問題をリフレームする:レンタカー会社の事例

 第4回から第6回にかけて、「具体的に理解する」=より広い状況で、顧客の行動や感情に焦点を当ててデータを収集する方法をご説明しました。今回は「抽象的に理解する」=収集したデータから重要なパターンを発見し、問題の枠組みを変えるステップです。はじめに、レンタカーの事例を使ってポイントをご説明しましょう。

 あるレンタカー会社がサービスの改善に取り組んでいました。この会社は自社のサービスを「クルマを貸すこと」と定義し、クルマを貸す一連のプロセスの中に改善ポイントがあると考えていました。長年にわたって自社の業務について顧客アンケートを実施してきたものの、そのデータを使って大きな改善につながるようなインサイトを得ることはありませんでした。

 顧客アンケートに限界を感じたこのレンタカー会社は、自分たちの業務そのものではなく、その周辺で行われる活動に焦点を当てて顧客を観察します。その結果、「シャトルバスの乗り場がわからない」「荷物の詰め替えや着替えの場所がない」「荷物から目が離せない」「子供が手続きの邪魔をする」など、自分たちの業務の周辺で顧客がさまざまな問題に遭遇していることを発見しました。顧客はこれらの問題をレンタカー会社の問題と思っておらず、自分が問題に遭遇している自覚すらなかったため、顧客アンケートで「何が問題か?」と聞かれても答えることができなかったのです。

 観察で得たインサイトから、駅や空港にわかりやすい案内板を設置する、フィッティングルームを用意する、といった解決策が考えられます。しかし、単に問題を除去するだけでは、顧客が繰り返しその会社を利用したり、収益が大幅に向上するといったことは期待できません。そこで、このレンタカー会社は、より大きなレベルで問題を捉えようとします。

 観察で明らかになった問題を「誰が」「なぜ」「どのような状況で」「その結果は」という視点で比較してみたところ、ほとんどが旅慣れない顧客の問題だということがわかりました。対照的に、荷物の量を調整したり、シャトルバスから一番早く降りられるシートに座っていたのは旅慣れた顧客でした。彼らは自分自身でさまざまな工夫をすることで、問題を回避していたのです。

 自社が焦点を当てるべき顧客セグメントを絞り込むことで、より効果的に施策を展開することが可能になります。しかし、このレンタカー会社はさらに大きなレベルで問題を捉えようとします。旅慣れた顧客は「なぜ」「どのような状況で」「どんな結果を得るために」荷物の量を調整したり、一番早く降りられるシートに座ったりしたのでしょうか。

 感情に焦点を当てて考察を加えることで、彼らの行動の背景に「現場で感じるストレスを少しでも和らげたい」という隠れたニーズがあることがわかってきました。さらに、旅慣れない顧客と旅慣れた顧客の感情を比較することで、深いレベルでは、どちらの旅行者も「旅行に伴うストレスや緊張から開放され、元気を取り戻したい」という仮説を導き出したのです。

 このレンタカー会社は、インサイトを使って問題の枠組みを変えることで、「クルマを貸すこと」から「顧客を元気にすること」に自社のサービスを再定義することに成功しました。この事例が示すように、問題の捉え方によってインサイトのレベルが変わってきます。問題の抽象度があがるほど、より大きなインサイトにつながっていくことを確認していただけたでしょうか。