伝統的なマーケティング手法は、AIエージェントに通用しない
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サマリー:AIエージェントが消費者に代わって購買を行う時代が到来し、従来のマーケティングは通用しなくなっている。研究によれば、損失回避や稀少性、社会的証明といった人間向けの説得メカニズムはAIには十分に機能せず、逆効果になる場合もある。しかし、多くの企業はAIバイヤーの行動特性を理解していない。購買主体が人間からAIへ移行する中で、マーケティング戦略の抜本的な見直しが求められている。

購買判断をするAIエージェントが人間と同じ動機で動くとは限らない

 人間ではない買い物客が増えている。AIエージェントが消費者に代わって、商品を検索したり、比較したり、購入までしたりするようになってきた。最近、オープンAIはチャットGPTを商品発見やeコマースアプリにいちだんと深く組み込んだ。グーグルは、AIエージェントがさまざまなeコマースサイトで買い物できるようにする共通プロトコル「ユニバーサル・コマース・プロトコル」(UCP)を発表した。そしてアマゾン・ドットコムは、自社のエージェントが顧客に代わって他社のeコマースサイトで買い物をできるようにするツールをリリースした。

 マーケターが長年かけて磨いてきた説得戦術は、人間の認知パターンに基づいているが、AIエージェントには同じような効果をもたらさない。まったく効果がない場合もあれば、逆効果を招く場合さえある。これは憶測ではない。筆者らが4つのAIモデルを使って数千回に及ぶショッピングのシミュレーションを行い、eコマースサイトでよくある8つのプロモーションメカニズムの効果を調べたところ、一貫して人間の購入者に期待される通りに振る舞ったモデルは、一つだけだった。

 ほとんどの企業は、この事態に備えられていない。米国と英国のeコマースサイト運営会社のエグゼクティブ50人を対象とした予備調査では、半分以上のエグゼクティブが、AIエージェントに起因すると見られるトラフィックやコンバージョンをすでに認識しており、AIエージェントの自社サイトとのエンゲージメントを改善する方法を積極的に模索していると答えた。それにもかかわらず、人間の買い物客を説得する手掛かりが、AIエージェントにも効果を発揮すると捉え、AIエージェントの行動に最も重要な意味を持つ要因を、すでに理解していると考えていた。

 筆者らの研究は、この自信が根拠のないものであることを示している。現在の説得のメカニズムは、人間を対象に構築されている。すなわち損失回避やアンカリング、稀少性バイアス、ソーシャルプルーフ(社会的証明)などだ。AIの買い物客にとって、こうしたメカニズムは信頼に足る原則ではない。しかもこうした知見は、AIモデルが進歩するごとに古くなる可能性がある。

研究で明らかになったこと

 筆者らは、AIエージェントと典型的なeコマースサイトの商品ページとのやり取りを再現するシミュレーションを構築し、4つのAIモデル(GPT-4.1-mini、GPT-5、Gemini 2.5 Pro、Gemini 2.5 Flash Lite)が、よくあるグリッドレイアウトに並べられた商品群から購入する商品を選ぶタスクを与えた。各商品には、eコマースサイトでよく使われる8種類のプロモーションアイコンをつけた。具体的には、保証(「返金保証」)、プロモーションの有効時間タイマー、値下げ表示(元の価格に取り消し線を引き、新価格を表示したもの)、稀少性アイコン(「残り2点」)、ソーシャルプルーフ(これまで購入された数)、クーポン、セット販売、星評価だ。これを4つの商品カテゴリー(スマートフォン、スマートウォッチ、洗濯機、マウスパッド)に適用し、人間が買い物をする場合と同じようなパターンが見られるかどうか調べた。そのために各AIモデルと商品について、1000回の購買シミュレーションを実施し、計1万6000件以上の選択を生成した。

 最大の発見は明快だった。4つのAIモデルと商品カテゴリーのすべてで、ある商品が選択される可能性を一貫して高めたのは、星評価だけだった。これは、消費者の選択は品質に関する情報に依存するという定説と一致する。それ以外のアイコンの効果は、AIモデルや商品カテゴリーによって(場合により劇的に)異なった。2番目に商品選択に大きな影響を与えたアイコンは、ソーシャルプルーフだったが、ケースによってばらつきがあった。

 これとは対照的に、値下げ表示や有効時間タイマー、セット販売といった、お馴染みのマーケティング戦術には、安定した効果が見られなかった。それによって当該商品が選択されることが増える場合もあれば、まったく効果がない場合もあり、少なくとも一つのケースでは、セット販売はむしろ選択の減少につながった。

 大まかなパターンが明らかになった。非推論モデル(Gemini 2.5 Flash LiteとGPT-4.1-mini)は、総じてプロモーションアイコンに敏感に反応したのに対し、推論モデル(GPT-5とGemini 2.5 Pro)は反応が鈍かった。ただし、この一般化にも限界がある。同じAIモデルが同じアイコンに接しても、商品カテゴリーによって正反対の反応を示すこともあったのだ。

 そこで筆者らは、より深い問いを投げかけてみた。すなわち、なぜこれらのマーケティング戦術は人間には有効なのか、その論理によってAIエージェントの反応を説明できるか、である。実験で使用したプロモーション施策が、人間に対して効果を発揮するのは心理学的な理由による。稀少性アイコンは、ブームに乗り遅れる不安(FOMO)や、潜在的な損失感を刺激して、売り切れる前に買わなくてはと消費者を促す。しかしこの施策は、一部のAIモデルには効果がなく、GPT-5は特定の製品カテゴリーでは否定的な反応すら示した。このことは、一般的に人間に観察されることとは正反対のパターンを示唆している。

 同じように、値下げ表示は「アンカー」となり、値引き分を利益のように感じさせ、購入を促す。だが、(AIモデルに関しては)この論理に沿った一貫した反応パターンは観察されなかった。Gemini 2.5 Proの場合、値引きが激しくなるにつれて、その説得効果はむしろ弱まった。ここでの構図は明らかだ。プロモーション施策はAIエージェントの選択に影響を与える時もあるが、それが人間に影響を与える理由とは異なる理由によっていた。