グローバル企業が「本社中心」の意思決定で失っているもの
HBR Staff; Jeffery Lee/Unsplash
サマリー:グローバル企業の経営では、本社への物理的な近さが意思決定を左右し、本社から離れた場所にある地域拠点の知見が軽視される「権力の不均衡」が課題となる。この格差は、時差による情報の非対称性やコミュニケーションの断絶を招き、世界規模での成長機会を損なう要因になりかねない。本稿では、意思決定の出発点を現場へ逆転させる戦略と、情報の双方向な流れを確保する体系的な解決策を提示し、分散型リーダーシップを成功に導く組織の規範について解説する。

多国籍企業の本社と地域拠点にある権力の不均衡

 グローバル企業の経営は、高度な調整力が求められ、しかも現実には権力の不均衡という課題も抱えている。多国籍企業において、戦略を左右する最大の要因は、市場の洞察や専門知識ではなく、本社への近さにあることが少なくない。意思決定は、その時間にたまたま起きていて会議室に居合わせた人々によって枠組みが決められ、議論され、そして、しばしば最終決定がなされる。一方で、同じレベルの上級リーダーでも別の地域にいる人々は、自分が関与する機会すらなかった決定の結果を、朝になって初めて知ることになる。

 こうした本社と地域拠点の力学は、時間とともに優先順位を静かにゆがめ、地域の知見を軽視し、グローバルリーダーたちにみずからが関与していない意思決定の後始末をさせることになる。

 遠隔地で働くリーダーも、本社にいる同僚と良好な関係性や信頼関係を築くことで、自分の立場を強めることはできる。しかし、こうしたその場しのぎの関係構築では不十分だ。グローバル組織には、企業全体の優先事項や意思決定において、事業を展開している世界各地の実情を幅広く反映させるために、体系的な解決策が必要となる。

 筆者らは15カ月にわたり、米国、欧州、アジア、中東の150人以上のリーダーを対象にインタビュー、フォーカスグループ、経営幹部向けラウンドテーブルを実施して、グローバルリーダーシップの有効性を調査した。これは、文化的知性(CQ:カルチュラル・インテリジェンス)の高いリーダーが、地政学的、経済的、文化的緊張の高まりをどのように乗り越えているかについて、筆者らが継続して行っている大規模な研究の一環である。

 その結果、本社とそれ以外の拠点との間にある権力の不均衡を、一貫して縮小している2つの組織的戦略が明らかになった。

意思決定の方向性を逆転させる

 多くのグローバル企業では、重要な意思決定は中央集権化されている。Cレベルの経営幹部が市場間の整合性を維持し、リスクを管理し、全社的な一貫性を確保できるようにするためだ。地域拠点のリーダーは、積極的に発言してみずからの意見を述べるように奨励されるが、そこには、検討中の意思決定があることを彼らが把握しているという前提がある。しかし実際には、多くの場合、彼らが状況を知るのは議論が終わった後──あるいは意思決定そのものが下された後で、自分の主張を述べようにも後手に回ることになる。

 意見を出すタイミングが重要なのは、初期段階のアイデアほど、問題の定義や、どの選択肢が実現可能かという認識を大きく左右するからだ。アンカリングに関する心理学者のエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンの研究によれば、議論の場で最初に提示されたアイデアは、その内容の強弱にかかわらず、その後のすべてのアイデアが評価される基準点(アンカー:船の錨)になりやすい。

 この現実は、筆者らが業界や地域を問わずリーダーたちに話を聞く中で、繰り返し浮き彫りになった。本社から離れた場所にいて、高い能力と対人スキルを持つリーダーたちは、本社にいる経験の浅い同僚たちによって意思決定が過度に左右されているように感じていた。遠隔地の意見が求められる頃には、意思決定の輪郭はすでに固まっており、異なる視点も、新しい洞察の源というより対処すべき制約として扱われがちだ。問題は、単に誰が意思決定を行うかではない。意思決定プロセスがどこで始まるかである。

 多くのグローバル企業では、意思決定の出発点が、時差という現実にも左右される。重要な意思決定は、他の地域のシニアリーダーたちが眠っている間に、論点が整理され、議論される。地球の反対側にいるリーダーたちが関与できるようになる頃には、方向性はすでに固まっているのだ。

 こうした感覚は、筆者らのインタビューやフォーカスグループでも繰り返し提起された。ある幹部はこのように語っている。「朝起きて200件のメッセージをスクロールすると、自分抜きで意思決定が終わっていたことを知るのです」。その時点でもはや、議論は方向性を形づくるものではなく、自分の地域でどのように対応するかを考えるものになっている。

 意思決定における近接性の影響を効果的に是正する方法の一つは、意思決定が始まる「場所」を意図的に変えることだ。本社で意思決定の論点を設定してから地域のリーダーに意見を求めるのではなく、専門知識がある現場に近いところから意思決定が始まるようにプロセスを再設計する。