実務経験がある人でも、具体的な経験はしょせんある仕事や業界の範囲に限定されています。抽象と具体の往復運動ができない人は、いまそこにある具体に縛られるあまり、ちょっと違った世界に行くとさっぱり力が発揮できなくなってしまう。また、同じ業界や企業で仕事を続けていても、抽象化や論理化ができない人は、同じような失敗を繰り返す。

 ごく具体的な詳細のレベルでは、一つとして同じ仕事はないからです。必ず少しずつ違ってくる。抽象化で問題の本質を押さえておかないと、論理的には似たような問題に直面したときでも、せっかくの具体的な経験をいかすことができなくなるという成り行きです。

 もちろんビジネスの現場で抽象的なことばかりでは、「じゃあ結局どうするんだ」という話になりますから、どんな仕事も最後は具体的な行動や成果での勝負です。ただし、具体のレベルを右往左往しているだけでは具体的なアクションは出てこない。抽象度の高いレベルでことの本質を考え、それを具体のレベルに降ろしたときにとるべきアクションが見えてくる。

 また、具体的な現象や結果がどんな意味を持つのかをいつも意識的に抽象レベルに引き上げて考える。具体と抽象の往復を、振れ幅を大きく、頻繁に行うことが、「アタマが良い」ということなのです。

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