なぜリーダーに現場の真実が届かないのか
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サマリー:成熟した企業には、経営陣が資料を通じて把握する「決算書類上の組織」と、従業員が日々経験する「実態組織」が併存する。両者の構造的な乖離は、戦略判断の誤りや問題発見の遅れ、優秀な人材の流出を招く。本稿では、このギャップを生み出す構造的要因やリスクが拡大する領域を明らかにした上で、リーダーが現場の実態を正確に把握し、双方の組織を適切に統治するための具体的な実践策を紹介する。

「書類上の組織」と「現実の組織」には乖離がある

 数カ月前、ある金融サービス企業の取締役会に同席した時のこと。CEOが取締役にAI変革の説明をしていた。非の打ちどころのないスライドで、部門別のAI導入率、ワークフロー別の時間短縮効果、そしてパイロット段階から本格導入までの流れがきっちり示されていた。取締役たちは、これぞ知りたかったことだと満足している様子だった。

 その前日、筆者はそのAIツールを構築したエンジニアたちとミーティングを持っていた。そこで聞いたことは、まるで別の会社の話のようだった。最もポジションの高いエンジニア2人は、すでに転職先を探し始めていた。CEOが主張することと、彼らエンジニアが日々経験していることの間にギャップがありすぎるというのだ。

 AI変革に関する2つの説明は、どちらも真実だったが、どちらも完全ではなかった。それは筆者が「二重組織」問題と呼ぶものの格好の例だ。同じようなパターンは、金融サービスやフィンテック、法人向けソフトウェア、AIといった業界で見られる。筆者はかつてはエグゼクティブとして社内から、そしていまは取締役会やCEOへのアドバイザーとして社外から、それを目にしてきた。業界も会社の規模も多種多様だが、パターンは同じだ。

 オペレーション上、成熟度と複雑性が一定レベルに達した企業は、たいてい複数のリーダーシップ層が存在し、プロセスが確立されていて、チーム間の連携と自主性のバランスを取る必要性がある。そこには、実のところ、2つの組織が併存している。

・決算書類上の組織は、ダッシュボードや取締役会資料、全社集会、アナリスト向け電話会議で存在するものである。リーダーたちが目にし、統治し、社外に説明するのはこの組織だ。

・実態の組織は、従業員が日々経験している会社であり、仕事の質からチームの状態、顧客経験、そして企業文化にまで及ぶ。

 2つの組織の乖離は、コミュニケーションの失敗ではなく、大規模組織が抱える構造的な特徴だ。一部の組織では、そのギャップが拡大していく。

 その影響は、少しずつ蓄積されていく。現実よりも報告過程で形成されたイメージに基づき戦略が策定される。オペレーション上の問題が表面化するタイミングが遅れ、予期せぬ危機に見舞われて初めて明らかになることも多い。現場に最も近い人材、つまりそのギャップを最も痛感している人たちは、最も辞めていきやすい。そして取締役会は、真実ではなく、提示された情報に基づき後継者を決定する。

なぜ構造的なギャップが起こるのか

 2つの組織という問題は、個々のリーダーが間違った判断を下すために起こるのではない。この隔たりを生み出す要因は3つある。