資本コストの上昇が企業経営を根本から変える
HBR Staff; skodonnell/Getty Images; AI
サマリー:超低金利時代が終わり、企業は資本コストが上昇した環境への対応を迫られている。経営幹部には、厳格な資本配分を徹底し、戦略、財務業績、価値創造を強固に連動させることが求められる。本稿では、連邦債務やAI・エネルギー投資の急増といった金利上昇を促す構造的要因を整理したうえで、本質的価値の追求や経済的利益を伴う成長という基本原則に基づき、企業が持続的な価値を創出するための経営アプローチを解説する。

企業は資本コストの高さにいかに対応すべきか

 企業の経営幹部は20年近くもの間、資本コストが極めて安い世界でビジネスを展開してきた。世界金融危機の直後、中央銀行は金利を歴史的な低水準まで引き下げ、量的緩和を通じて市場に大量の資金を供給した。2008年~2020年は、多くの大企業における税引後の借り入れコストは、インフレ率と同等か、それ以下で推移した。実質的に、負債はコストゼロだったのである。

 しかし、その環境はいまや変わりつつある。新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で実施された大規模な財政刺激策の後、連邦準備制度理事会(FRB)はインフレに対抗するため、2022年初頭から急激な利上げを行ってきた。2026年5月には、30年米国債の利回りは約20年ぶりの高水準に達し、資本市場がより正常で、よりコストのかかる環境へと回帰していることを示した。こうした変化が定着することを示唆する構造的な要因もいくつか存在する。連邦債務の増加、AIインフラへの投資急増、そしてエネルギーシステムへの巨額の支出はいずれも、資本をめぐる競争を激化させ、長期金利に持続的な上昇圧力をかけている。

 資本コストが高くなるにつれ、経営幹部はかつての世代が熟知していた教訓を学び直さなければならなくなる。それは、厳格な資本配分が極めて重要であるということだ。同時に、戦略、財務業績、価値創造を強固に連動させることも不可欠となる。

金利上昇を促す要因

 足元の長期金利の上昇について、地政学的リスクの高まりや、世界のエネルギー市場に対する懸念の再燃が主な原因だと考えたくなるかもしれない。たしかにそれらの要素も影響している。しかし、より本質的な構造変化が、資本をめぐる経済環境を再構築している。ベイン・アンド・カンパニーのマクロ・トレンド・グループをはじめとするマクロ経済アナリストらの調査によると、今後数年間にわたり長期金利を高水準に維持させる要因として、次の3つが挙げられる。

1. 連邦債務の膨張による民間投資のクラウディングアウト

 財政赤字が金利の上昇圧力を生むことは、古くから知られている。しかし今日では、連邦債務の規模とその推移に対する懸念がいちだんと深刻化している。米議会予算局(CBO)が2月に発表した2026~2035年度の財政・経済見通しでは、連邦債務の膨張が民間投資を抑制する「クラウディングアウト」につながり、短期・長期金利ともにパンデミック前の平均を上回る水準で推移すると予測された。同様に、国際通貨基金(IMF)が4月に公表した「財政モニター」でも、財政赤字の拡大と債務水準の上昇が「長期金利の上昇圧力」になる可能性が極めて高いと結論づけている。同レポートはさらに、地政学的な不安定さやエネルギー市場へのショックが、金融環境をいちだんと引き締めるおそれがある点にも言及した。

2. 資本を激しく奪い合うAIインフラ投資

 金利上昇を促す2つ目の要因で、しかも重要度を増しているのが、AIインフラ投資によって生じる莫大な資本需要である。

 マイクロソフト、グーグル、アマゾン・ドットコムといったハイパースケーラー(超巨大IT企業)は、急速に拡大するAIの処理負荷に対応するため、データセンター、計算能力、ネットワークインフラ、ストレージへ巨額の資金を投じている。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の予測によれば、ハイパースケーラーの設備投資額は2026年に6000億ドルを超え、その約4分の3がAIインフラに直接関連するものになるという。こうした設備投資や株主還元への支出がいまや内部創出キャッシュフローを上回っているため、外部資金での調達に頼るケースが目立って増えている。今後数年間で、このセクター全体が必要とする調達額は最大1.5兆ドルに達する可能性がある。

 自前で拡張資金を賄っていた時代から、資本市場への持続的な依存へとシフトしたことは、マクロ経済に重要な意味を持つ。米国債を購入する機関投資家は、メガキャップ(巨大)テクノロジー企業が発行する投資適格社債の買い手でもあるからだ。AI関連の債券発行が増えて長期債の供給量が拡大すれば、政府と民間企業はより激しく資本を競い合わねばならなくなり、結果として利回りは上昇を余儀なくされる。

 これが意味するのは、2008年以降続いた資本が潤沢な時代が終わりを告げるかもしれないということだ。それに代わって、構造的に高い実質金利を特徴とする、はるかに資本集約的な経済が到来する可能性がある。