競合他社も同じAIで意思決定している時、何が起きるのか
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サマリー:同じ市場データを学習し、類似した目的を最適化するAIを複数の企業が導入すると、それぞれが独立していても同じ意思決定に至り、競争上の差異が失われる「AIエージェントによる収れんの罠」に陥るおそれがある。本稿では、この現象が生じるメカニズムと企業にもたらすリスクを解説するとともに、戦略的なばらつきを維持するためのガバナンスのあり方を考える。

3つの意思決定から見えてくるもの

 この2年間に、3つの業界で下された3つの意思決定について考えてみよう。

・2024年に米連邦集団訴訟で主要ホテルチェーン6社──ヒルトン、ハイアット、マリオット、オムニ、ウィンダム、フォーシーズンズ──が名指しされ、彼らが共有するAI価格設定プラットフォームが、競合する施設間で客室料金が足並みを揃える結果を招いたと訴えられた。各ホテルの間に直接のやり取りはなかったが、米司法省(DOJ)と連邦取引委員会(FTC)は「価格協調」だと指摘した。

・地域密着の食料品店チェーンは、販促計画の人間の担当者を、競合他社も使っている公開市場データで学習させたAIシステムに置き換えた。すると半年も経たないうちに、販促カレンダーは市場の首位の企業とほぼ同じものになった。買い物客は、あるチェーンをあえて選ぶ理由を説明できなくなった。

・全米規模の不動産オーナー企業は、競合する数千の不動産管理会社が利用しているAI家賃最適化プラットフォームを導入した。その結果、競合他社と話し合ったことがないにもかかわらず、歩調を合わせるように家賃を引き上げた。2024年に米司法省は反トラスト法(独占禁止法)訴訟で同社を名指ししている

 3つの業界で、経営陣がそれぞれ競争上のメリットだと考えた意思決定が3つ。そして3つとも戦略的な自滅を招いた。

 重複する市場データから学習し、類似した目標を最適化し、機械並みの速度で動作するAIシステムを、複数の企業が導入すると何が起きるのか。そのパターンは筆者たち研究者がAIを介する市場で確認してきたものであり、『アメリカン・エコノミック・レビュー』や『ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミー』の査読付き研究でも実証的に測定されている。これらのシステムは独立していながら、同じ結論に達する傾向があるのだ。

 筆者たちはこれを「AIエージェントによる収れんの罠」(Agentic Convergence Trap)と呼ぶ。この現象を理解するには、AIシステムがどのように振る舞うかだけでなく、経営陣がいかにその振る舞いを可能にしてきたのかを理解しなければならない。

誰も問わなかった問い

 AIをめぐる戦略的な議論は、主に2つの点に集中してきた。第1に、ある企業が競争優位を得るためにAIを十分効果的に導入しているかどうか。第2に、広く利用可能となったAIが持続可能な優位性をもたらしうるのか、それともすべての企業の最低水準を引き上げるだけなのか。いずれも単一企業が導入を決定するという視点からAIを考察している。