一つ目は、「統合しないことによる統合」の大切さです。グローバル化で多様化した企業を上下左右隅々まで完全に統合しようとしても無理があります。どこで多様化した部分を束ねるのかを絞り込み、統合のやり方にメリハリを効かせるほうが現実的です。どこで統合するかという問題は、裏を返せばどこを統合せずに放置しておく(国際化の戦略論でいう「マルチドメスティック」な状態)かをはっきりとさせるということでもあります。

 カルロス・ゴーンさんがCEOに就任して以来の日産は、彼のリーダーシップが強烈なこともあって、「グローバル・スタンダード」に移行した日本企業の典型例のように見られがちですが、実際にはそんなことはありません。

 ルノーと日産は、経営の基盤となるいくつかの重要な意思決定については統合されていますが、それ以外の個別具体的な事業戦略やオペレーションについては、いまでもわりと別々で、両者の間にはきちんとした仕切りができています。ルノーは長い歴史を持つヨーロッパの会社であり、日産もまた日本で育まれた日本の会社です。無理やり一緒にするとろくなことはない、というリアリスティックな考えがあるわけです。これはグローバル統合のメカニズムを経営の特定部分に限定し、あえて統合しない部分を大きくとることによって多様性に対処しているという例です。

 二つ目は、どこをローカルなやり方に任せ、どの部分をグローバルに統合するかという問いかけは、その企業の真の経営力なり競争力の源泉を明確にするよい機会を提供しているということです。その企業の競争力を支えており、絶対の自信がある経営のやり方やシステムについては、時間とコストをかけてでも日本でのオリジナルなやり方でグローバル展開していくべきです。逆にいえば、そういう絶対の自信を持てるところがまるでない経営では、グローバル化はおぼつかないということです。

 よく知られているように、トヨタは日本で練り上げたトヨタ生産システムを大変な努力と試行錯誤を通じてグローバルに移植していきました。その結果、いまではトヨタ生産システムそれ自身がグローバルなオペレーションの手法として定着した感があります。ユニクロは現在急速にグローバル化を進めている日本企業のひとつですが、店舗運営や商品開発の原理原則については日本と同じただひとつの思考と行動をグローバルに浸透させようとしています。ユニクロの経営と競争力を支える原理原則についての自信がグローバル化を加速させているといってもよいでしょう。

 グローバル化にともなう多様性のマネジメントは容易ではありません。しかし、宗教や食べ物の好みといった純粋に文化的なことに比べれば、経営は論理の占める割合がずっと大きいのです。他社にない独自の強み、絶対の自信をもてる何かがあれば、それは国や文化の違いを超えて成果をもたらすはずです。成果をもたらすものであれば、時間はかかるかもしれませんが、多様性を統合するメカニズムとして確実に機能します。

 グローバル化は自社の本当の強みや大切にすべき経営の原理原則を再確認する絶好のチャンスを提供しています。

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