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M&Aにおける新たな価値創造「エコシステムシナジー」とは何か
M&Aは伝統的に、市場支配力の強化や新たな組織能力の獲得といった要因に基づいて評価されてきた。2012年にフェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)がインスタグラムを10億ドルで買収したケースを考えてみると、当時、このディールは急速に台頭する競合への防御策であり、フェイスブックがモバイル写真共有分野での地位を固めるための手段であると広く受け止められていた。
しかし、それから15年近くが経過した現在、この買収はまったく違う観点から評価されている。筆者らの研究が示すように、実は重要な価値の源泉が見過ごされていた。それは、2つのエコシステムを結合し、開発者やパートナー、その他のコンプリメンター(補完業者)とのつながりを強化することによって、新たな価値を創造する機会である。
今日、ソフトウェアやクラウドコンピューティングからAIに至るまで、あらゆる業界においてエコシステムは競争優位の核心を担っている。それにもかかわらず、経営幹部はM&Aの意思決定において、いまなお重要な要素を過小評価しがちである。すなわち、その買収が、獲得した資源や能力(人材、計算資源、インフラなど)を通じてどれほどの価値を生み出すのか、そして、より広範なエコシステム(アプリ開発者、データプロバイダー、エージェントプラットフォームなど)を通じてどれほどの価値を生み出すのかという点だ。この価値の源泉を明確に区別することは、買収候補を正しく評価するうえで極めて重要になっている。
デジタルエコシステムの出現は、従来M&Aで前提とされてきたシナジーの枠を超える、新たな価値創造をもたらした。伝統的なM&A研究において、買収とは、買い手企業が市場支配力を獲得するため、あるいは対象企業の知識や経営資源を内部化するために行うものと説明されてきた。この見方では、2社の資産、能力、業務を統合することでコストを削減し、競争優位を高め、あるいは単独で事業を行うよりも早いスピードで成長を遂げることが価値創造とされる。
しかし、デジタルプラットフォームの世界において筆者らが観察してきたのは、買収の判断が、エコシステム全体における開発者やパートナー、補完的技術との関係をどれだけ望ましい形に再構築できるかという動機に基づいて行われるケースである。
たとえば、2019年にカスタマーサービスソフトウェアのプロバイダーであるゼンデスクが、メッセージングプラットフォームのスムーチを買収した事例を考えてみよう。ゼンデスクにとってスムーチが魅力的だったのは、同社がワッツアップなどのメッセージングアプリや、セールスフォースなどのCRM(顧客関係管理)システムと統合されていたからだけではない。スムーチには、チャットボットや自動化ワークフロー、業界特化型アプリケーションを構築する開発者コミュニティがすでに形成されており、彼らの存在が、スムーチのプラットフォームを通じた企業と顧客のコミュニケーションのあり方を高めていたからである。スムーチを買収することで、ゼンデスクはこのコンプリメンターのネットワークへのアクセスを手に入れ、その結果、自社サービスの機能が拡張され、顧客に対する価値を大きく高めることに成功した。
学術誌『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』に掲載された新しい研究において、筆者らは、最適なM&Aの対象を見極めるためのエコシステムのフレームワークを構築した。その指針となる原則は、賢明なリーダーは「エコシステムシナジー」を達成するために買収を行うことだ。エコシステムシナジーとは、買い手企業と対象企業のエコシステム上のポジションを新たな形で組み合わせることで、統合後の企業とサードパーティのコンプリメンターとの関係を向上させ、そこから新たな価値を生み出すことを指す。
エコシステムは異なる原理で動く
そもそもエコシステムとは何であり、それはいかにして買収対象の評価手法を変化させるのだろうか。エコシステムは、単一の買収対象企業に留まらず、多様なプレーヤーを結びつける。それらの構成要素が互いに連携し、統合されて初めて、シナジーは十分に発揮される。買収を行う企業は、そのディールがエコシステムをどのように再構築するのかについて見方を改め、2つのエコシステムが融合した時に生まれる新たな機会を予測しなければならない。
3つのエコシステムシナジー
筆者らは、エコシステムシナジーを大きく3つのタイプに分類した。
強化
買収によって、エコシステムパートナーとの既存のつながりを強化できる。統合後の製品やサービスが、開発者やパートナー、その他のコンプリメンターの提供するものとより緊密に連携するようになり、ユーザー体験が向上する。これに応える形で、パートナーは新たな統合機能やアプリケーション、イノベーションへの投資を増やし、統合されたソリューションをさらに魅力的なものにしていく。ユーザー側も、エコシステムパートナーのサービスと統合企業のサービスを組み合わせる新しい方法を見出すようになる。
具体例を挙げよう。2018年、アドビは企業向けECプラットフォームのマジェントを買収した。この買収により、アドビのプラットフォームにコマース機能が追加されたが、それ以上に、マジェントを利用する加盟店向けに拡張機能やアプリケーションを開発する強力な開発者コミュニティがアドビにもたらされた。開発者たちは、アドビのクラウドインフラや幅広いツールを活用して、より信頼性と拡張性の高いアプリケーションを構築できるようになった。こうして開発者は、アドビの製品とシームレスに連動するアプリケーションを開発しやすくなり、マジェントのエコシステムパートナーとのつながりも強化された。結果として、顧客はより幅広い機能や高品質なツール、サービスを利用できるようになり、プラットフォームとしての魅力がさらに向上した。
誘引
買収によって新たな製品が生まれたり、統合後のプラットフォームとつながる新たな連携の形が生まれたりすることで、新たなエコシステムパートナーを呼び込むことができる。この場合、エコシステム内の補完的な構成要素そのものの「数」が増加する。








