データからインサイトを獲得する

 次に、レンタカー会社がどのような手順で問題の枠組みを変えていったのか、データからインサイトを獲得するプロセスをご説明したいと思います。ポイントは、理論にデータをあてはめるのではなく、データから理論を導き出していくことにあります。代表的な手法としては、KJ法やグラウンデッドセオリーアプローチがあります。ここでは、プロセスを大まかに3つのステップに分けてご説明します。

1.データを切片化し、付箋に書き出すステップでは、観察やインタビューで収集したデータを読み込み、気になるデータを一枚の付箋にひとつずつ書き出します。データを切片化する理由は、データを文脈から切り離すことでデータをさまざまな角度から眺められるようにするためです。

 例えば「30歳前後の女性が、子供の手を握り、肩から子供のカバンを提げて、声をかけてきたタクシーの運転手を無視し、運転手が気になる子供の手を強く引っ張りながら、レンタカーのシャトルバスの乗り場を探している」というデータがあるとします。このデータは個別の状況をとてもよく説明していますが、このサイズのままでは文脈に縛られてしまい、それ以外の見方ができません。

 そこで、このデータを「子供の手を握って移動する」「子供のカバンを提げて移動する」「タクシーの運転手が声をかけてくる」といった切片に分断します。文脈を断ち切ることで「子供の手を握って移動する」というデータにどんな意味があるのか、データとの距離をとりながら検討できるようになります。

2.付箋をグループ化し、タイトルをつけるステップでは、切片化したデータの要素を比較することで、いままでにないグループを生み出していきます。データの要素とは、付箋に書き出したデータが言外に持っている内容のことです。

 例えば「子供の手を握って移動する」であれば、誰が:旅慣れない母親、子供の数:1人、いつ:空港到着時、どこで:空港ターミナル、状況:クルマの往来が激しい、なぜ:子供の安全を確保するため、結果:移動に時間がかかる、感情:いらいら、といった要素が含まれます。

 データ同士の要素を比較し、同じものや近いものをまとめていきます。グループができたら、グループを代表するデータをひとつ選択し、そのデータのニュアンスを生かしながら、グループを説明するタイトルをつけます。

3.グループ間を比較し、隠れたパターンを見つけるステップでは、グループ同士を比較することで、「誰が」「いつ」「どのような状況で」「何のために」「どのような出来事を経験し」「どのような結果を得たのか」というつながりを見つけ出していきます。インサイトは、これまでになかった新しいつながりのことです。インサイトが出揃うと、次にインサイト同士のつながりを見つけ出し、新しい問題の枠組みを作り出していきます。

 このステップでは、常に顧客の3つのレベルのゴールを意識しながら作業を進めていきます。繰り返しになりますが、すでに持っている理論や仮説にデータを当てはめようとしてはいけません。データからインサイトを獲得するアプローチの本質は、データをこれまでとは違う見方で定義づけ、これまでになかったグループやつながりを創造することにあります。