AI導入で「新人」を減らす企業は、次世代リーダーを失う
Illustration by Elen Winata
サマリー:新人などが担うエントリーレベルの業務削減やAI導入は目先のコスト削減をもたらす一方、現場での実践機会や暗黙知の伝達を奪い、将来のリーダー不足を招く。AI変革を進める企業が対処すべきは、人材育成モデルの崩壊によって生じる構造的な「能力債務」である。本稿では、AIの活用と並行して持続可能な人材パイプラインを再構築し、次世代のリーダーシップ供給を確保するための3つの実践的なアプローチを紹介する。

人材配置の効率化は、リーダーシップの供給を細らせる

 ある中規模メディアのCHRO(最高人事責任者)であるジュリー(仮名)は、「事実上避けられない」決断を下した。取締役会から経費削減と、AI投資の利益率(ROI)を示すように、という圧力を受けて、200人ほどの新人(エントリーレベル)を対象とした「アナリスト・アソシエート・プログラム」を廃止したのだ。何十年も前から、中堅人材の最大の供給源となっていたプログラムだった。経費削減の効果はすぐに現れた。だが、その影響は時間が経ってから現れた。

 1年半後、複数のシニアバイスプレジデント(SVP)が警鐘を鳴らし始めた。スケジュールに遅れが生じ、かつてアソシエートが担当していた仕事を、シニアマネジャーが吸収せざるをえなくなった。そして次のディレクター候補を昇進させようとした時、候補者はゼロに近かった。「コストの問題は解決した」とジュリーは言った。「しかしそれは人材の危機を招いた」

 ジュリーの経験は珍しいものではない。世界的に、新人のプールが急激に縮小している。経営コンサルティング会社コーン・フェリーがまとめた「2026年人材獲得トレンド報告書」によると、43%の企業が複数のポジションをAIに置き換えることを計画している。その矢面に立たされているのはバックオフィス部門(58%)と初級(ジュニアレベル)職(37%)だ。2024年に米ハルト・インターナショナル・ビジネス・スクールが実施した調査によると、米企業のリーダーの45%が、新卒者を採用するよりもフリーランサーを雇うと答え、37%は新卒者よりもAIを導入すると答えた。

 目先のコスト削減の影響は積み重なっていく。エントリーレベルのポジションを削減すれば、中堅管理職の存在意義を支える従業員数が減る。中堅管理職が減れば、ディレクターやバイスプレジデント(VP)候補の人材プールが縮小する。一見したところ人員配置を効率化する決定は、実のところリーダーシップの供給に関する決定であり、そのダメージの全容が明らかになるのは数年後になるだろう。

 筆者はエグゼクティブ・コーチングやリーダーシップ能力育成を通じて、並行する人材戦略がないままAI変革を進める組織が増えていることに気がついた。また、それにより表面化するリーダー候補の減少が、構造的な問題であるにもかかわらず、採用面の問題として誤解されていることが多い。

 この状況にうまく対処しているリーダーは、自動化戦略を異なる方法で実施している。新技術が必要とする人材インフラを構築しているのだ。そのための3つの方法を紹介しよう。

1. エントリーレベルのポジションを能力開発コホートとして再構築する

 そもそもエントリーレベルのポジションに期待されるのは、成果ではなかった。むしろ、これらの従業員が将来どのように育つか、つまり、過程でどのような能力を身につけるかが重要だった。世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート」によると、AI時代に最も重要になるスキルは、分析的思考、創造的思考、レジリエンスと適応力、リーダーシップと社会的影響力、そして好奇心と生涯学習などだ。こうしたスキルは、研修で習得したり、大規模言語モデル(LLM)にプロンプトを入力して得られるものではなく、実践を通じて培われる。つまり、曖昧な状況に対処し、プレッシャーにさらされる中で人間関係を管理し、ミスから立ち直り、権限がなくても他者に影響を与える方法を学ぶのだ。エントリーレベルのポジションは、うまくいけば、これらすべてが始まる場所だった。

 リンクトインの調査によると、社内に強力な異動制度がある組織では、リーダーへの昇進がはるかに多く、勤続期間も長い傾向がある。一方、社外からの登用に依存する組織は、社内の流動性が不十分であるため人材は価値を失っていく。内部昇進したリーダーは、社外から登用したリーダーには真似できない(できたとしても短期間では不可能な)背景の理解、人間関係、そして判断力を備えている。組織がエントリーレベルのポジションを完全に自動化したり、空洞化したりすると、こうした成長のハシゴの1段目を取り除いてしまうおそれがある。それとともに、AI時代に最も求められるスキルを生み出す環境も失われてしまう。

 アナリスト・アソシエート・プログラム廃止の影響が明らかになった時、ジュリーが真っ先に思ったのは、このプログラムの復活だった。だが、彼女のチームは、人材サプライチェーンの分析ツールを構築し、現在のシニアリーダーたちの昇進履歴を追跡して、新しいモデルの下で、現在の候補者プールが確実に伸ばせるリーダーシップ能力(そして、そのモデルがシニアレベルに昇進する準備ができたリーダーを生み出すかどうか)を予測した。この分析は、人員不足以上のことを明らかにした。人事システムから静かに排除されてしまった経験や人間関係や判断力の構図だ。