プライバシー規制を競争優位性に変える方法
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サマリー:新たなプライバシー規制は短期的には企業業績や株価に打撃を与えるが、長期的には多くの企業が回復し、規制前を上回る成果を挙げている。短期的な損失だけで判断して投資や対応を縮小すると、コンプライアンスが生む競争優位を逃しかねない。特に多国籍企業には、市場ごとに異なる時間軸に合わせた対応が求められる。

短期的な損失だけを評価すると対応を見誤る

 新しいプライバシー規制が発表されると、大半の企業では、すぐさまお決まりの対応が取られる。法務チームはリスクの大きさを評価し、財務チームは業績予測を修正し、経営陣は混乱に備える。市場の反応も早く、株価は下落し、アナリストはコストの増加を指摘する。多くのリーダーにとっては、こうした初期のシグナルがすべてを決定づけるように思われ、「プライバシー規制は企業価値を損なう」という考えを強める。

 しかし、筆者らの研究が示すのは、こうした反応は全体像の一端にすぎないということだ。業界や国を問わず、プライバシー規制が強化された直後に企業が財務的な打撃を被ることは多いが、長期的な視点に立つと、その後の展開はまったく異なる。多くの企業は、打撃から回復するだけでなく、規制前を上回る業績を挙げているのだ。問題は、リーダーたちがプライバシー規制を誤解していることではなく、あまりにも短い時間軸でそれを評価していることだ。

 評価の期間を見誤れば、典型的な過ちを招く。規制直後の損失を戦略的な失敗の証拠であると解釈すると、リーダーは対応を遅らせたり、投資を削減したり、あるいは規制そのものに抵抗したりするかもしれない。すると、コンプライアンスが価値を発揮するその後のフェーズを逃すおそれがある。多国籍企業の場合、この課題はさらに大きくなる。単一のスケジュールに沿って動くのではなく、市場ごとに異なるスピードで展開する複数のタイムラインを管理しなければならないからだ。

規制が差別化につながる

 プライバシー規制が企業の業績に長期的にどう影響するかを理解するため、筆者らは24カ国、2039社における10の主要な規制変更を分析した。新しい規制が発表された直後の株式市場の反応を調査するとともに、その後の数年間の企業の業績を追跡した。これにより、初期の混乱と長期的な進展の両方を把握することが可能となった。

 プライバシー規制の短期的な影響は一貫していた。企業の株価は下落したが、これはコンプライアンスコスト、業務の混乱、データ駆動型ビジネスモデルの制約に対する投資家の懸念を反映したものだ。こうした反応は当然で、多くの企業、特に個人データに大きく依存している企業や、経営資源に限りのある企業にとって、新しい規制への適応はコストがかかり、複雑を極める。

 見落とされがちなのは、その後に起きる展開だ。多くの企業は、やがて業績が向上する。データ管理のあり方が刷新されるにつれて、コンプライアンスへの取り組みが顧客やビジネスパートナーの目に見える形になる。取り組みが可視化されることで信用が築かれ、それが信頼の証となって重要な関係性が強化されていく。当初は制約と思われたものが、差別化の源泉へと変わるのだ。

 重要なのは、このパターンがどこでも同じように展開するわけではないということである。企業がこうした利益を得られるかどうかは、2つの要因に左右される。1つ目は、規則がどれほど一貫して適用されているかであり、これによってコンプライアンスが公平な競争環境をつくり出しているかどうかが決まる。2つ目は、市場の人々がプライバシーをどれほど重視しているかであり、これが責任ある取り組みを行う企業が認知され、報われるかどうかに影響する。これらの側面は国ごとに差があり、プライバシー規制の恩恵が現れる時期や程度は異なる。では、これらの知見は企業にとって何を意味するのだろうか。

低迷期を想定し、過剰反応を避ける

 リーダーがまず変えるべきは、規制変更後の初期の低迷をどう解釈するかという点である。短期的な業績低迷はプライバシー対応の失敗を意味するのではなく、適応する過程で必ず生じるステップだ。投資を削減したり、コンプライアンスへの取り組みを遅らせたりして対応する企業は、将来的に利益を得るみずからの能力を損なうおそれがある。より効果的なアプローチは、混乱をあらかじめ想定し、それを財務予測に組み込んでおくことだ。この低迷期を見越して計画を立てれば、リーダーが過剰反応する可能性は低くなり、方針を維持しやすくなる。

 欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)に対応する過程で企業が経験したことは、このダイナミクスを浮き彫りにしている。多くの企業は、コンプライアンスコストや業務の混乱への懸念から、規制の導入直後に市場価値が急落した。しかし、早い段階から強固なデータガバナンスに投資していた企業は、後に顧客データの信頼できる管理者として自社を差別化することができた。規制の執行が強化され、世間の意識が高まるにつれて、こうしたプライバシー投資は競争優位の源泉へと変わっていった。