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中国資本の下で再生する欧米ブランド
米国の家電ブランド「シャークニンジャ」が中国の小型家電大手・九陽に買収された時、文化の衝突やブランド・アイデンティティの希薄化、そして最終的な衰退という、お決まりの展開を予想する声もあったようだ。だが実際には、シャークニンジャはイノベーションのサイクルを加速させ、日本や英国など市場に適合した商品を投入して、老舗ブランドを追い抜いてきた。
同様のサプライズは、中国企業がドイツの電動工具ブランド「フレックス」や米国の電動工具ブランド「スキル」といった、100年以上の歴史がある欧米ブランドを買収した時、あるいはオーストラリアの高品質サプリメントメーカー「スイス」を買収した時も見られた。筆者らの聞き取り調査や公式説明によると、これら中国資本の下に入った企業は絶好調だ。
脱グローバル化や貿易障壁の拡大、そして競争の激化にもまれる欧米企業のエグゼクティブにとって、これは興味深い疑問を浮上させる。「なぜ一部の欧米ブランドは、つい最近まで低価格品のメーカーと見なされていた新興国の企業(多くの場合、中国企業)に買収された後も絶好調なのか」と。さらに、こうした事業部門の売却が、事業再生への現実的な道筋の一つ(ひょっとすると唯一の道筋)なのかもしれないという、意外な可能性も浮上させている。
なぜ欧米ブランドは売却に前向きなのか
本稿は、さまざまな業界の中国系多国籍企業についての10年以上にわたる共同研究に基づく。とりわけコンサルティング、調査、および国際M&Aについて教える仕事(丁)、および組織間提携と新興国企業に関する研究(プラシャンタム)を含む。筆者らの研究によれば、欧米企業が自社ブランドの売却を選択する背景には、2つの明確な動機が存在する。外から見ると、こうした状況はどれも似ているが、その背後にある戦略的論理には重要な違いがある。
優位性が崩れるレガシーブランド
多くの老舗ブランドは、製造からデザイン、ブランディングまでバリューチェーン全体を欧米企業が握っていた時代に築かれた。しかし、時間が経つにつれて、利益を求めて、大規模なアウトソーシング(とりわけアジアへ)が進んだ。そしてサプライヤーの製造能力が向上するにつれて、製造だけでなくデザイン、そして最終的にはR&Dの一部まで海外に移転していった。
ついには、中国のように製造コストが安かった国のサプライヤーが、独自の製品を開発するようになった。多くの場合、欧米のブランド品と質は同等だが、価格競争力のある商品だ。このため、欧米企業のブランドプレミアムは、少しずつ失われていった。成長が鈍化し、差別化が難しくなると、コンサルタントたちは、業績目標に合致しなくなったブランドを売却するよう助言するようになる。
新興ブランドも成長が頭打ちに
第2のグループには、新興ブランド(米国や英国やオーストラリアのものであることが多い)が含まれる。生産をアウトソーシングして、みずからはテクノロジーとブランディングに投資して急拡大したブランドだ。その意味で、こうした企業は「最初からフラット」だ。だが、早い段階から国内で成功を収めたこれら新興ブランドは、成長の限界に直面する。急成長市場への参入機会が限られることや、コストが上昇したこと、そしてイノベーションを量産化する能力に制約があることなどが原因だ。出口戦略を求める創業者や投資家にとって、M&Aは新たな成長のエンジンとなりうる。
どちらの事情も、中国企業による欧米企業の買収につながってきた。
泉峰(チェルボン)によるフレックスとスキルの買収、および、これに先立つ吉利汽車によるボルボ・カー(スウェーデン)の買収や、タタ自動車(インド)によるジャガー・ランドローバー(英国)の買収は、第1の動機の例だ。フレックスとスキルは、100年の歴史と確固たる評判を誇る電動工具ブランドだが、長年のアウトソーシングにより、事業基盤は弱体化していた。欧米の所有下で再生を図るためには、もはや社内に存在しない製造能力とイノベーション能力を再構築しなければならなかっただろう。
九陽によるシャークニンジャの買収や、H&Hグループによるスイスの買収は、第2の動機による買収事例だ。どちらも衰退するブランドを救うためではなく、従来の所有者が容易に実現できなかった成長を解き放つための買収だった。
どちらの理由であれ、事業売却はブランドの野心と所有者の能力のミスマッチを反映していた。
新興国の買収企業のプレーブック
たしかに、すべての買収が成功するわけではない。しかし、新興国の企業が欧米ブランドの再生に成功する場合、伝統的な欧米の統合モデルとは明らかに異なる戦略を取る傾向がある。厳格な管理を強いるのではなく、ゆるやかな統合と長期的な投資を組み合わせているのだ。また、こうした企業は、多くの欧米企業が失ってしまったか、構築できなかったものをもたらす。すなわち、深く管理された製造と、アジャイルなプロダクトデザインとデジタルファーストの販売チャネルの組み合わせだ。
ゆるやかな統合
買収に成功する中国企業は、実務面での介入を驚くほど控えている。多くの場合、欧米の経営陣は留任され、ブランド・アイデンティティは守られ、ローカル市場戦略もいきなり全面的に見直されることはない。
戦略的忍耐
新しいオーナーは、欧米の上場企業では滅多に見られなくなってきた「戦略的忍耐」も示す。利益が出るのを四半期単位ではなく、数年単位で待つ。たとえば、泉峰のCEOの話では、同社はフレックスとスキルの製造拠点の合理化を急がなかった。それどころか、欧米にある工場を閉鎖するまでに意図的に10年近くを費やすことで、ブランドのアイデンティティを壊さずにオペレーションを安定させつつ、製造能力を再編したという。
さらに、買収に成功した中国企業には次の3つの組織的能力があった。
製造効率
買収に成功した企業は、バリューチェーン全体を管理して、オペレーションの柔軟性を高めることでコスト削減を推進する。欧米企業のアウトソーシング・ネットワークは細分化されていて、遅延や連携面の問題を生じさせることが多いが、中国の買収企業は供給、生産、仕入れに関する決定を一元化することでこうした問題を回避し、需要や設計の変更にも迅速に対応できる。
たとえば、CEOが語ったように、泉峰はフレックスとスキルを買収したことで、その生産プロセスを再編し、工場の稼働率を最適化し、複数の生産拠点全体で品質管理を厳格化できるようになったという。
設計とR&D能力
迅速な設計のイテレーションと、大規模なR&Dが密接に統合されると、製品開発がスピードアップし、より確実な実行が可能になる。九陽によるシャークニンジャの買収は、このアプローチの好例だろう。九陽のCEOら経営陣の話によると、同社はエンジニアリング力と製造管理能力を活かして、設計サイクルを加速させ、各国市場に合った製品開発を進めたという。たとえば日本の場合、住宅が小規模で、静音性の高い家電が好まれることから、商品の設計を見直したところ、ダイソンなど確立されたライバルブランドを凌駕できた。
デジタルマーケティング力
新興国の買収企業の多くは、競争の激しいデジタルネイティブのエコシステムで事業を展開してきた。このため、欧米のブランドが追随に苦労しがちな、データ主導の製品開発や、ソーシャルメディア・マーケティング、そしてeコマースの実行力を持ち合わせている。
H&Hはスイスを買収後、こうした能力を中国だけでなく欧米市場でも活用した。経営陣の話によると、米国でペットフード「ソリッドゴールド」やペットサプリメント「ゼスティパウズ」を復活させることができたのは、オンラインマーケティングとeコマース戦略を強化した結果だという。このことは、ブランドポジショニングを損なうことなく、中国で培われたデジタルスキルを有効活用できることを示している。
このように、多くの中国企業は依然として海外市場における消費者の行動や制度的な違いを学習中とはいえ、製造効率の向上や、製品イノベーションと設計の強化、そしてデータ主導のデジタルマーケティングとeコマース戦略によって新たな成長を支えることでは、大きな貢献ができる。したがって、中国企業は、製造を通じて価値を創出するだけでなく、プロダクトデザインやマーケティングを通じても価値を創出することで、事実上「スマイルカーブ」全体を書き直しているといえるだろう。
欧米企業にとっての教訓:検討すべき戦略的選択
欧米企業のエグゼクティブにとって、新興国資本によるブランド再生は、衰退への新しい対処法を示している。それは、ブランドの売却を敗北と見なすのではなく、必要な能力もないのに所有にこだわることこそ大きなリスクであるという認識へのシフトでもある。
筆者らの見解は、基本的に(そして手遅れでなければ)、スマイルカーブ(アウトソーシング)戦略に全面的に依存するのをやめて、中核的オペレーションを強化すべきだと、欧米のブランドに警鐘を鳴らすものである。リーダーは、アウトソーシングの成功を生産能力の強化と混同して、オペレーションがまずくてもブランドの価値は維持できると考えがちだ。しかし、効率的なアウトソーシングは社内のノウハウの浸食を招き、多くの企業は戦略的に弱体化した。また、ブランドにとっては継続的なイノベーションと確実な実行、そしてコスト管理が極めて重要だ。こうした能力は、サプライヤーから永遠に借り続けることはできない。垂直統合は依然として重要なのだ。地政学的緊張が高まる中では、なおさらだ。
買収される見通しについてより具体的にいうと、新興国の資本によってブランドが再生する例が増えていることは、欧米のエグゼクティブたちに、自社の特性や状況に応じた複数の戦略的選択肢を提供する。
賢い出口戦略
プレミアム価値が乏しくなる老舗ブランドの場合、垂直統合型の事業体制に再び構築するべく投資するか、別の所有者の下で再生を図るほうがよいと認めるか、リーダーは決断しなければならない。新興国の買収企業との間で、長期的な価値を守るライセンス契約を結ぶといった「賢明な出口戦略」は、長期にわたる衰退よりも優れた選択肢である可能性が高い。
オランダのヘルスケア大手フィリップスのケースを考えてみよう。フィリップスは中国の投資ファンドであるヒルハウス・キャピタルに家電部門を売却した。フィリップス・ブランドの15年間のライセンス契約により、向こう数年間で約7億ユーロの収入を見込んでいる。
拡大のための売却
成長が頭打ちとなった新興ブランドは、独立していることが将来の成長を制限していないか自問すべきだ。新たなパートナー(つまり中国など新興国の買収企業)による買収や過半数出資は、新たな市場へのアクセスや経営基盤の強化につながる可能性がある。従来の所有者が少数株主としての地位を守りつつ、顧客との接触に対する管理も維持する(中国の買収企業は軽い統合アプローチを取る可能性が高いから、これは現実的な対応だ)ことは、買収されたブランドにとって新たな成長エンジンとなりうる。
部分的出口戦略
依然としてプレミアム価値のあるブランドは、完全な売却ではなく、財務面でのローカライゼーションを選択してもよいだろう。米外食チェーン大手ヤムの中国事業部門ヤム・チャイナや、ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)がアジア太平洋地域で行ったように、地域事業をスピンオフすると、戦略的な影響力を維持しつつ、アジリティを高めることができる。
場合によっては、過半数の株式を売却した後も、一定の少数株主としての地位を維持すれば、支配権が移った後も引き続き、ガバナンスやブランディング、サステナビリティの基準に影響を与えることができる。スターバックスは、2019年時点で約34%あった中国での市場シェアが2024年に約14%に低下したことを受け、中国事業の株式の過半数を現地投資ファンドの博裕投資(ボーユー・キャピタル)に売却する一方で、重要な少数株主としての地位を維持することにした。これにより、同社のグローバルなブランディングのノウハウを活用しつつ、財務面でも利益を得ることが可能となった。また、ソニーグループはテレビ事業の株式の過半数を中国のテレビ大手TCLに譲渡したが、少数株主として同ブランドへの影響力を維持している。
まとめ
これらの道筋のいずれを選ぶにせよ、重要なのは、古いグローバル化の論理が依然として通用すると決めつけて、衰退の道を歩むのではなく、よく考えた選択をすることだ。脱グローバル化が進む世界で、ブランドを売却することは、もはや自動的に敗北を意味しない。それがブランドが生き残り、繁栄するための唯一の道となることもあるのだ。
だが、欧米企業のリーダーは現実を直視すべきだ。今日の新興国の買収企業は、受動的な所有者ではない。迅速に学び、アグレッシブに拡大し、次世代のグローバルなライバルを生み出している。最も危険なのは、こうした企業が失敗することではなく、グローバルな競争のルールが書き換えられつつあるのに、欧米のブランドが新興国の企業を無視しても問題ないと思い続けることだ。
注記:丁はH&HおよびJSグローバル(九陽とシャークニンジャ・アジアパシフィックを傘下に持つ香港の上場企業)の社外取締役である。丁は両社について詳細なケーススタディを執筆しており、エグゼクティブ向け講座で使用している。
"How Chinese Firms Are Saving Western Brands," HBR.org, June 04, 2026.







