欧米ブランドを中国企業が次々と再生できているのはなぜか
Illustration by Mario Wagner
サマリー:中国企業に買収された欧米ブランドが、衰退するどころか復活を遂げる事例が相次いでいる。過度なアウトソーシングで製造力を失った老舗や、成長の壁に直面した新興ブランドにとって、事業売却はもはや敗北ではない。新興国資本の独自のアプローチは、いかにしてブランドに新たな命を吹き込むのか。本稿では、買収を成功に導くメカニズムと、生き残るための戦略的選択肢を提示する。

中国資本の下で再生する欧米ブランド

 米国の家電ブランド「シャークニンジャ」が中国の小型家電大手・九陽に買収された時、文化の衝突やブランド・アイデンティティの希薄化、そして最終的な衰退という、お決まりの展開を予想する声もあったようだ。だが実際には、シャークニンジャはイノベーションのサイクルを加速させ、日本や英国など市場に適合した商品を投入して、老舗ブランドを追い抜いてきた

 同様のサプライズは、中国企業がドイツの電動工具ブランド「フレックス」や米国の電動工具ブランド「スキル」といった、100年以上の歴史がある欧米ブランドを買収した時、あるいはオーストラリアの高品質サプリメントメーカー「スイス」を買収した時も見られた。筆者らの聞き取り調査や公式説明によると、これら中国資本の下に入った企業は絶好調だ。

 脱グローバル化や貿易障壁の拡大、そして競争の激化にもまれる欧米企業のエグゼクティブにとって、これは興味深い疑問を浮上させる。「なぜ一部の欧米ブランドは、つい最近まで低価格品のメーカーと見なされていた新興国の企業(多くの場合、中国企業)に買収された後も絶好調なのか」と。さらに、こうした事業部門の売却が、事業再生への現実的な道筋の一つ(ひょっとすると唯一の道筋)なのかもしれないという、意外な可能性も浮上させている。

なぜ欧米ブランドは売却に前向きなのか

 本稿は、さまざまな業界の中国系多国籍企業についての10年以上にわたる共同研究に基づく。とりわけコンサルティング、調査、および国際M&Aについて教える仕事(丁)、および組織間提携と新興国企業に関する研究(プラシャンタム)を含む。筆者らの研究によれば、欧米企業が自社ブランドの売却を選択する背景には、2つの明確な動機が存在する。外から見ると、こうした状況はどれも似ているが、その背後にある戦略的論理には重要な違いがある。

優位性が崩れるレガシーブランド

 多くの老舗ブランドは、製造からデザイン、ブランディングまでバリューチェーン全体を欧米企業が握っていた時代に築かれた。しかし、時間が経つにつれて、利益を求めて、大規模なアウトソーシング(とりわけアジアへ)が進んだ。そしてサプライヤーの製造能力が向上するにつれて、製造だけでなくデザイン、そして最終的にはR&Dの一部まで海外に移転していった。

 ついには、中国のように製造コストが安かった国のサプライヤーが、独自の製品を開発するようになった。多くの場合、欧米のブランド品と質は同等だが、価格競争力のある商品だ。このため、欧米企業のブランドプレミアムは、少しずつ失われていった。成長が鈍化し、差別化が難しくなると、コンサルタントたちは、業績目標に合致しなくなったブランドを売却するよう助言するようになる。

新興ブランドも成長が頭打ちに

 第2のグループには、新興ブランド(米国や英国やオーストラリアのものであることが多い)が含まれる。生産をアウトソーシングして、みずからはテクノロジーとブランディングに投資して急拡大したブランドだ。その意味で、こうした企業は「最初からフラット」だ。だが、早い段階から国内で成功を収めたこれら新興ブランドは、成長の限界に直面する。急成長市場への参入機会が限られることや、コストが上昇したこと、そしてイノベーションを量産化する能力に制約があることなどが原因だ。出口戦略を求める創業者や投資家にとって、M&Aは新たな成長のエンジンとなりうる。

 どちらの事情も、中国企業による欧米企業の買収につながってきた。

 泉峰(チェルボン)によるフレックスとスキルの買収、および、これに先立つ吉利汽車によるボルボ・カー(スウェーデン)の買収や、タタ自動車(インド)によるジャガー・ランドローバー(英国)の買収は、第1の動機の例だ。フレックスとスキルは、100年の歴史と確固たる評判を誇る電動工具ブランドだが、長年のアウトソーシングにより、事業基盤は弱体化していた。欧米の所有下で再生を図るためには、もはや社内に存在しない製造能力とイノベーション能力を再構築しなければならなかっただろう。

 九陽によるシャークニンジャの買収や、H&Hグループによるスイスの買収は、第2の動機による買収事例だ。どちらも衰退するブランドを救うためではなく、従来の所有者が容易に実現できなかった成長を解き放つための買収だった。