課題となる。

競争力につながる独自のワークフローは何か

 大半の企業にとって、標準化されたエンタープライズソフトウェアは、唯一の現実的な選択肢だった。そうさせてきた経済的論理を、生成AIが打破しつつある。これに代わるものは、新技術の急速な進化だけでなく、より核心的な問いを自問するリーダーによって形づくられる。すなわち、どのワークフローを本当に自社で所有する必要があるのか、という問いである。

 最近まで、組織はみずからのワークフローを、標準化されたソフトウェアソリューションに適応させていた。たとえばセールスフォースのCRM(顧客関係管理)、SAPのエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)、ワークデイの人材マネジメント(HCM)、エピックの電子カルテ(EHR)といったベンダーのワークフローの慣行が、自動的に自社のワークフローの慣行となっていた。業務で利用可能なソフトウェアと引き換えに、自社の実際の業務遂行方法に忠実であることを放棄していたのだ。

 この取引は、筆者らの予想を上回る速さで崩壊しつつある。我々は2025年5月の記事で、生成AIがエンタープライズソフトウェアの根本的な論理を一変させ、自動化の対象をワークフローから成果に、そして「業務を可能にするシステム」から、「業務そのものを遂行するシステム」に移行させるだろうと論じた。その移行に10年はかかると予想していたが、方向性ではなくペースに関しては筆者らが間違っていた。

 この移行は現在、企業のIT支出のあり方と、業務そのものに関する考え方において急速に顕在化している。生成AIアプリケーションへの米国企業の支出は、2023年の17億ドルから2025年には370億ドルに急増し、3年も経たずに世界のソフトウェア市場でそれなりのシェアを占めるようになった。同時に、企業は従来のSaaSツールへの依存を減らし始めている。その結果、上場SaaS企業の評価額は2021年のピークから急激に縮小し、多くの主要企業は前回のピークを30~60%下回る水準で取引されている。

 こうした変化は、技術サイクルよりも意味深い何かを示している。企業はどのワークフローをみずからコントロールしたいのかを、戦略的に決める必要があるのだ。ITの外部委託、コールセンター、クラウドサービスの登場とともに、エンタープライズソフトウェアの最初の波も、組織の境界を引き直した。同様に生成AIの新たな波も、組織の境界を改めて検証することを迫るだろう。

 筆者らが予想したソフトウェアの破壊的変化は、すでに進行中だ。より重要な問いは、それに代わってどのような生成AIソリューションが、誰によって構築されるのか、である。

変化の規模、範囲、スピード

 ソフトウェアソリューションをめぐる環境と組織の境界がどう進化しうるのかを論じる前に、リーダーによる喫緊の対応が必要であることを予感させる、いくつかの動向を念頭に置いておくとよい。

 第1に、生成AIへの支出は異例の速さで推移している。生成AIアプリケーションへの企業の投資は2年で20倍以上に増えた。SaaSはこの水準の普及を達成するまでに、約10年を要した。

 第2に、ソフトウェアの開発方法が変化している。推計によればコードの40%がいまやAIで生成されており、開発者の大半が日々の業務でAIコーディングツールを利用している。かつて何カ月ものエンジニアリング作業を要したものを、数日で生み出すことがますます可能になっている。

 第3に、組織内ですでに初期の代替効果が現れている。調査では企業の3割以上が、少なくとも一つのSaaSツールをカスタムメイドの生成AIツールに置き換えたと回答し、過半数は今後1年でそうしたツールをさらに構築する予定だと答えた。早期導入を進める一部の中堅企業では、AI投資が急増する一方、プロジェクト管理ソフトなどのカテゴリーへの支出は実質的に減少している。