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「電力不足」がAI戦略の制約要因になっている
生成AIブームが始まった頃、最も稀少な資産は明白だった。それは、最先端モデルへのアクセスだ。企業は競うようにしてGPT-4、クロード、ジェミニなどのモデルのライセンスを取得し、プロンプトエンジニアを採用し、企業独自のAIコパイロットを構築した。すると、また新たな制約要因が出てきた。それは、GPU、クラウドの処理能力、データセンターのスペースを確保することだった。そして現在、そのすべての根底にある新たな制約要因が浮上している。それは、電力である。いま新たに稀少資産となっているのは、AIのインテリジェンスそのものではなく、それを生み出し、提供するために必要なエネルギー集約型のインフラなのである。
AIはいまなおソフトウェアのように見えることから、この変化は見落とされやすい。だがAIの経済構造はますます産業的なものになっている。AIモデルは単なるコードではなく、半導体チップ、冷却装置、土地、送電網への接続権、電力契約があって初めて成り立つ。国際エネルギー機関(IEA)の2026年版報告では、世界のデータセンターの電力消費量が2025年の約485テラワット時から、2030年には約950テラワット時まで増加し、同期間でAIデータセンターによる消費量が3倍になると予測されている。世界最大手の事業用不動産サービスおよび投資顧問会社であるCBREグループも同様に、世界的に続く電力不足が、世界のデータセンター市場の成長を大きく阻害する要因になると指摘している。
したがって、リーダーの戦略的問題は変化しつつある。もはや「どのモデルを使用すべきか」「GPUを十分に確保できるか」だけではなく、「計算処理が必要となる場所とタイミングで、信頼性が高く、手頃な価格で、必要な許認可も得ている電力を確保できるか」も考慮する必要が出てきた。
筆者らは数十年にわたって、デジタル戦略とエネルギーシステムが交差する領域で、研究と業務に従事してきた。競争上のポジショニングおよび最適独自性に関する研究と、プラットフォームのグローバル化および再生可能エネルギーのファイナンスに関する研究からは、次のような示唆が得られる。すなわち、現在AIをめぐって起きていることは、テクノロジーの転換期に企業が価値を獲得する際に繰り返し見られるパターンと一致しているということだ。私たちはそのパターンを「グレート・バリュー・ループ」と名づけている。以下では、グレート・バリュー・ループの仕組みを説明するとともに、AIが現在そのループのどこに位置するのか、そして企業のリーダーが投資や調達、競争戦略に関してより適切な意思決定を行うために、どのようにそれを活用できるのかを解説したい。
グレート・バリュー・ループ
メカニズムは単純だ。新しいテクノロジーは稀少資源の戦略的なボトルネックをつくり出す。顧客はそれを十分に入手できないので、その層に価値が集中する。AIの文脈において、その価値は、モデル、通信帯域、提供チャネル、クラウドの計算資源、半導体チップなどの形で現れる。次に資本が押し寄せ、標準が設定され、サプライヤーが増え、買い手はより効率的にその層を調達するようになる。かつて稀少だったものも、やがて誰もが入手できるようになり、差別化要因だったものは、標準機能になる。
だがテクノロジーの導入は止まらない。むしろ加速して、その下層にある次の制約要因を圧迫する。利益が集中する領域は、技術スタックの下層へと移り、容易に模倣したり、借用したり、迅速に拡張したりできないものに移行する。それまでの稀少価値の層がいつまでも持続するかのように投資を続けるのは、経営判断の誤りだ。そうではなく、すべてのサイクルにおいて一貫したアプローチで、何があり余るようになってきたか、何が標準化されつつあるか、どのようなボトルネックが潜在的に形成されつつあるかを問う必要がある。
グレート・バリュー・ループは、現代の技術革新の時代において3つの局面を経てきた。そしていま、第4の局面に突入しようとしている。第1の局面は「インフラ」だった。主な制約要因は接続性であり、シスコシステムズやAT&Tなどの企業が通信回線を支配して、価値を獲得した。第2の局面は「人々の関心」だった。主な制約要因は発見であり、グーグルやメタ・プラットフォームズなどの企業が、情報、商品、人々へのアクセスを最適化することで、価値を獲得した。第3の局面は「インテリジェンス」だった。主な制約要因は計算処理であり、オープンAI、アンソロピック、エヌビディアなどの企業が最先端モデル、半導体チップ、AIインフラによって価値を獲得した。そして現在、第4の局面「エネルギーと物理」の時代に足を踏み入れつつある。この新時代の主な制約要因は電力だ。ボトルネックはデジタルインテリジェンスから、電力、冷却装置、土地、送電網への接続といった物理世界へと再び移りつつある。つまり、接続性から始まり、発見、計算処理、そして電力へと、技術スタックの下層に移動してきたのだ。
この新時代が始まったのは、AIの需要がパラメーター数やトークン数、クラウド予算だけでなく、メガワット(消費電力)で測られるようになった時だった。IEAの推定によると、2024年のデータセンターの電力消費量は約415テラワット時で、これは世界の電力需要の約1.5%に相当する。2030年までにこの数値は2倍以上の約950テラワット時に達すると推測されており、AI関連施設による電力需要が最も急速に増加することが見込まれている。
問題は総需要だけではなく、立地にもある。AIデータセンターは特定の地域に集中しており、それらに電力を供給する電力網は、送電、相互接続、冷却、許認可といった面で地域ごとの制約に直面している。それを最も明確に示しているのが、現在、ハイパースケーラー(巨大クラウドサービス事業者)が上流の発電事業そのものに積極的に踏み入れているという事実だ。たとえば、原子力発電事業者と20年間の電力購入契約を締結する、原子炉の隣接地をデータセンター用地として取得する、数ギガワット規模の新しい発電容量を確保するための提案依頼書を発行する、といった動きがある。メタの動向を見ても、1~4ギガワットの米国の新規原子力発電を目標にした提案依頼書を発行している。これらはサステナビリティの意思表示ではなく、AIの次のボトルネックに対するインフラ面のリスクヘッジだ。
効率化によって電力需要の拡大がペースダウンしたとしても、需要の拡大がなくなることはない。2025年のディープシークのリリースによって、公表されたトレーニングコストがどれほど短期間に低下しうるかが例証されたが、私たちが現実に目にしているのは、いわゆるジェボンズのパラドックスだ(技術の進歩によって資源利用の効率が向上したことにより、かえって消費が増大する現象)。インテリジェンスの価格が下がっても、採算の取れるAIの利用用途が拡大するため、総需要は減少するどころか増加している。そうした背景により、私たちがいま体験しているのは、通常の調達サイクルではない。エネルギーは、簡単に毎年価格を交渉できるような資源ではない。エネルギーインフラは地域性が強く、許認可が必要で、建設には時間がかかり、政治的な争点になりやすい。企業が競争優位に立つには、ワット当たりのインテリジェンスを向上させ、長期的な契約上のオプションの余地を確保し、信頼性の高い電力が存在する場所に計算処理の拠点を置く必要があるだろう。







