高ストレス・高スキルの仕事で離職を減らす方法
Pepino de Mar studio/Stocksy
サマリー:高度人材の離職には、バーンアウトや残業だけでなく、仕事の設計も深く関係している。ICU看護師を対象とした研究では、意味ある責任を任され、強いプレッシャーの中でも同僚の支援を得られる人ほど、離職しにくいことが示された。本稿では、人材の定着を高める責任の与え方と支援体制の設計について解説する。

高ストレスな職場で生じる離職リスク

 あなたが米国の病院や医療システムを率いる立場にあるなら、次に述べる数字に注意を払うべきだ。2024年だけで28万7000人以上の看護師が離職し、さらに約160万人が5年以内に離職する意向を示している。看護師が1人辞めると、そのコストは採用やオンボーディングに留まらない。病院はケアの継続性、ユニット内に蓄積されたノウハウ、高ストレスな臨床現場を円滑に機能させるための人間関係を失う。すでに人員不足に直面している分野において、離職は人材の問題であると同時に、供給能力の問題にも早々になりうる。

 看護師の離職は一般に、過重労働とバーンアウトが原因だとされる。これは事実だが、それだけではない。筆者らの研究でも、残業や望ましくない臨床上の出来事に伴う精神的負荷が離職の可能性を高めることが確認されたが、より有用な知見がある。すべての業務負荷が人々を職場から遠ざけるわけではなく、むしろ惹きつけるものも存在するということだ。これは看護に限らず、ソフトウェア開発、先端製造業、サイバーセキュリティ、金融トレーディング、航空管制、海運、法律事務所など、高技能かつ高ストレスの職場にも当てはまる。

看護師の離職を引き起こす要因

 筆者らの研究では、米国の大規模医療機関の集中治療室(ICU)のフルタイム看護師420人を26カ月にわたり追跡した。電子カルテに記録された看護行為のデータを分析し、時間情報付きで行動を特定した。この広範なデータセットにより、単に看護師がどの患者にどのタイミングでどれだけの時間をかけて投薬したのか、その日に他にどのような業務を行っていたのかまで詳細に把握することができた。さらに、人員配置やシフト、HRデータも組み合わせることで、誰が最終的に自発的に離職したかを特定した。つまり、離職に至るまでの業務負荷の実態を極めて詳細に可視化できたのである。看護師の離職を実際に引き起こしている要因について極めて詳細な分析結果を得ることができ、なかでも特に重要なのが下記の2点だ。

過負荷は人を消耗させるが、意味ある責任は人をつなぎとめる

 この結果は従来の見方とは異なるものだ。患者ケアの主担当としての責任が大きい、つまり信頼され頼りにされている看護師ほど、離職する傾向が低かったのである(本研究では、1シフト中に主担当として受け持った患者数を責任レベルの指標とした)。データによれば、責任が10%増加すると、離職の可能性は54%以上低下した。

 これは、単純に仕事量を増やせばよいという意味ではない。重要なのは、リーダーが過負荷と「意味ある責任」を区別することである。

 看護師が実質的な責任を任されると、みずからが現場の中核であるという感覚を持つようになる。責任を任されることは、組織がその人材を有能で重要な存在と見なしていることを示し、それがオーナーシップの感覚を深める。特にICUのように負荷が高く結果の重大性が大きい現場では、この感覚がコミットメントを強化する。看護師は仕事の厳しさを感じつつも、その仕事に意味を見出すのである。

 この区別が重要であるのは、近年の労働力やバーンアウトに関する研究が、あらゆる業務負荷を有害なもの、すなわち最小化・緩和すべき必要悪として捉える方向に病院のリーダーを導きやすいからだ。しかし、それは看護師の実際の仕事に対する捉え方として、あまりに単純すぎる。

同僚の支援は、残業や継続的な業務負荷の悪影響を緩和する

 シフト中に同僚から支援を受けた場合、離職の可能性は大きく低下した。看護師同士が積極的に助け合うことで、残業による離職の可能性は40%、業務のプレッシャーによる離職の可能性は22%低下したのだ。看護の仕事では、同僚の支援は単に負担を軽減するだけでなく、仕事の体験そのものを変える。厳しいシフトでも、周囲が手を貸して負担を分かち合ってくれれば、感じ方はまったく異なる。