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サプライチェーンへのAI導入はなぜ失敗するのか
サプライチェーンにAIを導入している企業のほとんどは、同じような間違いを犯している。データを理解する前に、いきなりテクノロジーを導入しようとするのだ。パイロット版を導入し、予測ツールを試し、独立した最適化エンジンを導入するが、どれもスケールしない、と首をかしげる。問題は、AIにあるのではない。AIを信頼できるものにするためのステップを省略していることにある。欠陥のあるデータをもとにAIモデルを構築すれば、何度やっても欠陥のあるAIモデルが生まれる。
筆者は長年にわたり、AIやアナリティクスをどのように活用したいのか明確にしない企業を多数見てきたが、ついに例外を見つけた。レノボである。同社は2017年から5年間、狙いを定めた2段階プログラムを実行して、アイチェーン(iChain)という全社的なAIアーキテクチャを生み出した。アイチェーンはいま、調達、製造、物流、そしてカスタマー・フルフィルメントにまたがる決定をリアルタイムで調整している。それは大きな成果をもたらした。まず、サプライヤーからの納入予測の精度が10~15%上昇した。また、数量が限定的な製品を「最もうるさく要求する顧客」ではなく「ビジネス上の優先順位」に基づき顧客に割り当てるシステムを構築した。また、潜在的な製造上の問題を見つけて未然に欠陥を防げるようになった。いずれも、ほとんどのAIプログラムが約束するが、滅多に実現できないことだ。
筆者は過去2年間、ノースカロライナ州立大学のサプライチェーン研究者として、レノボの当時のDXチームのリーダーであり、サプライチェーン・インテリジェンス・プログラムを統括していたジャック・フィードラーに詳細な聞き取り調査を行った。そして、フィードラーのアプローチを、他の大手ハイテクメーカー12社のサプライチェーン担当エグゼクティブのアプローチと比較した。レノボを研究対象に選んだのは、同社の変革プロセスが滅多にないレベルで詳細に記録されていること、その複雑なオペレーションがグローバルな大手メーカーを代表していること、そしてレノボが他社と極めて異なるアプローチを取り、真に示唆に富んでいるからだ。本稿では、レノボから学べる4つの教訓を紹介しよう(筆者とレノボとの間に金銭的な関係は一切ない)。
1. 高品質なデータをつくり、維持する
サプライチェーン全体でAIのパイロット版を導入している大企業を訪ねると、どこも同じような経験をしている。需要予測チームがデータモデルを試験運用しており、物流チームは別のモデルを試し、調達チームはさらに別のモデルを使っている。だが、これらのチーム間の話し合いはまったくない。ばらばらのデータやシステムをベースにAIモデルを構築すると、プラットフォーム間における意思決定の矛盾をAIがそのまま引き継いでしまう。AIモデルは、ベテラン計画立案者の知見と矛盾する助言をするため、計画立案者らはAIの助言を信用しなくなり、導入は失敗に終わる。それも、たいてい1年半以内に。原因はテクノロジーのせいだとされがちだが、問題は使われたAIモデルではなく、その基礎になったデータにある。
レノボは、そのインフラを5年かけて整備してから、本格的なAI分析モデルの構築に着手した。このプロセスは社内で「デジタル・トランスフォーメーション1.0」と呼ばれた。予測のサイクルは、ほぼリアルタイムのデータフローを中心に見直され、供給計画は社内の生産システムや計画システムとの統合が強化された。製造、物流、調達、フルフィルメントからの運用データは、共通のデータ規格とアーキテクチャに沿って整理され、全社的にアクセス可能な「シングル・インスタンスデータ」(単一のデータセット)というデジタル基盤が構築された。
多くの企業は、AIイニシアティブによる成果を急ぐあまり、このステップを省略するか、3カ月程度で済ませようとする。だから多くのサプライチェーンAIプログラムは、期待通りの効果を生み出せないのだ。
高品質なデータセットを構築しても、まだ作業は終わっていない。その質を維持することが、オペレーション上の習慣となるべきだ。
2. ツールを寄せ集めるのではなく、オペレーティングシステムを構築する
2023年までに基礎となるデータセットを構築したレノボは、第2段階へと進んだ。ここで同社は、またしても意外な決断を下した。ここでは予測ツール、あちらは物流最適化ツールというように、AIアプリを用途別に導入するのではなく、データ・インテリジェンス、プロセス・インテリジェンス、ディシジョン・インテリジェンスという3つの層に共通する統合アーキテクチャを構築したのだ。その統合システムは「アイチェーン」と呼ばれるようになった。フィードラーによると、その最終目標は、「誰もがAIを活用できる単一のアーキテクチャ」を構築することだった。
この決定は、対象範囲を絞ったソリューション戦略では達成できない複合効果をもたらした。物流で検知された混乱の兆候は、調達計画に直接反映され、それがカスタマー・フルフィルメントの決定に影響を与える。ある地域のサプライヤー・パフォーマンス・データが、計画の精度をグローバルに向上させる。製造部門からもたらされた品質欠陥のパターンは、それが顕在化する前に検査段階で考慮に入れられる。このシステムは、あらゆる機能を超えて、取引を重ねるごとに一斉に賢くなっていく。孤立したAIツールには、とうていできないことだ。
3. AI投資をビジネス上の優先順位と一致させる
レノボは、サプライチェーンの最大の目標は、「レジリエンスの確保」と「全社的な売上成長目標の達成をサポートすること」であると定義し、その達成にAIを最も必要とするプロセスはどの部分か検討した。多くの企業は、正反対の考え方をする。すなわち、まずAIに何ができるかを把握してから、その技術力にぴったりの課題を探すのだ。このため、導入されるAIアプリは、その会社の競争力にとって最も重要ではない部分を最適化する傾向がある。







