「雇用を守る」が投資の足かせになる
景気がよくなると社員を増やすが、景気が悪くなると人が余る。その受け皿として子会社をつくり、多角化と称して土地勘のない事業に手を出す。それは旧来型日本経営の悪しきサイクルである。
かつてのコマツもそうだった。私が社長時代に過去を断ち切れたのは、アメリカでの経営者としての経験によるところが大きい。1991年、私は合弁企業の社長としてアメリカに赴任したが、その重要な任務はリストラだった。4200人いた従業員を2600人に減らし、5つの工場の2つを閉鎖した。その過程で、私は2つの"非アメリカ流"を実行した。
1つは、2つの工場の全従業員に閉鎖の理由を説明したこと。アメリカでは不要とされるプロセスだが、私は「これがコマツの流儀だ」と断行した。
もう1つは、コマツが設立した1つの工場でレイオフを見送ったことである。5カ月間は7割程度の給料を払って、全員で草むしりをした。これには、古参のアメリカ人から強い反発があった。アメリカでは、新しく入社した者から順にレイオフするというルールがある。「昨日入ってきたようなヤツをクビにすればいいじゃないか」というわけだ。これもコマツ流儀と言って押し切った。
1つ目の判断はいまでも正しかったと思っており、コマツでは決算が終わると全従業員や販売店、協力企業の人たちに会社の状況をトップみずからが説明することを続けている。2つ目の判断は後に反省することになる。というのは、後に景気が拡大した時、「あの工場で社員を増やすと、不況になった時に困る」という意見が大勢になり、増産投資を他の工場に振り向けることになったからである。よかれと思ってしたことだが、長い目で見れば、工場の競争力を低下させていたかもしれない。いま日本じゅうの企業で起きているのは、そういうことだろう。