「洗練」された経営破綻

 こうなってくると、経営破綻処理とその後の再生も妙に「洗練」されてくる。かつてのパンナムやさらにその前のコンチネンタル航空(1983年にチャプター11を申請して倒産。倒産に至る経緯では業界や労働組合を巻き込んだ大混乱が発生。株主と従業員の板挟みにあった社長がロサンゼルス国際空港の自社オフィスで自殺するという事態にまでなった)のような断末魔の大騒ぎはもはや過去の話。今世紀に入ると経験に基づく学習とノウハウの蓄積のおかげで、悪くいえば「倒産ズレ」、よくいえば欧米の航空会社の破綻処理はずいぶん「洗練」されてきた。

 たとえばユナイテッド航空。2002年にチャプター11を申請し破綻した後、再生を進め、目途がついたころに(2010年)コンチネンタル(すでにみたように、こっちもこっちで倒産を経験している。しかも2回。わりとプロ)に統合された。

 さらに洗練を感じさせるのは、2005年の同じ日にチャプター11を申請し倒産したノースウェスト航空とデルタ航空の事例だ。両社は2007年にそれぞれチャプター11を脱却したのち、2008年に合併し(存続企業はデルタ航空)、再生を完了している。こうしたケースでは債権放棄もなく、「円満」にことが進んでいる。示し合わせたように同じ日に離婚届を出す。チャプター11でダイエットしてデトックス。過去を洗い流してからから離婚した者同士で再婚(?)。新生活に踏み出した、というわけだ。なかなかよくできた話である。

 EUでも同じような洗練がみられる。1990年代はエール・フランス、アリタリアといった大所の経営破綻とそれに伴う公的支援の出動が相次いだ。しかし、2000年以降は破綻に至る前のタイミングでクロスボーダーM&Aで救済するというパターンが常態化した。

 たとえばドイツのルフトハンザ航空がその典型だ。経営不振に陥った航空会社(最近ではブリュッセル航空やオーストリア航空)を次々に買収して事業を拡大している。法規制のバックアップもある。EU域内では航空会社の国籍条項が撤廃されている。これによって、域内であれば外国資本による救済が可能になった。

 問題はいまだに倒産ズレしていないウブな日本の話だ。ずいぶん注目を集めた日本航空の破綻と再生も、会社更生が終結したいまとなっては、「V字回復!」という「ちょっとイイ話」として世の中から受け止められているフシがある。

 分かっている人は分かっていると思うが、これはとんでもない誤解である。日本航空の経営破綻を受けての再生プロセスを眺めると、「めでたし、めでたし…」とは程遠いのが実情だ。ということで、次回は日航再生の光と影について。

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