事業売却に対しては、往々にして「雇用を売るのか」といった拒絶反応が見られる。売上げが減ることを気にする経営者も多い。しかし、そんな姿勢を続けてきた結果が、日本経済の低迷をもたらしたのではないだろうか。冒頭、日本の現場の強さに言及したが、弱いのはリーダーシップである。政府のことはあえて言うまい。経営者によるトップダウンさえ機能していれば、日本企業はけっして負けないと私は確信している。

 右肩上がりの時代、トップダウンなしでも企業は成長できた。しかし、いまや国内市場の成長は期待できず、海外でのダイナミックな事業展開が求められている。全体のために1部を犠牲しなければならない場面もあるだろう。そんなリーダーシップを持たない組織がこの時代を乗り切ることは、困難である。

 私自身、事業売却だけでなく、希望退職の募集というかたちで1度だけ雇用に切り込んだこともある。リーダーにしかできない苦い決断だが、多くの日本企業はそれを先送りしてきた。その結果が低い利益水準だ。多くの経営者にとって、雇用は便利な言い訳だったのではないか。

 雇用は大事だが、景気には波がある。この波を前提とすれば、雇用の増減は当然のことだ。そうした事態に備えて、日本を除く先進諸国は解雇条件やセーフティ・ネットなどのルールづくりを進めてきた。日本では「解雇はあってはならない」がスタート・ラインなので、ルールづくりに向けた議論が深まらない。