仕事のできない部下に低評価をつける大きな代償
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サマリー:マネジャーは、仕事ぶりがお粗末な従業員に対して厳しい評価をつけると、彼らから逆恨みを買い、報復を受けるというコストを抱えることになる。昨今、社員クチコミサイトの普及で、不満が増幅されやすい中で、マネジャーは率直な評価と職場の調和との間で、繊細なトレードオフに直面しているのだ。本稿では、減給などに伴う従業員による報復リスクを検証した研究をもとに、マネジャーや人事部、従業員がどのように職場の機能不全を防ぎ、調和を保つための現実的なアプローチを紹介する。

従業員への率直な評価と報復リスクのトレードオフ

 本稿はハーバード・ビジネス・スクールのワーキング・ナレッジによって作成されたもので、助教授のエンリケ・カストロ=ピレスの知見を紹介している。

 噂話をする、仕事のペースを落とす、反抗的な態度を取る、会社の製品にダメージを与える──。これらは不満を抱えた従業員が、それを態度に示す方法の例だ。

 そうだとすれば、従業員に低い評価をつけて、こうした逆恨みを買うリスクを冒す価値はあるのだろうか。厳しい評価をつけたために、その従業員の報酬が減った場合はどうか。グラスドアなどの場で従業員が企業を評価できる時代において、多くのマネジャーは「損切り」に走る。つまり、ほとんどの従業員に平均的な評価を与えて、お粗末な仕事ぶりの従業員にもそれを指摘しないことが多い。

 これはマネジメントの破綻ではない。それどころか、マネジャーが仕事ぶりの悪い従業員にも上乗せして評価するのは、その通りの評価をすれば反発を招くことを予期しているからであり、厄介事やそれに伴うコストを回避するという意識的(あるいは無意識的)な判断を下しているのだ。

「(低い評価を与えられた従業員の)報復行為は、企業にどのくらいのコストをもたらしているか」と、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)助教授のエンリケ・カストロ=ピレスは問いかける。「従業員を長期にわたり雇用し続けたいなら、健全なチームを維持することが極めて重要であり、機能不全に陥った環境は大きな代償をもたらすだろう」

『マネジメント・サイエンス』誌の2026年2月号に掲載された論文Management, Performance Reviews, and Retaliation(未訳)において、カストロ=ピレスの理論モデルは、従業員の抵抗(静かな退職から露骨な妨害行為まで)の代償を検証している。社員クチコミサイトが不満を拡大させる時代に、この研究は、マネジャーが直面する、率直な評価と職場の調和とのデリケートなトレードオフを浮き彫りにしている。

 カストロ=ピレスの研究は、マネジャーは優れた仕事ぶりに強力なインセンティブを提示すべきだが、小さなミスは見逃すほうがよいかもしれないという点を示している。従業員の報復がもたらすコストは、厳格な評価がもたらす恩恵を上回ることが多い。

「我々の研究結果は、たとえ処罰したほうが適切な場合でも、お粗末な仕事ぶりを処罰しないほうが企業にとってはよいかもしれないことを示唆している」と、論文では述べられている。

妨害工作がチョコレート工場を襲う

 カストロ=ピレスが職場における報復行為を研究し始めたのは、ブラジルで菓子工場を経営する友人から、実に不快なエピソードを聞いたのがきっかけだった。勤務評価の結果、減給になったことに腹を立てた従業員が、報復としてチョコレートのタンクにエタノールを混入させたというのだ。

 毎日チョコレートの味見をする係だったカストロ=ピレスの友人は、何かがおかしいと気づき、その日生産した商品を廃棄しなければならなかった。「莫大な損失だった」とカストロ=ピレスは語る。

 報復行為を検証するのは難しい。ほとんどの従業員は自分がやったと認めようとせず、ほとんどの職場もそうしたことが起きているとは認めないからだ。このチョコレート事件では、会社が監視カメラの映像を確認してその従業員を解雇したが、ほとんどの報復行為はさらに巧妙である。「日常業務に少し手を加えれば、上司や会社に大変な思いをさせることができるケースは多い」とカストロ=ピレスは語る。

 彼の論文は、職場における報復の事例を紹介している。米国のコールセンターを調査した2022年の論文によると、従業員は賃下げの腹いせに、顧客へ返金するケースが増えていることがわかった。具体的には、返金率は5.8ポイント上昇し、純売上高を1時間当たり約11ドル押し下げた。1972年の書籍Working(邦訳『仕事!』)は、不満を抱いた鉄鋼労働者が上司に、「はい、わかりました」(yes, sir)と言うことを拒んだ他、時々「(鉄鋼に)へこみを入れた」ことを記録している。

評価が目標を達成しない理由

 上司は部下の行動をすべて把握することはできない。それは倫理学者らが「モラルハザード」、つまり悪用されやすい環境を生み出す。多くの企業は、昇給や賞与といった報酬によって従業員が売上目標や実労時間などの目標を達成するよう促しており、一部企業は目標を達成できなかった従業員の給与を減らす。

 アウトプットの測定が難しい場合、多くの企業は口頭または書面で評価を示す。しかしこれにはバイアスがかかったり、不公平が生じたりしやすいと、カストロ=ピレスは語る。批判派は、評価が「甘い」、つまり成績の低い従業員の出来の悪い仕事の評価を水増ししているとか、評価が「画一的」で、従業員の仕事ぶりのばらつきを反映できていないと指摘する。

 基本的に、こうした評価はあまり有益な情報をもたらさない。「仕事ぶりの細かな差異が明らかにならない」とカストロ=ピレスは言う。「ただ、企業にとっては最適なのかもしれない」

上司はどの程度の報復までなら許容できるか

 カストロ=ピレスは、こうした「欠陥」(甘い評価と画一性)を特徴とする理論モデルを構築した。こうした傾向は、厳しい評価は従業員の仕返しを招く可能性があることをマネジャーが認識していて、低い評価を下さないでおくことが会社の利益になると判断していることを示唆しているというのだ。

 カストロ=ピレスのモデルによれば、従業員が報復行為に及ぶのは、給与が予想よりも下がった時で、それもマネジャーが否定的な評価を会社に報告する前の段階だという。それ以降は、懲罰に加えて否定的なフィードバックを与えると、従業員の態度を悪化させるだけかもしれない。

「核心となるインサイトは、企業がトレードオフに直面していることだ。(従業員に関する)さらに多くの(否定的な)情報に基づき、お粗末な仕事ぶりを罰することにより、その従業員の報復を招いて損失が出ることを甘受するか、良好な成績を挙げた時に初めてインセンティブを提供するが(事前の否定的な)情報を無駄にするか、だ」と、カストロ=ピレスらの研究論文は説明する。

 カストロ=ピレスによると、マネジャーが取ることのできるアプローチは2つある。

「アメとムチ」を使い分ける

 報酬を成績に結びつける(ボーナスで報い、減給で罰する)と、企業は、より正確に従業員の努力を評価できるが、従業員を罰する時は、何らかの報復を覚悟すべきだ。このアプローチは、短期的な課題に最も適しているとカストロ=ピレスは言う。

「アメ」だけを使う

 マネジャーは、報復を招く可能性を踏まえて、優れた成績には報いるが、お粗末な成績は見逃してもよい。しかし、減給という脅威を取り除くと、一部の従業員は努力を怠るようになるから、企業は凡庸な仕事ぶりに過大な報酬を与えることになると、カストロ=ピレスは語る。お粗末な仕事ぶりと、凡庸な仕事を区別することが難しくなり、「同じ成果に対して、少しばかり多く報酬を支払うことになる」。

職場に調和を取り戻す

 カストロ=ピレスは、マネジャーや人事部門、そして従業員が、率直なフィードバックと、報復最小化のバランスを取るための現実的な検討事項を提案する。

マネジャー

・小さな問題は見逃そう。「ある従業員の仕事ぶりに関するあなたの印象が、期待される平均的水準よりもわずかに低い場合は、報復コストを避けるためにも、報告しないほうがよいかもしれない」

・給与とネガティブなフィードバックを切り離す。「(勤務評価において)、『これは君の報酬に直接影響しない。私は君の改善を助けたい』という雰囲気を醸し出すことができれば、(従業員も)報復行為に出るべき理由がないだろう」

・低評価の理由を明らかにする。「報復行為の多くは不公平感から生まれる」と、カストロ=ピレスは言う。「従業員に評価の基準を伝えることは重要だ。実際の評価の理由を理解し、報復を少しばかり防げるだろう」

人事部

・主にアメを使い、ムチは控えめに。「報復の引き金を引くのを避けるためにも、従業員の成績が(一定の)水準を下回った時、報酬を減らすのは避けるべきだ」と彼は言う。それよりも、優れた成績に賞与を与えるなど、インセンティブに重点を置こう。

・マネジャーと従業員の両方の意見を聞き、報復行為を見つけよう。「社内で報復行為を目撃したことがあるかを、匿名で答えてもらうのは有効だ。実際に経験したことがあるか、それとも懸念があるかを聞くのもよい」

従業員

・仕返しではなく、伝えよう。従業員が評価や減俸に不満を抱いている時は、率直なコミュニケーションこそが問題を解決する道だと、カストロ=ピレスは言う。

・転職を検討する。コミュニケーションを図っても問題が解決されず、不当な評価を受けているなら、転職を考える時かもしれない。「ここは私が働き続けたいタイプの会社なのか、それともあまり合わないのか。自分の信念に近い企業文化や職場環境を探すことを検討しよう」


"Why Leaders Should Let Minor Mistakes Slide," HBR.org, May 11, 2026.