AI活用を加速するのは、共感型リーダーシップである
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サマリー:AI導入をめぐっては、経営層の認識と従業員の実感との間に大きな隔たりがあり、多くの従業員が不安や不信感を抱いている。こうした状況下で、共感を伴うリーダーシップは、心理的安全性を高め、AI活用やイノベーションを促進する重要な役割を果たす。本稿では、AI時代において共感がなぜ重要なのかを説明するとともに、リーダーが取るべき具体的な行動について論じる。

AI導入には共感型リーダーシップが不可欠

 なぜ職場で「共感」が必要とされるのか──その人間的な観点から見ても明白だ。人とのつながりは、私たちのウェルビーイングの極めて重要な源泉であり、そのつながりを感じている働き手は、より幸せに感じ、より健康になる。

 研究によると、共感の重要性は、ビジネスの観点からも同様に大きい。共感のレベルが高い企業の従業員は、より大きな成果を挙げ、より勤勉に働き、より効率的にコラボレーションを実践し、より強力なアイデアを生み出せるというのだ。

 しかし、いま気がかりなのは、AIの普及により人と人とのつながりが脅かされていることだ。多くの働き手は、AIが自分たちの仕事をどのように変えるのかについて強い懸念を抱いており、不信感や「FOBO」(fear of becoming obsolete)の感情が高まっている。FOBOとは、時代遅れになることへの恐怖心である。2025年の研究によると、AIを導入した職場では従業員の抑鬱のレベルが次第に高まることがわかっている。

 このような研究が浮き彫りにしているのは、新しいテクノロジーを導入する職場で従業員の健康を守り続けるうえで、人と人とのつながりが非常に重要だということだ。加えて、AIの登場により、共感はリアルタイムでビジネス上の業績に大きな影響を及ぼすようにもなっている。

 AI導入の成否が共感に左右されることを示すデータが相次いで登場しているのだ。人と人とのつながりを重んじる企業は、テクノロジーのイノベーションでも先頭を走っているという。

 この点を見落としているリーダーが非常に多い。ビジネスソルバーの2025年版「職場における共感の調査報告書」によると、59%のCEOは、共感を職場で必要不可欠なものとは考えていない(「あるに越したことはない」〈nice to have〉ものとしか考えていないのだ)。この割合は、前年の2024年の調査に比べて12ポイント増となっている。49%のCEOは、従業員とつながりを持つだけの時間的なゆとりがないと述べている。この割合も2024年に比べて16ポイント増だ。リーダーたちは、AIの導入に血道を上げる一方で、共感を捨ててしまったように見える。

 本稿では、共感に関する最近の研究成果および筆者自身の研究を基に、このような姿勢がなぜ誤りなのか、そしてどうすればリーダーがより好ましい行動を取れるのかを示す。

共感を欠くことの弊害

 リーダーが共感を発揮しなければ、AIの潜在能力を最大限引き出すことはできない。その理由はいくつかある。

共感を欠くリーダーシップは、AI導入のギャップを生み出す

 最近の調査によると、CEOはAIに絶大な信頼を寄せているようだ。対象者の81%は、自社に明確なAI方針があると述べており、40%は、AIのおかげで従業員1人当たり週8時間以上の時間を節約できていると回答している。

 このような見方は、従業員の認識と驚くほど乖離している。従業員の3分の2は、AIにより節約できた時間は多くても週2時間程度だと述べている。また、AI活用のための明確な戦略が自社にあると考えている人は28%にとどまる。

 リーダーたちは、従業員がAIをどのように活用しているかについて、楽観的で不正確な見方をしている。その一因は、AIについて従業員がどのように感じているかを理解していないことにある。ボストン コンサルティング グループ(BCG)が2025年に実施した調査によると、企業幹部の76%は、自社の従業員がAIの導入を大歓迎していると思っている。しかし、実際にAIを大歓迎している従業員の割合は31%にすぎない。

 企業の上級幹部たちは、新しいテクノロジーの導入により恩恵を受け、テクノロジーの活用方法について戦略を立案する権限も持っている。それに対し、多くの従業員は、未来を不透明と感じていて、「FOBO」の不安におびえている。

 たしかに、自分に取って代わるかもしれない存在を育てることに熱意を抱く人などまずいないだろう。従業員の経験について理解しようとしないリーダーは、こうした問題に気づかず、問題を是正できない。

共感を欠くと、イノベーションは減少する

 大切にされていると感じる人は、自分が安全な状態にあると感じ、リスクを伴う行動に踏み出す自信を抱く。リーダーにとって、このことが持つ意味は極めて大きい。カタリストの2021年の調査によると、共感を持って接するマネジャーの下にいる従業員の61%は、仕事でイノベーションを実践していると述べている。共感を発揮しないマネジャーの下にいる従業員の場合、この割合は13%にとどまっている。

 研究によると、共感を発揮するリーダーは、不確実性に対するメンバーの不安を緩和する。その結果、メンバーは新しいアイデアを受け入れ、探究し、実践することが可能になるのだ。

 こうしたことは、AIをめぐる状況にも当てはまる。2000人以上の従業員に関するデータによれば、自分が安全だと感じている人はそうでない人に比べて、AIツールを受け入れる可能性が高い。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)がリーダー500人を対象に行った調査によると、回答者の84%は心理的安全性と具体的なAIに関する成果の間に関連性があると感じている。

 ところが、多くのリーダーは、新しいテクノロジーをめぐる従業員の心理的安全性を高めるための努力をまったくと言ってよいほど払っていない。そのため、ほとんどの人は不安を抱き続けている。

 米国人の大半は、AIが自分の生活に及ぼす悪影響が好影響より大きいと考えている。また、ほとんどの場合、あるいは常にAIを信用できると考えている人も、21%にすぎない。こうした状況が変わらない限り、企業がAIに関して成熟することは期待できない。

共感を欠くと、AIの効率性が低下する

 思いやりと安全性を欠いている環境では、人々は自分を忙しそうに見せようと躍起になる。そうなると、往々にして仕事の質が低下する。AIはこの問題を新しい形で再び表面化させた。

 AIを使うよう命じられ、あとは「生産性が向上する」ものと期待された従業員は、いわゆる「ワークスロップ」を大量に生み出している。一見すると理にかなっているように見えるが、深みと価値を欠いているAI関連のアウトプットのことだ。ワークスロップがつくり出されるのは一瞬だが、同僚たちはそれを解読するために膨大な時間を費やさなくてはならない。そして、その結果としてコラボレーションが損なわれてしまう。

 ワークスロップを取り巻く問題は、根底にあるリスクが表面化する一つの形態にすぎない。共感や信頼を欠いた状態でAIが導入されれば、多くの働き手は積極的に抵抗する。

 ライターが職場でのAIの導入について調べた結果によると、従業員の3分の1近く(Z世代の場合は44%)が自社のAI戦略をサボタージュしたことがあると述べている。たとえば、非公認のモデルに機密性の高い情報を与えたり、アウトプットに手を加えて、AIをあまり有能に見せないようにしたりする、といったことだ。

 こうした行動は倫理に反するものだが、理解はできる。新しいテクノロジーをめぐって、誰かが得をすれば誰かが損をするような環境に置かれれば、人々が自分を守ろうとするのは自然なことだ。

共感を発揮することの利点

 以上の記述から明らかなように、企業がAIの能力を存分に生かせていないのは、テクノロジーが人間を通じて機能するものだという点をしばしば見落としているためだ。人は自分が気にかけられていると感じる時に、最も質の高い仕事をする。その点を忘れている企業幹部が多い。

 これは裏を返せば、賢明なリーダーが人と人とのつながりを重んじて行動すれば、AIに関して強みを手にできる可能性があることを意味している。特に有効な行動を紹介しよう。

AI戦略を共創する

 多くの企業でAIの導入がうまくいかないのはたいてい、リーダーが共感を欠いた行動を取っていることの結果だ。そうしたリーダーは、壮大で現実離れした目標を掲げるばかりで、その目標を達成する方法についてほとんど指針を示さないうえ、AI導入後に自分たちがどのような役割を担うのかについても、十分な安心感を与えていない。

 リーダーがこのような態度を取れば確実に、AIの導入を遅らせ、ワークスロップを生み出し、働き手の抵抗を引き出してしまう。

 リーダーが共感を伴った態度で臨むためには、新しい方針を従業員に一方的に通告するのではなく対話を、そして答えを与えるのではなく問いかけを行うことを意味する。その際は、AIの導入によって従業員がやりがいのある業務に集中できるようになるかについて、従業員と話し合う必要がある。

 これは、AIにより「自動化」を推し進めるというより、AIにより能力を「拡張」するものだ。このアプローチは、長期にわたりより多くの価値を生み出せる可能性が高いが、そうした長期の効果に加えて、直近にAIの導入を加速させる効果もありうる。リーダーと従業員がコラボレーション志向のマインドセットを持つようになり、全員の知識を有効に活用する道が開けるのだ。

 また、AI戦略を働き手と共創すれば、リーダーは、AIの導入に関して「手続き的正義」をつくり出すことが可能になる。意思決定者が明確なコミュニケーションを行い、すべての関係者の声に耳を傾ければ、働き手は新しい方針を受け入れる可能性が高まる。

 要するに、リーダーの共感は、AIの導入に際する情報やアイデアの量と質を高めるだけでなく、働き手がAI導入を受け入れやすくするのだ。

ミドルマネジャーに注意を払う

 職場でAIの導入を成功させるには、シニアリーダーが共感の重要性を理解していなければならないが、シニアリーダーの取り組みだけでは、共感のある職場はつくれない。

 ビジネスソルバーの2020年の調査によると、職場の共感に最も大きなインパクトを及ぼすのがマネジャーだと答えた従業員は、全体の10%にとどまった。2025年の調査では、この割合は38%に上昇している。

 現場のマネジャーたちは、共感のある職場文化の守り手になっているのだ。逆に言えば、そうしたマネジャーたちは共感を欠いた職場文化を存続させる存在にもなりうる。

 それにもかかわらず、こうしたミドルマネジャーたちは上級幹部たちと違って、ソフトスキルのトレーニングを受けていない場合が多い。その結果、リーダーが実現させたいと思っていることと現場の従業員が経験する現実の間に、ギャップが生まれている。

 幸い、研究によると、共感は教育を通じて学ぶことが可能だ。そうした教育を大規模に行うためのプログラムも登場している。

 たとえば、チューリッヒ保険は最近、保険金請求に対応する職員数千人を対象に、共感を伴うコミュニケーションのトレーニングを実施した。それにより、顧客体験と顧客ロイヤルティに改善が見られた。

 同様の「共感ジム」は、現場マネジャー向けにも展開され始めている。それを利用することにより、現場マネジャーたちが傾聴とコミュニケーションとフィードバックの練習をすることができる。これらのスキルは不朽の価値を持つものであり、AIによる激変を乗り切るうえでとりわけ重要なものだ。

テクノロジーが人間に関わるものであることを忘れない

 AIの導入には緻密な戦略が不可欠だが、それだけでなく、テクノロジーの存在意義に関するより深い哲学が土台になくてはならない。

 多くのリーダーが真っ先に抱くのは、人間を機械に置き換えようという発想だ。職場で自動化を推進し、AIプロダクトを導入することにより、セラピストやコーチや友だちを機械に代替させようというのである。しかし、こうした収奪的な発想は、人間の創造性を鈍らせ対人関係スキルをむしばみかねない。そうなれば、多くの人が最も大切にしている人生の要素が損なわれてしまう。

 しかし、AIの使い方はこれだけではない。AIが人間に取って代わるのではなく、人と人とのつながりを強化する手段として用いることは可能だ。筆者はそうしたAIを「相互依存のためのAI」と呼んでいる。たとえば、人々が互いにコミュニケーションを取り合うよう促したり、傾聴のスキルを教えたりするチャットボットなどがそれに該当するだろう。

 AIは、職場における相互依存を促進するために活用することもできる。相互補完的なスキルをもった働き手同士がコラボレーションを行うよう提案したり、対立が持ち上がっている時に歩み寄りの余地を見つけたりする役割を果たせるかもしれない。

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 このようなAIの使用方法は、すでに学術研究により有効性が裏づけられており、職場に極めて大きな恩恵をもたらす可能性を持っている。職場での相互依存を後押しするようなAI戦略を採用できれば、AIの有効性はいっそう大きくなる。

 テクノロジーを活かすための最も迅速で、最も有効な方策は、そのテクノロジーを使う人たちとともに導入に取り組むことだ。その人たち抜きに導入を進めることではない。


"Empathetic Leadership Can Make or Break AI Adoption," HBR.org, April 30, 2026.