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組織的に「過去を捨て去る」ことの重要性
エレナが率いるヴァータリー・システムズ(仮名)は、かつては革新的な物流企業として知られていたが、現在は時代の変化についていくのに苦戦している。「私たちの能力が不足しているわけではない」と彼女は筆者らに語った。「自分たちの過去という重荷に引きずられている」。同社ではレガシーなワークフローが存続し、古い前提に基づいて意思決定が下され、「これまでのやり方」が戦略を形づくっている。リアルタイムデータと自動化によって市場が激変する中、こうした惰性が競争力を静かに蝕んでいるのだ。
ヴァータリーの例が示すように、競争力を削ぐ要因の多くは、その企業に欠けているものではなく、組織の記憶として未来へ引き継いでいるものにある。マネジャーたちは、もはや現代の市場の現実を反映していない凝り固まった手法にしがみつきがちだ。組織が過去から脱却し、新たなスタートを切るために必要なプロセスは「組織的忘却」と呼ばれる。しかし、データインフラが拡大し、組織の意思決定に対してAIの影響力が高まる今日の環境において、組織的忘却の重要性は軽視されがちだ。
本稿では、経営陣が過去を捨て去れずにいる時に生じる3つの組織的な制約について概説する。そして、AIを活用して組織の慣行を刷新し、より優れた競争力を持つ未来を築く方法と、AIを用いて変革のための客観的な根拠を示す方法を、具体例とともに提示する。
優先順位をゆがめる業績評価指標
時代遅れの指標に固執していると、企業は資源の配分を誤り、不適切な行動を評価し、組織の成功に不可欠な最新の業績ドライバーを見落とすことになる。「デジタルダッシュボード」の時代において、この危険性はさらに増大する。過去の遺物となったKPI(重要業績評価指標)が、単に報告書の中に残るだけでなく、可視化され、定着し、社内に流通してしまうからだ。これにより、意思決定システムそのものが根底からゆがんでしまう。
筆者らが調査した、英国で全国展開する小売りチェーンであるウィットフォード&コー(仮名)の事例を見てみよう。同社は、主に食品小売店で知られる会員制の生活協同組合である。当時、売上げの低迷、利益率の悪化、そして顧客離れの増加に直面していた。経営陣はチェンジマネジメントプログラムを通じて業績を改善しようと尽力したが、結果はいっこうに変わらなかった。従業員が慣れ親しんだレガシーなKPIにしがみついていたためだ。
AIによるアプローチ:指標の抜本的見直し
組織的忘却のプログラムを進める上で、最大の障害となるのが複雑さだ。ウィットフォード&コーは、どのレガシー指標が依然として有効で、どれが無効であるかを突き止めるため、AI駆動型の分析プラットフォームであるスノーフレイクのコルテックスエージェントとマイクロソフト・ファブリックを導入した。人間のアナリストには不可能だった、顧客の購買データ、デジタル行動ログ、オペレーション記録の同時照合を実行するためだ。
AIが数千ものデータポイントを処理した結果、最も重視されていた指標の多くが、顧客維持率や企業の収益性とほとんど相関していないことが明らかになった。たとえば、同社の主要なKPIであった来店客購買率(実店舗の訪問者のうち実際に購入に至った割合)は、顧客行動に関する古い見方を反映したものにすぎなかった。オムニチャネル化が進む現代の購買プロセスにおいて、この指標は最終的なリアル店舗での顧客接点しか捉えておらず、現在の購買決定に大きな影響を与えている、それ以前のデジタル空間での接点を無視していたのだ。
同社が直面していた課題は、複雑さだけではなかった。経営陣は、マネジャーらが古いものを手放して新しいものを受け入れることに後ろ向きであることも把握していた。そして、AIを活用することで、経営陣は特定の個人やグループの主観に左右されない、KPI廃止のための強力な根拠を提示することができた。小売部門のコマーシャル・パフォーマンス・ディレクターであるヴェスナは、次のように語った。「AIを活用したことで、不要なKPIを廃止するための客観的でデータに裏づけられた根拠が得られた。これによって、この種の取り組みを頓挫させがちな、感情的な対立や社内政治の摩擦を排除することができた」
その後3カ月間で、小売部門は来店客購買率や来店客問い合わせ比率(来店客がサービス問い合わせに至った割合)を含む、12のレガシーKPIのうち7つを廃止することができた。その代わりに同社は、デジタルとリアルのタッチポイントをまたいで購買を完了した顧客の割合を示すマルチチャネルパス完了率や、企業との取引において顧客がどれだけの手間を感じたかを測定する顧客努力指標(CES)など、実際の行動に即した指標を導入した。
市場を困惑させるビジネスアイデンティティ
かつては強みであった企業アイデンティティやブランドポジショニングが、時間の経過とともに足かせになることがある。米国に拠点を置くソフトウェア会社フェンシス(仮名)の例を挙げよう。同社は、官民の顧客向けにデータ統合および分析プラットフォームを構築している。2010年代初頭、「データファースト」を掲げてブランドを確立し、市場へのアプローチ、営業トレーニング、顧客への提案書など、すべての活動がこのポジショニングを中心に展開されていた。
しかし、時が経つにつれて顧客の期待は変化していった。顧客はもはや「データファースト」という言葉には惹かれなくなっていた。データ活用能力はあって当然のものと見なされるようになり、現在彼らが求めているのは、意思決定の迅速化、オペレーションリスクの低減、テクノロジー投資に対する測定可能な投資対効果(ROI)など、具体的なビジネス成果を示せるパートナーだった。
何度も戦略オフサイト合宿を重ねたにもかかわらず、フェンシスの従業員は創業以来のアイデンティティを捨てることができずにいた。その結果、経営陣は古いポジショニングの上に、新しいポジショニングの文言を継ぎ足し続けた。たとえば、営業資料や提案書の中身は依然として「データファースト」という言葉で始まっているにもかかわらず、その中に「インサイト主導の変革」や「AI対応インフラ」といった新しいフレーズが重ねられていたのである。
AIによるアプローチ:戦略的言語の一掃
フェンシスが組織的忘却の課題を解決するためには、まずAIを使ってパターンを認識する必要があった。具体的には、数千もの文書の中に潜む、複雑に入り組んだ矛盾を特定することだ。これは、人間のレビュー担当者が予算と規模の制約の中で見つけ出せるものではなかった。
社内の人間は当事者であるがゆえに会社の歴史にとらわれ、メッセージの不整合を客観的に見極めることができなかった。彼ら自身が文書の多くを作成していたため、新しい戦略との不一致に気づけなかったのだ。そこで同社は、外部のブティック系コンサルティングファームと手を組んだ。同ファームは、フェンシス独自の文書ライブラリ専用に構築されたGPT-4ベースのモデルを活用し、数千ページに及ぶ営業資料、提案書、顧客向けコミュニケーションをスキャンした。これにより、これまでの取り組みを停滞させていた感情的な執着を挟むことなく、プロセスを進めることができた。
このAIモデルに課された任務は、文書ライブラリ全体から矛盾する表現、時代遅れの専門用語、一貫性のないポジショニングを検出することだ。たとえば、AIは営業チーム内で使用されていた23通りのメッセージングのバリエーションを洗い出した。それらはすべて同社の歴史における異なる戦略的局面の遺物であり、その多くが同じ文書の中で、主流であるはずの「データファースト」の枠組みと並んで記載されていた。
結果はどうだったか。マーケティング担当バイスプレジデントのレオノールは次のように説明する。「社内の誰も反論したりはぐらかしたりできないような、客観的でエビデンスに基づく課題の全体像が浮き彫りになった。メッセージがいかに断片化し、一貫性に欠けているかを視覚的に示した『矛盾マトリックス』を従業員が目にした時、抵抗は消え去った。もはや問題は個人の意見ではなく、文書化され提示された客観的事実となったからだ」
戦略をゆがめる顧客神話
筆者らが調査したグローバル金融サービス企業のサボバンク(仮名)は、「高齢の顧客はモバイルバンキングを避ける」という盲信に固執していた。この神話は10年前に生まれたもので、同社のトレーニングマニュアルや顧客セグメンテーションのロジックに深く組み込まれていた。さらに、製品のデザイン開発における選択にも影響を与え続けていた。
定年退職した顧客が現在、モバイルアプリの利用者の中で最も急速に成長しているグループの一つであることを示す外部データがあったにもかかわらず、「高齢者はテクノロジーに疎い」という固定観念を覆すことは容易ではなかった。サボバンクは、実際の顧客行動に対して系統的な検証が一度もなされていない、確信に満ちた単一の思い込みに基づいて動き続けていた。社内のどのチームも、その前提に異を唱える権限もツールも持っていなかった。
AIによるアプローチ:行動エビデンスによる神話の打破
この根深い固定観念を暴くため、経営陣はIBMのワトソン・アナリティクスを導入し、次の3つのライブデータストリームを同時に取り込んで相互参照させた。(1)あらゆる年齢層の顧客が実際にサボバンクのモバイルプラットフォームをどう利用しているかを追跡したアプリ内の行動ログ、(2)カスタマーサポートでのやり取り、アンケートの回答、苦情記録から抽出した顧客センチメントデータ、(3)60歳以上の顧客におけるモバイル導入トレンドに関する外部の人口統計データ、である。
顧客インサイト部門の責任者であるケビンは、次のように説明する。「IBMのワトソン・アナリティクスのエンジンを、2つの対象に同時に向けた。トレーニングマニュアル、製品デザインファイル、顧客セグメンテーション記録などの社内文書と、顧客の実際の選択を追跡するライブデータストリームだ。システムは社内文書を読み込んで高齢顧客の行動に関する思い込みを抽出し、その前提が実際の行動エビデンスと一致しているかどうかを継続的に検証した」
実際の行動が文書の想定と矛盾するたびに、システムはそこにフラグを立てた。この取り組みにより、驚くべきインサイトが明らかになった。
第1に、65歳以上の顧客は、他のどの年齢層よりも頻繁にサボバンクのモバイルプラットフォームにログインしていた。25~40歳の顧客が月平均8回であるのに対し、65歳以上は平均11回だった。第2に、この高齢者層はカスタマーサポートへの問い合わせが最も多かったが、それは彼らが操作に困っていたからではなく、限定的なインターフェースが許容する以上に、プラットフォームを活用して多くのことを行おうと主体的に動いていたからだった。第3に、サポートの通話記録のセンチメント分析により、高齢の顧客が抱く最大の不満は、モバイルバンキングという概念そのものに対してではなく、彼らが利用に消極的であるという前提でつくられたサボバンク特有のデザイン構造に向けられていることが判明した。
これらの事実を前にして、もはや神話を擁護することは不可能だった。何十万件ものやり取りを通じて系統的に提示された利用ログとセンチメントデータを前に、古い信念を支持する従業員に反論の余地はなかった。マネジャーやシニアリーダーたちは、AIが生成した行動レポートをレビューしながら、どのデザイン変更を優先すべきかについて判断した。
* * *
組織的忘却の実践が困難であることは、おそらく誰しも理解しているだろう。なぜならそれは、業績を検証できなくなった指標にリーダーを執着させ、市場で勝てなくなった言葉にチームを固執させ、結果を説明できなくなったデータに頼らせるという、組織に深く染みついた習性に逆行する行為だからだ。しかし、AIを活用すればこの壁を乗り越えることができる。さらにAIは、戦略分析から個人的な見解や感情的な勘を排除し、組織変革のための確固たる根拠を提示してくれるのである。
著者注:機密保持のため、本稿に登場する個人名および企業名はすべて仮名にしている。
"3 Ways AI Can Free Organizations from Legacy Workflows," HBR.org, May 07, 2026.







