プライバシー法の強化で個人情報の提供が増えたのはなぜか
HBR Staff; travelview/Getty Images
サマリー:米国の一部の州で施行された厳格なプライバシー法は、企業のデータ収集を阻む障壁となるのか。強力な規制に対し、多くのマーケターは消費者の情報提供が減少すると懸念していたが、ある大手アプリの調査から見えてきたのは業界の予想を裏切る意外な事実だった。プライバシー保護は消費者の行動をどう変えるのか。本稿では、厳格な規制が顧客の信頼とデータ収集に与える予期せぬ効果を論じる。

新プライバシー法の意外な効果

 本稿はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のワーキング・ナレッジが作成したものであり、HBSのアイェレット・イスラエリ准教授とエバ・アスカルザ教授の見解を取り上げている。

 米国のカリフォルニア州やバージニア州で包括的なプライバシー法が施行されたのを受け、顧客はこれまで以上に個人情報の共有を拒否するのではないか――。マーケターたちは、そのような懸念を抱いてきた。ところが、ある大手プラットフォームの調査によると、実際は正反対のことが起きている可能性がある。消費者はこれまでよりも個人情報の共有に前向きになっているようなのだ。

 ある顧客エンゲージメント・アプリ大手による行動分析によると、情報開示や共有許可が追加されたことは、むしろ人々の不安を和らげているようだ。その結果、新たなプライバシー法が施行された州に住むユーザーは、他の州のユーザーよりも、購買レシートという形でアプリへ提供した個人情報が9%多かったと、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のアイェレット・イスラエリ准教授とエバ・アスカルザ教授の調査は示している。

 米国では、企業が顧客データを共有または販売する際、顧客に許可を取ることを義務づける法律(従来よりも厳格かつ複雑なもの)が、州レベルで相次いで導入されている。イスラエリとアスカルザの調査結果によると、こうした新規制の受益者は、これまでよりも安心して情報共有に同意できるようになった消費者に留まらず、マーケターやオンライン・プラットフォームも含まれる。

「新規制は、プライバシー保護に関する顧客の認識を変えたようだ」と、マーケティングの教授であるアスカルザは言う。「信頼感の高まりが、この変化を牽引する重要なメカニズムであることを証拠は示している」

 アスカルザとイスラエリは、英インペリアル・カレッジ・ビジネス・スクールのオズゲ・デミルシ助教授と共著したワーキングペーパー“In Privacy We Trust: The Effect of Privacy Regulations on Data Sharing Behavior”(未訳)で、この研究結果について説明している。

消費者が個人情報の提供に抵抗が薄くなる時

 2023年、企業による消費者の個人情報の利用方法について、消費者の管理権限を拡大した規制が、カリフォルニア州とバージニア州で施行された。一部の業界団体は、この規制が過度に大きな負担になると考える一方で、消費者保護団体の一部は、企業に甘すぎて不十分だと指摘した。ところが、消費者の行動を見ると、新法が導入された州の消費者は、この規制を安心材料と受け止めたようだ。

 イスラエリとアスカルザ、そしてデミルシは、「大手顧客エンゲージメント」アプリと協力した。このアプリは、ユーザーが買い物のレシートをスマートフォンで撮影して送信すると、割引や特典を獲得できるもので、それによってアプリはユーザーの行動データを集めることができる。このプラットフォームは、消費者の行動に関するインサイトを得るために、自社製品のプロモーション費を支払うブランドと提携している。

 イスラエリらは、全米から顧客約1万6000人を無作為に選び、2023年にプライバシー法が施行された前後の行動を比較分析した。6カ月間の調査期間中、彼らはこのアプリから計2500件以上の「お得情報」を受け取った。そのほとんどは全米で利用可能なものだ。