急成長企業が陥る「集権か分権か」のジレンマを乗り越える方法
HBR Staff/AI
サマリー:企業が急成長を遂げ組織が拡大すると、意思決定のコントロールが利かなくなる壁に直面する。権限を集権化すれば現場の柔軟性が失われ、分権化すればサービスの一貫性が損なわれる。この「集権か分権か」というジレンマを乗り越え、規律と適応力を両立させる第3の道とは何か。本稿は、従業員に厳選された選択肢を与え成果への責任を持たせる新たなアプローチ「構造的エンパワーメント」を提示する。

急成長企業の落とし穴

 急成長ベンチャーの創業者が、みずからの周囲で行われる意思決定をコントロールできなくなったと気づく瞬間がある。多額の資金が行方不明になったり、重要な顧客からのクレームを3週間遅れで聞かされたり、善意のマネジャーが相談なく不適切な人材を採用したりといった事態だ。なぜこうしたことが起こるのか、そしてなぜそれが「方向性の共有」「業務の複雑化」「財務管理」「監督体制」といった同じライン上で発生しがちなのか、理解されていないことが多い。

 こうした問題は通常、企業の成長に伴い顕在化する。特に小売業やサービス業では従業員数が急速に増加するため、その傾向が強い。従業員数が約50人に達すると、創業者はもはや全員と実質的な関係を維持できなくなる。約80人に達すると、ほとんどの企業は、正式な組織構造や管理体制によって業務や意思決定をサポートすることが必要になる。従業員数が150人近く──人類学の文献で「ダンバー数」として知られる、安定した社会的関係を維持するための認知的限界──に達すると、正式な仕組みが必須となる。

 問題は、多くの企業が意思決定プロセスを制度化する際、意思決定の集中と分散のバランスを見出すのに苦労していることだ。過度に分散化された企業は、実行の不統一、ブランドの希釈化、調整の失敗、規模の経済の喪失、コンプライアンス上の問題など、複数のリスクに直面する。クロスフィット(CrossFit)はその一例だ。2018年の最盛期には、このフィットネスブランドは1万5000店以上の独立した加盟ジムを抱えながら、本社にはわずか60人の従業員しかいなかった。同社は加盟制度の形式化をほぼ完全に拒み、運営マニュアルも、担当テリトリーも、管理体制も設けなかった。

 その爆発的な成長を後押しした自由こそが、結局はブランドを希釈化させ、コミュニティの形成を阻害し、数千ものジムの閉鎖を招いたといえるだろう。加盟金はわずかで、審査や監督もほとんどなされなかったため、サービスの質と収益性にばらつきがあった。意思決定の完全な分散化は、企業をこうしたリスクにさらすだけでなく、最小限の監督で健全な経営・運営判断を下せる能力、経験、知恵を備えた人材を雇う必要性を生じさせる。これは急成長企業にとって高いハードルである。

 集権型の企業にも独自の問題がある。トップダウンで成長管理の集中化を図る企業は、顧客に最も近い人々の知見を無視することになる。リアルタイムで状況に適応し、革新を起こし、問題を解決できるはずの現場の従業員が、何年も顧客と話をしたことがない人々が下した指示に従うことになる。急成長中の中国のホテルチェーン、チャイナ・ロッジング・グループは、その典型例だ。2009年、同社は業務の統制を目的に、トップダウンによる標準化を実施した。その結果、機敏な競合他社が参入する中、ホテルの支配人たちは価格設定や現地市場への適応、あるいはビジネスチャンスの指摘といった自律性を失ってしまった。また、集権型の企業は、従業員が業務上の懸念について声を上げる意欲を削いでしまうため、自律性を求める有能な人材を失いやすい。

 集中も分散も、経営者が気づかないうちに、学者が「経営のバミューダ・トライアングル」と呼ぶ状況へと導く可能性がある。この用語は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の故D. ダリル・ワイコフ教授による造語で、形式にとらわれずに運営するには大きすぎるが、硬直した官僚体制ではまだ生き残れない急成長中のベンチャー企業が、方向を見失ってしまう危険な領域を表している。

 チャイナ・ロッジング・グループは最終的にこれに気づき、柔軟性を再構築するために多額の投資を行い、回復を果たした。しかし幸いなことに、間違った方向に一度も進む必要のない、第3の道が存在する。

 私は20年以上にわたり意思決定戦略を研究し、さまざまな地域や業界の組織が、意思決定プロセスをどのように業績向上につなげているかを調査してきた。この研究を通じて、「構造的エンパワーメント」(structured empowerment)と呼ぶアプローチを見出し、体系化した。これは、企業が「ガチガチすぎる」か「緩すぎる」意思決定プロセスの間で迷走することを防ぐ。主に小売り・サービス業界における私の研究に基づいているが、他の業界でも同様の枠組みが適用されているのを確認してきた。

 本稿では、私の新著 Structured Empowerment: How to Achieve Growth While Promoting Agility(未訳)をもとに、「構造的エンパワーメント」の具体像と、企業がこれを活用して顧客価値提案をより効果的に実現する方法について解説する。構造的エンパワーメントは、劇的な変化に適応しつつ、企業の目標を達成できる文化を醸成する。私は自分が調査や協力をしてきた企業において、その通りのことが起こっているのを繰り返し目にしている。

構造的エンパワーメントとは何か

 構造的エンパワーメントは、2つの要素から成る。1つは、従業員が厳選された選択肢の中から選ぶ、仕組みを使った権限付与による意思決定であり、もう1つは、主要な成果を達成するための説明責任である。