協調性を醸成するだけの人がトップに立っていいのか
酒井:ビジネスの世界で高い成果を出すリーダーは、一般の人が見たことのないような人かもしれません。自分のビジョンや理念という価値観を優先するので、誰かに好かれようなどと思っていないのです。一般的な日本人はコンフリクトを避けようとしますが、リーダーシップを持った人たちは、ビジョンや理念を達成するために、毎日でもコンフリクトを起こすような人ですね。
伊賀:コンフリクトを起こさないと成果が出ないということをわかっているので、そうなることをまったく怖がらないし、避けないですよね。

酒井:その通りだと思います。日本人は集団で成果を出すよりも、和を求めるからリーダーシップを嫌うという意見がありますが、僕はそう思いません。日本人が「和を以て貴しとなす」という行動原理で動いていない証拠を見つけるのは簡単でしょう。個人的には「和を以て貴しとなす」というのは、日本人とは何かということを考えるときの「仕組まれた思考停止」で、そう教えたほうが、為政者が国民を統治しやすくなるからぐらいに思っています。そもそも、日本人は11万年ぐらいかけてアフリカから日本にたどりついた人々の子孫です。開拓者精神はかなり旺盛なはずだと思いますよ。
伊賀:おっしゃる通り、日本人にリーダーシップがないはずがありません。だた、この国にはリーダーシップをポジティブに捉えたくないという人がいるんです。リーダーシップは、年功序列などの制度と、必ずしも親和性がよくありません。「部下は上司の言うことには、問答無用で従え!」と考えている人にとって、部下に強いリーダーシップがあることは好ましい事ではないですからね。
そしてそういう人が「和を以て貴しとなす」という言葉をはじめ、「船頭多くして船山に上る」など、リーダーシップなんて発揮しないほうがいいと言わんばかりの格言をすぐに持ち出すんです。
日本にだって今まで、各分野でリーダーシップを発揮した人たちがたくさんいました。だからこそアジアで唯一、西洋と伍して先進国の地位を獲得できたのに、リーダーシップという言葉がタブーのようになってしまっているのはかなしい限りです。
世界では、リーダーシップを持たない人が組織のトップに立つのは困難です。一方の日本では、和を以て貴しとなすという言葉を言い訳に、リーダーシップを持たない人、組織の和ばかり気にしている人がトップに立ち、思い切った判断ができないために迷走を続けている組織がたくさんあります。
チームの協調性が不要だとは言いませんが、本当に、協調性を醸成できるだけの人がトップに立っていていいのでしょうか。リーダーシップをネガティブな概念と捉えたまま、日本がこの先世界の中でやっていくのは難しいと言わざるを得ません。
酒井:日本にも、リーダーシップの概念はあるはずですよね。でも、リーダーシップという概念を表す日本語は思いつきません。一番槍とか、切り込み隊長とかいう近い言葉はありそうですが、どうもイメージと違います。