若手研究者の「米国離れ」「アカデミア離れ」が与える深刻な影響
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サマリー:米国における一連の政策変更を背景に、若手研究者の間で「米国離れ」と「アカデミア離れ」の意向が急速に高まっている。高度なイノベーションを大学の知や人材に依存する産業界にとって、これはR&Dパイプラインの縮小を招く深刻な事態である。本稿では、最新の調査データをもとに、若手研究者の意識変化とそれが企業に及ぼすリスクを明らかにしたうえで、この地殻変動に対して企業が講じるべき3つの具体的な対策を紹介する。

若手研究者の間で進む、米国離れとアカデミア離れの意向

 米国企業のR&Dのリーダーにとって、あるいはR&D人材の供給源として大学を頼りにしている企業にとって、注意が必要な状況が生じている。なぜなら、2027年および2028年に採用予定の若手研究者が、別の道に進むかもしれないからだ。

 このことがわかったのは、2025年、米国で一連の政策変更が科学技術界に衝撃を与えて間もない頃だった。ビザの更新・取得の見通しが立ちにくくなり、研究資金が不安定になり、研究環境が政治に左右されやすくなった。同年3月、筆者らはアルフレッド・P. スローン財団の支援を受け、134の機関で770の生物医学系研究室に所属する約1000人の博士課程学生とポスドク研究員を対象に調査を行った。この若手研究者たちは、生物医学系研究室の博士課程学生およびポスドク全体の代表的なサンプルであると筆者らが判断した人たちであり、まもなく労働市場に出ていく人材だ。そうした彼らの進路に関する意向は重要であるが、その傾向は変化しつつある。

 本調査では、3つの簡単な質問をした。「あなたがアカデミアの世界に残る可能性はどれくらいか」「米国に留まる可能性はどれくらいか」「博士号の取得を目指してきたことに、どの程度満足しているか」。その際、調査時点だけでなく、6カ月前の時点ではどのように感じていたかも質問した(筆者らは記憶に基づく回答を基準データと照合し、その回答は正確である可能性が高いことを確認した)。

 すると、顕著な変化が浮かび上がってきた。最初、米国に留まる可能性を学生とポスドクに尋ねた時は、93%が留まるつもりだと答えた。6カ月後に同じ質問をすると、そう答えた人は72%だった。わずか半年で21ポイントも下がったのである。同様に、アカデミアの世界に残る意向を持つ人の割合も66%から44%に減少し、博士号を目指したことに満足している人の割合も91%から76%に下がった。

 もちろん、これは彼らが表明した意向であって、実際に取った行動ではない。だが高度な技術的訓練を受け、長期的な視野で考え、高い流動性を持つ研究者を採用する企業にとって、こうした意向は将来起こる変化を示す先行指標であり、特に注視・懸念すべきものである。

調査結果

 意向に見られる変化は、データ全体を通して一貫しており、博士課程学生とポスドクのいずれにも、そして一流の研究室とそれ以外の研究室に属する若手研究者のいずれにも当てはまった。意外なことに、研究者が所属する研究室の資金調達の安定性によって、結果に差は出なかった。これは重要なポイントだ。もし回答が、研究室の研究資金の問題だけを反映したものであれば、最もその影響を受けやすい若手研究者の間で、より大きな変化が現れるはずだからだ。だが、実際はそうではなく、この変化は研究資金の問題に留まらないものだった。

 筆者らが面談した学生やポスドクの多くは、米国外の大学で学部課程の教育を受けている。ここで違いが現れた。米国以外で学部教育を受けた人のうち、米国に留まるつもりかという質問に「イエス」と答えた人の割合は、半年間で31%減少し、一方、米国で学部教育を受けた人の間では16%の減少に留まった。海外出身の若手研究者のうち、減少の幅が最も大きかったのは欧州出身者(マイナス50ポイント)で、インド(マイナス38ポイント)、中南米(マイナス14ポイント)の出身者がそれに続く。

 このパターンは「米国以外の選択肢」という筋書きに合致する。ビザの障壁が最も低く、代わりの労働市場が最も充実している若手研究者、つまり欧州、インド、中南米出身者は、将来の計画を見直すことに最も前向きであり、それが現実的な選択肢となっている。だが、米国の学部出身の学生でも、以前は米国に留まるつもりだった人の約6人に1人が、いまや、海外でのキャリアを積極的に検討している。

なぜこの状況が問題なのか

 筆者らは3つの理由から、アカデミアの人材市場は、産業界のR&D人材市場の正確な早期警戒システムだと考えている。

大学と企業は同じ人材プールを活用している

 博士課程学生とポスドクは、企業の研究室における新規採用人材の直接の供給源である。現在、アカデミアでのキャリアを再考している人々は、R&Dリーダーがこの先2~5年の間に、ベンチサイエンティスト(実験に従事する研究者)、計算生物学者、機械学習の研究者として雇用するつもりの人々でもある。さらに、米国のSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の博士号取得者の約半数は海外出身の学生であり、彼らは米国出身の学生よりも米国を離れることを検討しやすい。